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カリスマ吸血鬼の森羅万象  作者: ネツアッハ=ソフ
2/12

吸血鬼になった

 「・・・・・・此処は?」


 「目を覚ました?シン」


 「・・・・・・・・・・・・」


 俺は街外れの廃工場で目を覚ました。何故、こんな所に?確か、昨日は・・・・・・。


 いや、そんな事はどうでも良い。昨日の夜、この廃工場で一晩リーンと語り合ったんだった。


 その後の事は良く覚えていない。きっと、途中で眠ってしまったんだろう。いや、やはりそれもまたどうでも良いんだ。問題は・・・・・・。


 そう、問題は———


 「・・・・・・・・・ふふっ」


 俺が、リーンの膝枕で寝ている事だ。リーンは穏やかに微笑みながら、俺の頭を撫でる。


 「何故だ?」


 幾ら思い返しても、思い出せない。・・・・・・・・・・・・・・・まあ、良い。


 俺は無理矢理思考を切り替え、起き上がる。そして、外の様子を見に———


 「あっ!?そっちは!!!」


 リーンが驚愕の声を上げた。そして、外に出た瞬間。


 「むっ・・・・・・ぐうっ!!?」


 俺の身体が、盛大(せいだい)に燃え始めた。燃え盛る炎の中、俺は思い出す。


 ・・・・・・そう言えば俺、吸血鬼になったんだった。


 ・・・・・・・・・


 昨夜、街外れの廃工場———


 俺とリーンは語り合っていた。話の内容は、たわいもない話から互いの身の上話にまで及んだ。


 どうやら、彼女は吸血鬼の始祖の直系に相当するらしい。吸血鬼の中でも、始祖の直系に当たる者達を真祖と呼ぶらしい。


 そして、リーンは数ある真祖の中でも特に血が濃い個体だとか。要は純血種なんだろう。


 純血種にして純粋種なのだろう。


 或いは、先祖返りの類なのかも知れない。


 しかし、良い事ばかりでは当然無い。それは同時に吸血鬼狩りの対象になりやすいという事でもある。


 教会による討伐隊は当然の事、好事家(こうずか)のコレクションとして狩られる事もあると言う。


 この時、きっと俺は彼女をかわいそうに思ったのだろう。それは、同情なのかも知れないが。


 だから、俺は思わずこう言った。


 「俺も、吸血鬼になってやろうか?」


 「・・・・・・え?」


 リーンはきょとんっと、不思議そうに俺を見る。俺は苦笑しつつリーンに手を差し伸べる。


 手を差し伸べ、出来うる限り優し気に言った。


 「俺も吸血鬼になって、お前の傍に居てやるよ」


 お前の傍で、寄り添ってやるよ・・・。


 「えっ・・・でも・・・それだと貴方も狙われる事に・・・・・・・・・」


 リーンは戸惑(とまど)った様な顔で、俺を見る。俺はそれを笑い飛ばす。


 「はんっ!!下らんな・・・。何時までも俺が傍に居てやるよ!!」


 「あっ・・・・・・」


 リーンの瞳が涙で(うる)む。そして感極まった様に俺に抱き着き・・・。


 「ありがとうっ!!!」


 その瞬間、首筋に鋭い痛みが(はし)った。意識が暗転する。


 ・・・・・・・・・


 そうだ!!俺は吸血鬼になったんだ!!


 と、言う事はこのままではすぐに灰になってしまう。慌てて俺は廃工場に引き返す。


 すると、日陰に入った瞬間に炎は消え、身体も綺麗(きれい)に再生した。


 俺は目を丸くして驚く。対してリーンはほっとした様に胸を撫で下ろした。


 「良かった。無事、吸血鬼になれたみたい・・・・・・」


 「そうか・・・・・・」


 俺は自分の身体を見て、眉をしかめた。傷一つ無い。そう、本当に傷一つ無いのだ。火傷一つ無い。


 さっきまで、あれ程盛大に燃えていたのに・・・・・・。俺の身体は怪我一つ無かった。


 俺の顔を見て、リーンは不安そうな顔をする。


 「やっぱり・・・怖い・・・?」


 「うん?何が・・・?」


 リーンを見ると、今にも泣きそうな顔になっていた。目尻には涙が溜まっている。


 何だか、俺が悪い気がしてくる。一体何だ?


 「いや・・・吸血鬼になった事が・・・・・・」


 「ああ・・・なるほど・・・」


 リーンは顔を(うつむ)ける。俺は、思わず苦笑した。


 どうやらリーンは、俺が人間を辞めた事を今更後悔していると思ったのだろう・・・・・・。


 俺が、自身の怪物性に恐怖したと思ったのだろう。・・・下らない。


 リーンの頭にぽんっと掌を乗せる。中々可愛い奴だ。


 「っ!?」


 「大丈夫だ。吸血鬼になった事に後悔は無いよ・・・・・・。俺が選んだ事だ」


 「本当に?」


 リーンは不安そうに、上目遣いで俺を見る。そんな彼女に、俺は不敵に笑って見せた。


 「本当さ。俺はずっとお前の傍に居てやるよ。何時までも、な・・・」


 そう約束したからな。そんな俺の言葉に、リーンはまた、瞳を潤ませる。


 がばっと、リーンが勢い良く抱き着いてきた。俺は何とか勢いを殺し、受け止める。


 「ありがとう・・・ありがとうっ・・・・・・!!!」


 俺に抱き着き、泣きじゃくるリーン。俺はそんな彼女の背中を優しく撫でる。そしたら余計に泣いた。


 俺は優し気な瞳で笑み、泣きじゃくるリーンに胸を貸す。


 今は存分に泣けば良い。泣きたい時は泣けば良いのさ。俺はそう思う。


 きっと、リーンは今まで孤独だったのだろう。だから、俺が傍に居てやる。


 ・・・しばらく後。正確には一時間近くが過ぎた頃。


 ぴりりりっ・・・ぴりりりりっ・・・・・・。


 俺の懐からケータイの電子音が響いた。ちなみに、リーンは泣き疲れて俺の膝の上で眠っている。


 「もしもし・・・」


 「もしもし・・・じゃねえ!!お前、今何処に居るんだ!?家にも帰っていないらしいじゃねえかっ!!」


 「あー、とりあえず落ち着けユウト」


 慌てた声でまくし立てる友人———(さかき)ユウトを俺は宥める。耳が痛い・・・・・・。


 「・・・・・・何か、あったのか?」


 「今からそれを説明する」


 俺は昨夜の事を懇切丁寧(こんせつていねい)に説明した。それはもう、事細かに・・・・・・。


 そしたら・・・。


 「はああっ!!!吸血鬼になったあ!!?」


 「うるさい」


 驚愕の声を上げるユウトに、俺はぴしゃりと冷静に突っ込んだ。我が友人ながら酷い慌てようだ。


 少しは落ち着けよ。全く・・・。


 「いや、そうは言ってもだな・・・・・・」


 「大丈夫だ。何も問題は無いよ・・・ユウト」


 「むうっ・・・・・・」


 尚も納得出来ない様子のユウト。俺はそんな友人を宥める様に言った。


 俺が選んだ事だ。後悔は無いし、全く問題も無い。だから、大丈夫。


 「問題無い。全部自分が決めた事だ・・・・・・」


 「そう、か・・・・・・」


 そう言い、ユウトははああ~っと深い溜息を吐いた。どうやら、ようやく落ち着いたらしい。


 「まあ・・・・・・お前がそう言うなら俺はもう良いよ」


 「ああ・・・・・・」


 「しかし、お前が其処までして入れ込むなんてな・・・・・・その吸血鬼を俺も見てみたくなったよ」


 そう茶化す様に言うユウト。思わず俺も笑ってしまう。ああ、そうかよ。


 「まあ、また何れお前にも紹介するよ」


 「そうしてくれ」


 二人して、そう冗談めかして言った。ケータイを切る。そして、懐に仕舞い。


 ・・・まあ、何だ。それよりも、だ・・・。


 「何時から聞いていたんだ?リーン」


 「・・・・・・最初から」


 どうやら、電話が鳴る音で半ば目覚めたらしい。何だか、リーンは少し不機嫌そうだった。


 若干頬を膨れさせ、俺を見上げる。その姿が、なかなか可愛い。


 「・・・・・・どうした?」


 「今の人は誰?」


 ああ、なるほど。・・・どうやらリーンは俺の友人に()いているらしい。


 余りに親し気に話していたからな・・・。俺は思わず笑ってしまう。


 「俺の友人だよ・・・・・・」


 そう言って、ぽんっと彼女の頭に掌を乗せる。すすっと俺に寄り掛かるリーン。その可愛い反応に、また俺は笑ってしまった。


 大丈夫と、そう言って俺はリーンの頭を撫でる。


 ・・・・・・少し、俺に依存(いそん)しているかな?


 まあ、仕方ないか。彼女は今まで孤独だったんだから・・・。思わず、俺は苦笑した。


 まあ・・・少しずつ彼女には与えていこう。きっと、それでリーンは救われる筈だから。

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