神父との決戦
「シン!!!」
物陰からリーンが跳び出し、俺に跳び付いた。その顔は俺に対する心配と不安に満ちている。
俺は苦笑してリーンを抱き締めた。リーンの温かさと柔らかさをこの身に感じる。
「大丈夫だ。俺は何処にも行かないさ・・・」
「シン・・・・・・」
「大丈夫、俺はお前を愛している」
そう言って、リーンを強く抱き締める。リーンも俺の背中に腕を回し、俺に抱き付く。
しかし、その時———
「ふんっ、中々見せてくれるな。化物ども・・・」
其処に、一人の神父が現れた。ああ、確かにこいつが残っていたな。俺は静かに身構える。
あの時の神父だ。あとはこいつだけだろう・・・。
神父もその拳を握り込む。こいつの拳法は中々厄介だ。それは、弱点を克服した今でも変わらない。
「俺の名は海藤シンだ。化物なんて名前じゃねえよ」
「・・・ヘンリー=レオンハートだ」
俺はリーンを背後に庇う。リーンが不安そうな顔をする。俺は大丈夫だと、視線だけで伝えた。
大丈夫。俺はリーンを遺して死にはしねえよ・・・。不敵に笑う。
瞬間、ヘンリーの姿が消えた。その直後、俺のすぐ目の前に神父が現れる。
一足飛びで一気に距離を詰めた。俺はそれを理解した。俺は腕をクロスしてガードした。
しかし、ヘンリーのそれはフェイント。がら空きになった腹部を殴り付けてくる。
「ぐっ・・・」
「シンっ!!?」
「ぐっ、があっ!!!」
俺はお返しにヘンリーに蹴りを食らわせる。しかし、それをあろう事かヘンリーは耐え切った。
「ふっ!!!」
「ごっ!!!」
ヘンリーの拳が、俺の顔面に炸裂する。
・・・其処からは、お互いに殴り合いの応酬だった。殴っては殴られの繰り返し。
「があっ!!!」
「ごああっ!!!」
互いに殴っては殴られ、殴られては殴って。しかし、それでも俺達は互いに殴り続ける。
もう、互いにボロボロだ。互いに肩で息をしている。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」
それでも、俺達は互いに構えを解かない。戦いを止めようとはしない。しかし・・・
「もう・・・やめて・・・・・・」
「「っ」」
リーンの震える声が、俺達の耳に届いた。
「もうやめてっ!!!」
ついに、リーンが叫んだ。その瞳には涙が浮かんでいる。
その泣き顔に、俺はぎょっとした。
「もうやめて・・・。お願いだから・・・・・・もう・・・」
「リーン・・・・・・」
リーンは俺に抱き付き、涙を流していた。その泣き顔に、俺の胸がずきりと痛む。
俺はリーンを抱き締めた。柔らかく、温かい・・・。
そんな俺達を見て、ヘンリーは白けたように溜息を吐いた。
「もう良い。白けた・・・」
そう言って、ヘンリーは踵を返す。
「もうお前達の許には来ない。もう、お前達とは会う事も無いだろう・・・」
「ああ、そうかよ・・・」
それだけ言うと、ヘンリーはその場を立ち去った。俺が意識を保てたのは其処までだった。
俺の意識は、其処で暗転した。リーンの泣き叫ぶ声が聞こえた気がした。
次回、最終話です。




