黒幕と戦った
都内にあるとある教会。その地下にある礼拝堂にて。
其処に一人の男が巨大な十字架を前に祈りを捧げていた。その男の顔には黒い笑みが浮かんでいる。
この男こそ今回の事件の黒幕、シオンだ。
「おお、主よ。我が悲願達成の為、私をお導き下さい!!この世に化物の居ない世を」
「それが、お前の望みか?」
俺は目の前の男、シオンに問う。シオンは凶悪な笑みを浮かべ、振り返った。その表情はもはや、あらゆるタガが外れていた。一言、狂気だ。
「ええ、私の両親は熱心な神の信者でしてね。そんな理由で、たったそれだけの理由で両親は化物どもに殺されたのですよ。ふざけているでしょう?」
シオンは言った。だからこそ、化物どもは生かしておけないと。狂気と憎悪の籠もった顔で。
確かにふざけている。それが事実なら、復讐に走る理由も納得出来るだろう。
・・・しかし。
「甘えるんじゃねえよ。それが、他種族を滅ぼす理由になるか。直接お前の両親を殺した奴に復讐するならそれは良い。俺は否定しない」
「・・・・・・・・・・・・」
だが、と俺は続けた。
「リーンや無関係な個人を巻き込むなら、それは到底許容出来ない。だから・・・」
全力で、相手しよう。そう、俺は宣言するように言った。
その言葉に、シオンの顔は明確に歪んだ。それは、憤怒の表情だった。
「煩い!!お前に私の何が解る!!!」
「解らねえさ。だから来い、受け止めてやるよ!!」
お前の全て、俺が全て受け止めてやる。俺はそう言って笑った。
瞬間、シオンの周囲を純白の炎が舞った。今なら理解出来る。これは、浄化の炎だ。
全てを浄化する、聖なる炎だ。離れていても肌を焦がす程の熱量がある。
・・・直後、白い炎が俺を包み込んだ。恐らく、並の吸血鬼なら一瞬で灰になるだろう。
それだけの熱量と聖性。
「はははははっ!!!燃えろ燃えろ、化物など燃え尽きてしまえ!!!」
地下礼拝堂を、シオンの哄笑が響き渡る。しかし・・・。
「・・・・・・こんな物か」
「は?」
俺は、掌を前へとかざす。それだけで、白い炎は掌へと吸収されてゆく。
アストラルドレイン。浄化の炎も、俺にとっては吸収可能なエネルギーに過ぎない。
俺は、シオンに薄っすらと笑みを向けた。
「もうお前も無為に恨むのは止めよう。他ならぬお前が疲弊するだけだ」
「くっ!!!」
直後、シオンは銀の短剣を取り出し、自身の胸に突き刺した。
シオンは血を吐き、崩れ落ちる。
「!!?」
「化物に屈服するぐらいなら、死を選びますよ・・・。Amen」
最後にそう言うと、シオンは静かに事切れた。俺はその死体を前に、初めて表情を悲しげに歪めた。
「・・・・・・馬鹿な奴だ」
俺は、只それしか言えなかった。




