迷い道
零零弐
この神社の宮司だろうか、正装とやらを着ていた。
「君はどうやって迷い込んだ?」
言葉を変えて聞いてきた。
「…山登りしてる時だ。」
「そうか、それならすぐに出れるだろうね。」
なに!?
「本当か!」
俺は男に近づいた。
「落ち着きなよ、準備しない事には脱出なんて不可能だよ。入んな。」
男は境内を指さす。
「あいにく、今は疑心暗鬼でな、知らない人間にホイホイついて行くほど、お前を信用してない。」
なるほどと俺は軽く手を叩く。
「私は出雲翠この神社の神主にして、神様だよ。」
はっはっはっ、神様か……は?
零零参
俺は霧の中にいた。
経緯について
その後も翠にご丁寧に自分の事を説明され、少しは警戒心を解き(ともあれ、自らの事を神と称するのはイカレてると思ったが)、境内の中に入った。
「よっこらしょ…っと。」
翠が地面に手をついた、何をしてるんだ?
…ッッ!?地面から扉が生えた。生えたと言うより、出現した。
「物を創造する能力、はい、これで帰れるよ。」
もう何を言われても驚くまい。
「何を言ってるんだ。こんな張りぼてで帰れるわけ…」
扉を開けると、’その場’と繋がっていた。
迷い込んだ時と同様に霧がかかっていたが。
…帰れるのか。
「なぁ、翠。」
「どうした?怖気付いたか?」
違う、ただの興味本位だ。
「もう少し、ここに居たいんだが、良いか?」
「君ならそう言うと分かってたよ。まぁ、君が望むならそれでいいんじゃないかな。」
…ムカつくな。
零零肆
後日談
俺は村に一件家を借り、住まう事にした。
村の人間も親切で食料を分けてくれる。逃げ出したのが申し訳ない位だ。
後から聞くと、あの神社は大昔に廃れ、廃墟になっていたようだ。
…じゃああいつは。
「あの子はいつ帰るんだろうな。」
どこからともなく飛んでくる視線を感じ、背筋が凍った。
━迷い道 完━