消えた彼女は何を思ったか
「本当にいいのかい?」
魔法使いは少女に尋ねる。
「いいの。だって、あたしなんて必要ないもの」
少女は答える。
その日、世界から一人の少女が消えた。誰に知られることもなく…
その少女はミーシャと言った。ミーシャは特別可愛い訳でも美しい訳でもないごく普通の少女だった。少し変わっていて、少し大人しいだけの。
ミーシャは、学校で陰口を言われていた。女の子の輪に入れず、1人でお絵描きや読書をしている変わった子だと。
それに加え、ミーシャは忘れ物が多く、勉強も苦手だった。
ミーシャは、学校では先生に叱られ、クラスメイトに陰口を言われ、家では両親に叱られて、すっかり自信をなくしていた。自分は、できない子なんだ。ダメな子なんだ。そう思うようになった。
死にたいと思うようになるが、死ぬ勇気もない。
そんな生活をしていたある日の夜、ミーシャは眠れず、窓を開けて星を眺めていた。
すると、魔法使いがあらわれた。
「こんばんは、眠れないの?」
「そうだけど、あなたは誰?」
「僕はね、魔法使いなんだ」
「魔法使い!?魔法使いって本当にいたんだ」
「うん、いるよ。みんなが気づかないだけで魔法使いは普通に生活してるよ」
「へぇーっ、知らなかった。お話の中にしかいないと思ってた」
「魔法使いと会ったことはナイショね。バレちゃうと大変だから」
「うん、分かった!」
「ありがとう。ところで、なんで眠れないの?」
「明日、学校に行きたくないの」
「どうして?」
「だって、陰口言われるし、勉強は好きじゃないもん…」
「そっかぁ、じゃあ、魔法使いさんがひとつ願いごとを叶えてあげよう!何でもいいよ」
「なんでも?」
「うん、何でも」
「じゃあ、私を消して欲しいの。私がいた証拠全て消して欲しい」
「それでいいの?いじめっ子を殺してでも、学校をなくしてでもなんでもいいんだよ?」
「うん、消して欲しい。もう、疲れたの…」
「分かった。今すぐは無理だから。一週間後の同じ時間に窓を開けて待ってて」
「分かった。約束よ?魔法使いさん」
「うん、約束するよ」
1週間後……
約束通り魔法使いは現れた。
「本当にいいのかい?」
「いいの。だって、あたしなんて必要ないもの」
「そっか。じゃあ、いくよ、さんにーいち」
一人の少女が世界から消えた。世界はそれでも続いてゆく。
消えた彼女は何を思ったか、それは魔法使いしか知らない。