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CM小説:赤と緑と白と青 篇

作者: 川里隼生

 オフィスの鍵を閉める。今日も一日よく働いた。世のサンタクロースはむしろ今からが始業なのか、などと考えていると、ある記憶を思い出した。

「サンタクロースなんていないよ」

 最初にそんなことを聞いたのは、確か小学一年生の冬だっただろうか。当時の俺はそれをすぐに否定した。サンタクロースがいないのなら、十二月二十五日の朝、大量のお菓子が突然枕元に出現した理由の説明がつかない。だが、クラスメイトは知ったような顔でこう話す。

「親がこそっと置いてるだけだよ」


「じゃあ、親がサンタクロースなんじゃない?」

 小学生の俺はそう言って、笑われた覚えがある。不可解だ。自分の両親を何の根拠があってサンタクロース候補から除外するんだ。パイロットと呼ばれる人が複数いるように、サンタクロースが一人とは限らない。後半は声が教室にこだまするほど、大きな声で反論した覚えがある。


 そういう捻くれた幼少期を送った俺は、意外にもと言うべきだろうか、普通の大人になった。小学校から中学、高校、大学と進む間に、普通の考え方しかできなくなっていった。おかげで就活中、自分の個性とは何かという問いに悩まされ続けた。無難に、平均に、常識で考えて、出る杭にならないようにと奮闘した学生生活だった気がする。ふと、ショーウィンドウに目線を移す。成長して失ったと思っていたが、街角のクリスマスツリーをバックに窓に写っている俺の顔には、ひかりを取り戻した目がついていた。


 さて、いつもならこのまま帰宅だが、今日はまだ残業が残っている。俺にとってのぞみに溢れた残業だ。顧客は四歳の我が息子。扱う商品は……明日の朝まで秘密。今年からは俺もサンタクロースなのか、と思うと、零時過ぎには雪に変わるという雨も何故だか暖かく感じる。コンコースで大きな紙袋を抱えた若い女性が、俺の横を走り抜いていく。プラットホームではこれまた若い女性が、誰かを待っている。家族が待つ家まで新幹線で二駅。現代のトナカイは、二千人ものサンタクロースを一度に運んでいた。

Christmas express.

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