This is the story that I will make it
『義体同調率、オーバー100。脳髄への負荷、0.001%。適応状態、グリーン。
自発活動炉心「永劫回帰」、及び自己複製機構「生命変換」、いずれも正常に復帰。耐久計測義眼「死告天眼」、数値の計測を開始。
対象者、リザ・ジョージア・イトーの再起動まで、3、2、1…』
メンテナンスハッチが重い音を立てて開く。
少し遅れて、私の眼が開く。
ああ、私は今日も生きている。
こんな身体になってもまだ、
—全身を義体に替えてもまだ、この私は生きている。
その喜びを感じながら、私は身体を起こす。
「おはよう…、いや、もう"こんにちは"と言うべきかな、リザ。」
目の前にあるのは見慣れた顔。
そう、私の唯一の知り合いにして、恩人でもあるこの男—ロン・リール・マクスウェル。
"生体工科学の権威"を自称している。…本当かどうかは分からないけど。
「はあ…、全く、あなたはいつもそうね、ドク。まぁ、その方が気楽でいいけど。とりあえず、"こんにちは"かしら。」
ハッチから降りながら、いつもの流れで合わせる。
それはもはや、"習慣"といったものに近い。
「うん、この私の無駄なこだわりに付き合ってくれてありがとう。…ところで、身体の調子はどうだい?ハード的にはどこも異常はないけど…。マリア、キミが診たソフトの部分はどうだい?」
彼が喋り掛ける。
私でもなければ他の人でもない、そこにある機械に対して。
『はい。各部データは先程申し上げた通り。また、その他のバイタル値も正常でございます。リザ様は、何か問題など、見つかりましたか?』
"マリア"と呼ばれた機械が答える。
なんでも、最新鋭のAIを搭載したメンテナンス・マシンらしい。
技術的特異点以後のAIの発展には、正直驚きを隠せない。
「そうね、特に問題はないわ。…あ、ドク。その無駄なこだわり、さっさと捨てた方がいいわよ。そろそろ所帯を持ってもいい頃合いじゃない。」
支度をしながら、私が訊く。
彼は見た目こそ若手の技術屋だが、その実年齢は四十をとっくに超えた、立派な"初老"なのだ。
普通の人なら、もう配偶者がいてもおかしくはない年齢だ。
「いや、私は持つ気などないさ。だってここにマリアがいるじゃないか。それだけで私は充分なのさ。」
…そういえば、そうだった。
彼は"機械"を愛しているんだった。
偏屈な彼らしい理由だ。
だけど、私には、それが理解出来ない。
この私ですら、
—全身の殆どを義体に替えた私ですら、残った"人間"の本能として、配偶者を求めているというのに。
…もっとも、それは許されないことらしいけど。
「…そう。まあいいわ。あなたの心配をしたところで、私の仕事が解決するわけじゃないもの。じゃあ、そろそろ行くわ。」
そう言って、私は研究所を後にする。が、
「へえ、今日は長居していかないんだ。普段ならもう少しゆっくりしていくのに。」
と、声が。
「悪いけど、あなたに構ってる暇はないわ。早急に片付けないと、後々厄介になるから。」
私は、振り向かずにそう答えた。
もう、二度とここへは戻って来ないという意思を示すために。
私は自分のために身体を義体化した。
私から全てを奪った管理局に復讐をするために。
私の大切な妹を取り戻すために。
—そして、自分が"生きていた"証を残すために。
「…はあ。全く、リザはホントに自分勝手だなあ。まあ頑張り給え。
そうだな…、こういう言葉を掛けてあげるべきだったかな?」
「—君の往く先に幸いあれ。」