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泣く女


 「……というわけで仲間になっていただけないでしょうか?(笑)」


 俺とエミは三人目の仲間候補であるイカリ君(前世の苗字が猪狩だったらしい)に、極力彼の機嫌を損ねないよう気を付けながら事情を説明した。


 「なるほど、是非協力させてもらうよ(怒)」

 「ひぃっ(笑)」

 「きゃぁっww」


 イカリ君が言葉を発する度に反射的にビビリまくってしまうが、どうにか彼の協力を取り付ける事に成功した。


 「僕も今生で意図せずに人から恐れられるのには飽き飽きしてたところだからね(怒)」


 今のセリフにはこれまで意図せず発していたのとは違い、本当に彼の怒りの感情が乗っていたのだろう。それまで以上に強烈に発散される怒気に当てられて、俺とエミはもはや悲鳴を上げる事もできやしない。


 「ああ、僕の能力についても説明しておくよ(怒)」


 まともに返事もできないが、イカリ君は他者のそういう反応に慣れているらしく一方的に話し始めた。ちなみに俺達の能力に関してはここまでの経緯を説明する過程で説明済みだ。


 『精神支配』

 『能力共有』

 『神の慈愛(怒)』


 説明を聞くだけで恐怖心から何度か意識が飛びそうになったが、この三つがイカリ君の能力らしい。


 『精神支配』

 これは名前からしてヤバそうな匂いがプンプンしているが、実際に相当ヤバイ。イカリ君の言葉を聞いた相手の精神に対して、精神にレベル差や精神耐性を一切無視して干渉する能力だ。レベル相応の耐性を有しているはずの俺や魔法によって精神防御が可能なはずのエミもコレのせいでさっきから生まれたてのチワワ以上にビビリまくっているというわけだ。ちなみに常時勝手に発動しているので解除はできないらしい。


 『能力共有』

 こっちの方はかなりまとも、それでいて相当に有効な能力だ。イカリ君本人と彼の支配が及んだ仲間達との間でなら、誰かが有する能力を他の誰かが使えるようになるというものだ。例えば俺がエミの『魔法大全』で魔法を使ったり、逆にエミが俺の能力を使ってレベルを一気に上げられるというものらしい。

 ところで、今生のイカリ君の身分はとある裏組織の跡取りというイリーガルなものなのだが、田舎の都市を縄張りに細々とやっていた組が、彼の誕生と共にどんどんと勢力を伸ばし、現在では国中の裏社会の大半を文字通り支配しているような状態なのだという。

 それだけ聞くと上手くチート能力を活用してこの世界で生きているように感じられるが、舎弟はおろか実の家族にまで恐れられるような生活にずっと心苦しいものを感じていたということだ。


 「これでも前世ではいじめられっ子だったんだよ(怒)」


 前世では園芸部に所属し、花と読書を愛するおとなしい性格だったらしい。顔立ちも今生の厳つい顔とは正反対の中性的な感じで、怒ったことなどないような人生だったという。……にわかには信じがたいが、怖いので口には出さない。


 『神の慈愛(怒)』

 これに関しては深く説明する必要はないだろう。俺の(笑)やエミの草と同じようなアレだ。


 「君達も苦労したんだね(怒)」

 「いえ、そんな滅相もない(笑)」

 「そ、そうですww 気にしないでwww」


 イカリ君が意図して怖がらせようとしているわけじゃないにしても、ついつい卑屈な対応をしてしまう。まともな会話が成立しないのは俺達も一緒だが、方向性が違うだけでこんなに変わるのか。





 「とりあえず、今後の方針を決めようか(怒)」


 『精神支配』のせいでイカリ君が何を言ってもノーと言えそうにないが、一応話し合いの体で今後の方針を話し合う。


 「まずはもう一人いるっていう仲間を探そうか(怒)」

 「異議なし(笑)」

 「あとは特訓だね(怒) 僕は自分自身のレベルは正直あんまり高くないし、神様と戦うのならレベル上げをしておきたいかな(怒)」

 「はい、私もそれがいいと思うわwww」


 話し合いは一瞬で終わった。

 というか、イカリ君の方針に逆らおうという意思が湧いてこない。彼が顔と身分に似合わない常識的な人間だったからいいものの、この状況は色々危険な気がする。


 まあ何はともあれ、四人目の仲間を探しに行くとしよう。


 ◆◆◆


 「あら、貴方達も日本人なの(泣)」


 次の仲間も色々と面倒臭そうな呪いを抱えていた。

 まあ分かってたけどね……。


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