Sig.Bazziniがよろしくと
「男性、32歳独身、プエルトリコ系、やや太め、表向きは自動車修理工だ。
名前は、カーメロ・アカバ。住所は・・・」
目の前のイタリア人は、机に置かれた書類を淡々と読み続けている。
書類を私に見せてくれればいいものを、威厳でも見せれると思っているのか、
もったいぶった口調でわざわざ読んで聞かせるのだ。
「・・・以上が標的の情報だ。
殺害方法の指定は特にないが、刺殺が好ましいみたいなことを言ってた気がする。
相手はデブだから、腹を刺すならそれなりの刃物を用意しておけ。
なにか質問は?」
彼の言葉を頭の中でもう1度再生し、気になるような点を探す。
すると、1点だけ思い当たった。
「デブだっていったが、あんた以上か?」
「いつも言っているが、口の利き方に気をつけろよ」
「基準にするのに都合が良かっただけで、他意はない。
で、どうなんだ?」
彼は顔をしかめて考え出した。その表情で「正しい」答えはわかる。
5秒ほど考えてから彼は答えを告げた。
「私のほうが少しばかり痩せている。
他には?出来れば、質問がなくても失せてほしいのだが」
「それじゃあ、お望みどおりにしよう」
部屋を出るために後ろを向き、ゆっくりと2歩歩く。
すると、急にイタリア人は私を引きとめた。
「ああ、待ってくれ待ってくれ。大事なことを忘れてた」
「そうだと思ったよ」
「仕留める前に、こいつを読んで聞かせてやってほしいそうだ」
2つ折りにされた紙を渡される。
中をみると、非常に短い文がきれいな字で書かれていた。
内容からは、カーメロがやばい人物を怒らせたのが察せる。
「他にはなにか?」
「いや、これで本当に全部だ。さ、行った行った」
露天商が冷やかしを追い払うよう時のように、イタリア人は退出を命じた。
一応部下であるため、文句は言わず、私はだまって部屋を出た。
部屋を出た先にはバーがある。
常連客とバーテンに軽い言葉をかけながら、そこからも出て行った。
扉を開けて短い階段を上ると、目の前には大通りとそれを走る無数の車が見える。
昼間とは違った明るさが街を包んでいて、時計の2つの針は90度をつくっていた。
道の脇の駐車スペースに停めてある自分の車に乗り込むと、
カーナビには触れず、助手席に放ってある地図を手に取り、哀れなカーメロの家を確認した。
ここから少し離れている。車で30分ばかしというところだろうか。
次に、グローブボックスを開けて中の物を確認する。
車検証、ライト、説明書、手袋、オートマチック拳銃、ナイフ2本・・・
2本のナイフのうち、収納式のほうを取り出して具合を見てみる。
悪くはない。完璧ではないがひどくはない。
「まあ、使えないことはないだろ」
懸念などないと、自分を納得させるためにひとりごちた。
ナイフをたたみ、グローブボックスに戻すと、
背もたれにもたれて大きくのびをした。
体を伸ばしきったあとに脱力すると、思わずため息が出る。
習慣というわけでもなかったが、仕事の前にはこうすることが多かった。
その後、しばらくボーっとしていたが、
やる気を起こすために、おもむろにコーラを手に取り、のどに一気に流し込む。
当然炭酸のためにむせてしまう。
だが、その後口をぬぐった瞬間になぜかやる気が湧き出し、
私はただの市民から殺し屋へと変わる。
ハンドルに手をかけたところで、なんとはなしにバーの入り口を見た。
イタリア人の腹が頭に浮かぶ。
試し切りだといって、あの男の腹を刺してやろうか。
いや、馬鹿な真似はよそう。
真っ当な仕事ではないが、まじめにやればそこそこ稼げる。
余計な事をすれば命に関わる。
ただ、なにもせずに行くのも癪だったため、
バーに向かって中指を立ててから出発した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カーメロの家は、市の北のほうにある公営団地だった。
ほんとうになんでもない団地で、そこそこの町ならどこにだって同じのがあると断言できるほどに、
ありふれたつくりだった。
ただ、周りの様子は、決して珍しくはないが少し特殊で、
柄の悪い黒人やヒスパニックがうろうろしていた。
車を止めて、グローブボックスを再び開く。
手袋、ナイフ、拳銃を取り出し、手袋はすぐに嵌め、
ナイフは上着の懐へ、拳銃は肩掛けのホルスターへしまった。
車を降りて、入り口へと向かう。
その間、周りからは癪に触る目で見られ続けた。
こういうところにいる黒人やらなんやらは、具体的な理由なく、
白人に対して常に反感を持ち、白人とみれば攻撃的な目をし、
その白人が弱弱しいサラリーマンだったりしたら、実際に攻撃する。
そんなふうに誰かが言っていたのをふと思い出した。
あの時は差別的だと思ったが、今では案外的を射ていたように思えてくる。
入り口の前に広がる公園のような場所を抜け、いよいよ中へ入ろうとしたところで、
実に耳障りな声に邪魔をされた。
「おい、白いの」
声のほうをみると、大柄の黒人が壁に寄りかかって立っていた。
がたいのいい男で、ボクシングかなにかやっていそうだった。
「なんだ、黒いの」
「ここは肌の白い奴は立ち入り禁止だ。とっとと失せろ」
「ほお、そんな決まりがあったのか。
市長は人種差別に否定的な見方をしていると思ってたんだが」
「はっ、市長なんぞくそくらえだ。
とにかく、ここは俺たちのシマだ。
本来なら、てめえみたいな奴がここにいるだけでも許せねえが、
今俺は機嫌がいいから特別に許してやる。
ほら、早く失せな」
あんまりにも上から物を言われ、さすがに腹が立ってきていた。
「あんたらの規則があるのはわかったが、そいつは俺への拘束力はないだろ?
気分を害するだろうから悪いとは思ってるけど、通してもらうよ」
黒人の言う事を無視して入り口を通ろうとすると、
顔にやたら硬い物がぶつかってきた。
大柄の黒人が、鈍器と言っていいような握りこぶしで、
私を思いっきり殴ったのだ。
「ごちゃごちゃうるせえんだよ。
いいか、ここじゃおれが規則だ。
市が許しても、俺が許さなかったらだめなんだよ。
わかるか?あ?」
地面に倒れた体を起こしながら、私は返事をした。
「・・・悪いが、あんたと違って学校に通ってたんでね。
あんたのいってることはむちゃくちゃで分からんよ。
俺は、ここは誰でも通っていいと聞いてるんだ。だからそいつに従うよ。
ところで、今更だけど、まさかあんたみたいのが学校に通ってたなんてことはないよな?」
黒人の目が怒りで血走り、握りこぶしはより堅くなった。
彼は、前のめりになりながら私に警告した。
「いいか、次はねえぞ。
今すぐここから出て行きなくそ野郎。
出てかねえと臓物をぶちまける事になるぞ」
大きく、怒りで震え、覇気を持った怒鳴り声だった。
それ対し、嘲笑の笑みを向けながら私は言い放った。
「やってみろよ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カーメロの部屋は、ずいぶんと上のほうにあった。
運よく1階にいたエレベーターにのり、23階を押す。
扉が閉まると、途中で止まることもなく、一気に23階に到着した。
エレベーターを降り、最後の確認をする。
ナイフの刃を確かめ、拳銃の薬室に弾があるかを見る。
最後に、イタリア人から受け取った紙を取り出し、伝言を確認する。
10秒ほど眺めて、頭に文字をしまいこむ。
それを終えたら、紙を懐にしまいながら歩き出した。
エレベーターホールを出て右に曲がり、次の突き当りを左に、
その通路の置くから3番目の、派手なペイントの施されたドア、
その先に奴は住んでいる。
懐からナイフを取り出し、右の袖に隠す。
呼吸を整え、セールスマンなどがよく見せる笑みを顔に作る。
背筋をぴんと伸ばし、ネクタイを少し直す。
仕上げに、ドアチャイムをゆっくり押した。
決まりきった音が扉の奥から聞こえてくる。
音が消えてから5秒ほどして、カーメロ・アカバは現れた。
無用心にもドアを全開にして、全身をこちらにさらしていた。
「あんた、だれ?」
イタリア人の上司よりも少しだけ「痩せた」ヒスパニックの男が、
ぶっきらぼうで、明らかに見下した言い方で問いかけてきた。
それに対し、私はなるたけ丁寧に返答した。
「夜分遅くに申し訳ございません。
失礼ですが、カーメロ・アカバ様でよろしいでしょうか?」
「そうだけど?で、あんた・・・」
「あんた誰?」再び癪に障る調子でそういう前に、彼の喉にナイフをあてがった。
カーメロにとっては、あまりにも突然のことであったろう。
それまで恭しい笑みを浮かべていた男に、急にナイフを突きつけられたのだから。
彼は徐々に事態を把握していき、同時に恐怖で顔をゆがめていった。
「あ、あんた・・・」
恐怖からの大声をだそうとしたとき、彼の口を私の手が覆った。
なにかうーうーいっていたが、何を言っているのか分からなかったし、興味もなかった。
ただ、先程まで私を見下していた男の顔が恐怖に染まっていくのは、
相手に対する優越感を感じるためか、悪いものではなく、
もう少しこいつで遊びたい。そういう危険な欲求が私の中に現れ始めていたが、
すぐに我に返り、これが仕事だと言うことを思い出した。
そして、私は彼に伝言を伝えた。
「シニョーレ・バッツィーニがあんたによろしくと」
イタリア人(私の上司とは別人である)の名を聞いた瞬間、
カーメロの顔は言葉で表しがたいほどにゆがんだ。
しかし、彼がそれ以上恐怖を感じる事はなかった。
喉の左側面に、ナイフが突き刺さったからだ。
「あが・・・」
極めて小さな断末魔の声を上げると、彼の体はがくがくと震えた。
しかし、それはほんの少しの間のことで、すぐに脂肪や骨の塊に成り果てた。
それがカーメロ・アカバの最期だった。
私はナイフを引き抜いて、ハンカチで軽く拭いた後、たたんで懐に戻した。
その後、念のため脈のないのを確認し、あたりを点検してからその場を立ち去った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
エレベーターで1階に戻ると、入り口に人だかりができていた。
なにをみているのかは人が多すぎてわからない。
警官がきていて、聞き込みをされないかが心配になったが、
幸いまだパトランプの光も見えなかったし、人だかりのなかに制帽もなかった。
そっちのほうへいって、注目の的を見てみる。
人を集めていたのは、先程のでかい黒人だった。
「なにがあったんだい?」
近くに居た、人の良さそうな老人に声をかけた。
「ああ?なあにいつものことさ」
「いつものことなのに、こんなに人が集まるのかい?」
「まあな。普段調子にのっていきがっとる若いのが、
こうやってだらしなく伸びとるのをたまにみるのが、長生きの秘訣だしな」
集まっている住人達をよく見ると、ほとんどが老人だった。
幾人かの老人というほど歳をとっていないのも、全員気の弱そうな奴ばかりだった。
「あんたなんだろ?」
「なにがだ?」
「カールをやったやつだよ」
「どうしてそう思う?」
「いつもここに突っ立って、白人が入ろうとすると騒いでるやつがこんな風に伸びてる上に、
白人のあんたが中からでてきた。あんた以外にいるかい?」
「なるほど。だが、こうは考えられないか?
こいつが居眠りをして、なんかの拍子に倒れて、頭でも打って伸びちまったのかもしれない。
そして、私はその間に中へ入った。
なんにせよ、警察が来ないと本当のところはわからないさ」
「そうかね。だったら、すぐにわかるだろうよ」
そういった老人の視線の先を見ると、1台のパトカーがやってきていた。
降りてこちらに向かってくるのは、アジア系と黒人の警官だった。
「ご老人、あんたがなんといおうと私は・・・」
「ここで白人なんてみないよ。
昨日も見なかったし、今日も見なかった。
明日もどうせ見ないだろう」
「なら、私がここにいるのはおかしいな」
そういった後、老人の服のポケットに紙幣を何枚か突っ込んだ。
「こいつがあると仕事の会計が合わなくてね。それだけだよ」
「そうかい。なら、こいつも人助けだ」
警官がこちらに到着し、大男に注目している間にその場を抜け出した。
そのまま車に戻り運転席に座ると、助手席に放ってあるタバコの箱をつかんで、そこから1本取り出した。
口にくわえて火をつけると、煙が団地のほうへ向かっていく。
それをおって団地を、さらにいうと、23階と思われる辺りを見上げる。
老人は明日も白人を見ないといったが、おそらくみることになるだろう。
それも、1人や2人ではなく大勢。
ここまで考えたところで、私はグローブボックスを開け、
懐のナイフと、ホルスターの拳銃を元に戻した。手袋ははめたままにした。
それから前を向きハンドルを握る。
アクセルを踏むと車が発進し、徐々に速度が上がっていく。
いつもの速度になってから数秒で、私は殺し屋からただの市民へと戻った。
初投稿
現状の能力だとどういう評価を得られるのかの実験作。
二次創作ではないけどいろいろな作品からセリフはパクってるか。
まああれだ、リスペストってやつだ・・・たぶん。




