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第1話 目覚め、愕然とす

投稿3回目。


 俺、遠山直人とおやまなおとは前世の記憶がある。

 それは、俺にとって始まりであり、終わりの物語。


 俺の前世は勇者だった。

 俺の転生し(うまれ)た世界とは違う、全く違う世界。ユーラシア大陸をカイトシールドに近い形に変えて、島々がずらりと、猫が丸くなった時の尻尾のように大陸の周りに存在している。そんな形の世界。

 ライトノベルを読んでいるうちに分かったのは、俺のようなタイプの勇者は通称、生誕勇者と呼ばれるものだってことと、俺の前の代の勇者のほとんどが召喚勇者で、そしてそのほとんどが日本から来た者たちだってことだ。

 俺が勇者として世界に選ばれたと知ったのは、一人の天子がが舞い降り、「ようやく、この世界に英雄が産まれた」って言われた時だ。

 俺はその日から一周間も経たずにして王国イーリリンから迎えが来て、城に行くことになり、魔王討伐を命じられた。


 人生のほとんどを修行に費やし、テンプレの出会いと別れの日々を送り、ついに魔王討伐を達成した。


 だが、それは俺の望んだ結果ではなかった。

 俺は元々、農民から突然勇者になった男だ。所詮平民でしかない俺からすれば、命が消えていくのは耐えることができなかった。




 あと少しで、平和条約が結ばれるところだった。

 メリットも、デメリットも申し分ない。互いに利益のあるものだった。

 後、一歩だったのに。



 結果として魔族達の国ファンムーゲンは各国から侵略の手が伸び、彼の国から領土を奪っていった。

 尊い命が消えていくのを処刑台のある奴隷市場から見た俺は、国の境界線のある所に、一つの溝を作った。

 更にファンムーゲンの大都市を中心とした大部分に最終防衛線として俺は結界を貼り、その世界から消えた。



 気がつけば、遠山家の三男として転生し、前世からしてみれば平穏な毎日を送っていたのに。


 サリエルのやろう、今度会ったらしばき倒してやる。


「あはは、絶対に会う気はないよ」

 サリエルの声が聞こえ、周囲に意識を向ける。だが、わずかに気配が感じられるだけで索敵は困難なようだ?


「残念だけど、そんなことをしても見つけることなんて出来ないさ。なんせ、ヴァルハラにいるからね」

 ヴァルハラ? たしか、戦死者の墓とかなんとかっていう。


「そうそう。正確には転生の館。誕生の城っていうんだけどね。それにしても君、よくもやってくれたよね」


 あ? 召喚魔法に関してなら、自業自得だろ。


「それもだけど、それとは別。君がかけてきた呪いのことについてだ」

 呪い? なにを言っているんだ。


「いやだから、僕の召喚魔法を吸収したあげく、色々と弄ってお返ししてきたじゃないか」


 あぁ、確かに。

 あの召喚魔法は強力だったから、吸収して消化しようにもしきれないと分かった。

 だから嫌がらせとして不必要なものを大天使サリエルにぶつけたわけなんだが。

 呪いについては、全く身に覚えがない。


「あれ? もしかして無意識……いや、これは」

 しり窄まっていく声。ブツブツとなにを言ってるのか分からないが、考えにふけられてはこっちも困る。



 なあ、お前はあいつら……八坂と先輩をどこに召喚する気だったんだ。


「もう、考えの邪魔しないでよ。それと。どこに召喚されるのかは……あ、迎え来たよ」

 うざったそうな声が聞こえたと思えば、そんな言葉が吐かれる。


 もうそんな時間なのか、答えるつもりはないのか。


「そういうこと。でもさ、君にとっても縁のあるところっぽいよ」



 何?


「ほら、お話は終わり。こっちも迎えが来たから。切るね」

 バイバイと、その言葉を最後に何も聞こえなくなった。


 迎えが来ていると言っていたが、そんなものは、辺りを見渡しても見当たらない。


 しかし。変化はあった。

 後ろから眩い光が放たれ、同時に温かいものが心を埋めていくのを感じた。

 目がつぶれないよう手をかざしながら、光の方へと振り向きく。

 その光の中央に誰かが立っている。


 身長は俺が175センチなのだが。それよりも高く、男のようにも見え女のようにも見えるその容姿の人物は手をウェルカムとでもいうようにこちらへ向けてきた。


 体が、熱い。

 焼きつくようなものではなく体の奥からあふれ出してくるかのような。そんな感じ。


 光の中の人が微笑んだ気がした。



 そして。



 ——おかえり。



「っ!」

 そんな声と共に、俺は目が覚めた。

 反射的に体を起こしその声の主を探す。



 周りにはや椅子、それと棚の三つが目に入っただけだった。

 しかし、その三つの家具からめが離せない。

 俺は三つしかない家具の方へと向かい、観察する。 そして、使われている材料に驚く。


「ディザルトツリーの、それも入手困難な若木で作られているだと? それにファフニールの龍皮とか、贅沢な。この椅子と棚に使われている材木はタイタンフォレストのものだし。高級なんてレベルじゃ」



 待て、何故俺はこれらを知っている。

 どれもこれもが、俺の住んでいた世界では存在しない代物ばかりだ。

 だが、俺はこの家具に使われている材料の名前を理解出来た。


 君にとって縁のあるところだよ——。


 サリエルの言葉が脳をかすめる。


「……帰ってきたのか」

 手で目を覆い、天を仰ぐ。

 まさか、サリエルの召喚しようとした先が前世の世界だったなんてな。

 つまり聖女というのはマリアのことか。八坂が召喚されずに済んで良かった。


 ……。

 そういえばこの机、やけにデカイな。椅子もそうだし、天井も。

 というか聖女って……つまり。


 慌てて自分のアレを見た後、それが幻覚ではないことを確かめた後、ふぅと安堵の息を漏らす。



 よかった、()いてた。ナニとは言わないが、その存在は確認できた。


 だが、そこでさらに疑問が深まってしまった。

 ナニにモジャモジャがなかったのである。

 俺のマグナムも、まるで若返ったかのように……。




 若返った。




 …………。




 俺は指先に魔力を込め、まるで銃を撃つような動作をしながら詠唱ことばを言う。


「『写せ』」


 空気中の水が一人分開けた先に集まり、徐々に形を整えていく。

 


 それは輪郭だけでなく、自身の今している服装も作り出し、そして、目の前にもう一人の俺が現れた。


 長年切っていなかったかのように長く、艶のある黒い髪。ゴムでくくられておらず重力に逆らわず下へと下ろされているその髪の奥には、とても幼い顔からすれば、不釣り合いな目つきの鋭さがあるが、なぜか不自然とも思えない二つの目。

 そしてなにより、それより下の胴体。

 小さく、細い。少女のような腕や足。ぽっこりとした子供のようなお腹。


 そう、子供。その姿に見覚えは、ある。

 これは俺の幼い頃の容姿にとても似ている。いや、それそのものだ。それが目の前に立っている。


 ただ、その場合。

 つまり俺は。


「嘘だろ」


 その輪郭が出来つつあった時からまさかという考えが的中していたとは。

 しかし、なぜこうなってしまったのだろう。いや、理由は分かっている。



 サリエルの使った召喚魔法に、見逃しがあったのだろう。でなければ幼い容姿になるなんてこと、ありえないのだから。

 いや、まあ確かに幼いということは更に長生き出来るから良いんだけどさ、召喚されてこれだと、威厳とかどうするつもりなのだろうか。

 いや、幼ないころから徐々に力をつけろという意味でこうなったのかもしれない。

 だけどさ、なんでよりにもよって小学校入学当時の姿なんだよ。


 女みたいだから上級生に舐められ、イラっときてボコボコにしたせいで周りから距離を置かれたあの黒歴史時代のところまで退化してんの! バカなの!? 死ぬの!?


 …………。

 いや、冷静に。とりあえず冷静になろう。


 どこのどいつが召喚魔法なんぞ行使したのかは、今こちらに近づいてきている気配に聞けばいいだけなんだから。


いつもの癖で索敵の魔法を放っていたおかげでその存在には気づけた。一人のようにも思えるが、もう一体。小さな生命がいるようにも思える。



 次第に、ヒールが床を叩く音が聞こえその音は俺のいるこの部屋へと近づいてきた。


 構えはとらない。この見た目だからな、警戒するのはどうかとも思うし、あれから何年経っているのかすら分からない。各国の情勢は?

 知らなければいけないことが、沢山ある。

 最悪頭の中を覗けばいいだけだが、本当に最悪なときだけだ。


 コンコン


 扉がノックされ、俺は使用していた水を大気中戻した。



「失礼します」

 そう言って入ってきたのは、メイド服を着た一人の少女と獅子の胴体をもつ鷹、グリフォンの子供だった。


 二つのおさげを揺らしながら、紅い瞳が俺を捉える。


「あ、起きられたんですね。魔王様」


 その目は一瞬大きく開き、しかし次の瞬間には細められ、顔に笑みが作られていた。




「……はい?」

次回は一週間以内に投稿致します。


また、プロローグを二つ、後々追加する予定ですので、投稿致しましたら活動報告に書き込みます。

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