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砂漠の迷宮





迷宮の壁は壊せない。それはこの世に循環するエネルギーにより、広がろうとする悪意が押し固められたような物だからだ。

母体という意味で魔王たる迷宮が押し返せない世界と拮抗するための壁は、そこから生まれた魔物にだって壊せないし、迷宮自身にも壊せない。


勿論人間にだって、壊せない。もし仮に迷宮の壁が壊れたならば、迷宮はそこから魔物の群れを解き放つし、迷宮の中ならばそこは悪意の異界が産まれてしまうからだ。

まあそもそも、ドラゴンが大暴れしてもびくともしない迷宮の壁を、どんな力やどんな魔法で壊すのか、ということでもあるが。


だから人間は迷宮の入口から迷宮に入るしかないし、迷宮も何とか作り上げた口から人と漂う悪意を吸い込むことしか出来ないのだ。


そして迷宮の入口は、生物と悪意を逃がさぬように出来た弁の様なもので出来ている。

潜った以上、ここから出るには人類が開発した魔法である転移、もしくはそれが込められた魔法具が必要な訳で。


無理やりに通れ無い訳では無いのだろうが、それは迷宮と協力して世界を巡るエネルギーを押し返し、迷宮の弁を壊すということであり、

そしてなにより地上に魔物を解き放つということと同義である。


つまりまあ魔物を溢れさせるつもりもなく、便利な魔法も使えない俺はこの先、この迷宮を攻略するしかここから出る方法は無いという訳だ。


「まあ、元より戻るつもりもないけども」


軽口を叩きつつ、迷宮を進む。

砂漠の迷宮というだけあって、砂を固めたような白い道だ。天井は高く、十メートルはあるだろうか。


通路と言ってもそれはあの神の気まぐれの選定の時の様な狭さもなく、横幅も十メートルはあるだろう。


しかし直線距離はそこまで長くない。十メートル四方の部屋をテトリスの様に繋げて作られた道といえばいいのだろうか。


「それだけでかい奴がでてくるってことだよなぁ」


迷宮の通路の広さは、その迷宮にでてくる魔物がどの程度の大きさなのかを図る一つの物差しでもある。

もっとも、群れでくる魔物もいる為それが全てではないのだが、それでもこの通路の大きさはこの世界の迷宮において、あきらかに異常である。


「警戒に越したことはねーな」


迷宮に身を投じてから、急速に接合されていく自分にはなかった感覚が、この程度なら楽勝なのだと告げてくる。

事実、楽勝なのだろう。そういう風に俺はされたのだから。だけど、それでも付き纏う自分ではない自分の感覚の違和感は、未だ不安として心にしこりを造っているのも、また事実。


そんな風に考えながら歩いていると、気配を感じた。それは匂いだったり、悪意だったり、魔力だったりする、全ての感覚。

ぞるぞる、と。そんな異音が耳にもつく。迷宮を歩き始めてまだ五分といったところだが。ひしひしと感じ続けている悪意の気配に、担いでいた大斧をしっかりと握りしめる。

曲がり角のその先に、何かがいるのだろう。


いや、何かではない。魔物がいるのだ。


果たして、ぞるり、と。曲がり角の先からやってきたのは、巨大なミミズだった。てらてらとその身を粘液にひたしたそれは、俺の世界のミミズそのものである。

勿論、ただのミミズではない。


持ち上げればその身体は天井についてもまだ余る程の、大きく、太い、アナコンダも逃げ出す様な巨大ミミズだ。そして何よりも特徴的なのは、その顔にあいた大きな穴だろう。

人間五人ぐらいならば纏めて飲み込んでしまえそうなその大きな暗い口は、否応なしに強大な威圧感を放っている。


そして速い。俺とミミズの距離は優に六メートルはあったはずなのに、その差を一瞬で縮めてきた。


しかし、同時に。やっとといっても言いのだろう、俺は比較対象が現れたことでようやく自分のスペックに納得することが出来たのだ。

だからその動きも、力強さも、まるで足りないのだと叫んでいた感覚に、ようやく俺は噛み合った。


今この瞬間、このミミズが果てしなく弱く、遅い相手だということを理解する。


ふ、と一呼吸入れ、渾身の力を込めて大斧を振り下ろす。

羽の様に軽くしてあった大斧を瞬間的に最大まで重くし、一呼吸で地面から返し、三度振る。


一太刀目で顔を両断する。悲鳴をあげそうなその顔を、二太刀目で首ごと落とす。それでもぱくぱくとしていた口が目障りだったので、三太刀目で落ちた首を地面に叩き潰す。

あっけなく。それだけで巨大ミミズはその身体を蠢かせる事もなく、そのまま光となり溶けていった。


この光こそが循環すべきエネルギーであり、俺の体にも多少は巡り、俺の魂と肉体を強化してくれるのであろう。


後に残ったのは、明らかに毒毒しい色をした内臓の様な物。魔物の遺品、曰くドロップアイテムである。

もしもここに鑑定の魔道具や魔法でもあれば名前もわかるのだろうが、当然俺にはわからない。

正直初めての獲物としてはちょっと捨てていきたい代物なのだが、これを売って生計をたてていくのが探索者である。

それに迷宮に放置しておけばそこに悪意が宿り復活するかもしれない、というのもある。


少しだけ悩んだが、結局俺はその内臓を斧の先端で掬い上げ、慎重に魔法の腰袋へその毒袋を投げ入れた。


これは斧や鎧と共に最初から渡されていた、しかしこちらの世界にも一応存在するアイテム。マジック・ポーチだ。まあ要するに四次元ポケットである。

時間が止まり、腐ることはなく、中で入れた物が混ざり合うこともない。本家と違うところと言えば、生物は入れない事と、内容量が有限であるということだろうか。


ただ、俺が今着けているこれに限って言えばその内容量の枷はない。まあ一人で迷宮を落とせって渡されてるんだからむしろそうでなくては困るところだ。


もっともマジック・ポーチ自体、遠い過去の遺産であり、現在は開発できないオーパーツの様なもので、普通の探索者は魔物の遺品用に大小様々な布袋と採取用の手袋を大量に確保しているのが常道なのだが。


なのでこの先魔物の遺品を売る時は、布袋を買ってそこに遺品を詰め替えてから売らなければいけない訳でもある。

まあ、マジック・ポーチの中に二か月分は暮らせる食糧と水、そしてそれとは別に二か月は何もしないで暮らせる程度の金銭と身分証まで入れておいてくれたのだから、文句は言うまい。


言い換えれば、二か月はこの迷宮の攻略にかかると暗に言われているような気もするのだが、そこは気にしないようにしておく。


「と、そういえば見ていなかったな」


俺は知識の中だけで完結し、実際に手に取ってみていなかった事を思い出し、身分証を取り出してみる。


これはまあパスポートの様な物であるのだが、流石は異世界、と言っていいのだろう。手に取るだけで現在の自分を反映して、情報を写してくれるのである。

だが、そこに映った情報に、俺は思わず眼を瞑ってしまった。なんということだろうか、これはひどい。ひどすぎる。




名:コーヤ・ユーキ  位階:5


職業:旅人


賞罰:無し


称号:<強靭:S><達人:S><算術:A><多国籍言語:S>(4) 


国籍:ネオマーレ




「……見なかったことにしたいなぁ」


名前はいい。この世界でちょっと珍しいかもしれないが、苗字は貴族のみが持つ、なんて世界でもない。

位階もいい。これはどれだけエネルギーを取り込んだかという一つの強さの目安であり、5という数字は迷宮に数度潜った程度の人間の数値である。

職業も、賞罰だって構わない。旅人といえばなんとでもなるだろうし、罪だってこの先犯すつもりもない。

国籍も、まあネオマーレがどこかはわからないから問題がないか不安といえば不安だが、探索者になれば国籍なんて関係ない世界である。だからこれも問題ない。


問題は、称号である。

これはカードを作成した国家においてそれぞれ基準が違うのだが、その国家で定められた各技能の平均的な値をDとし、所持者の技能を評価するものである。

D以下の技能は一般的な教養や手習いである為、たとえば足し算しか出来ないような人間がいたとしたらその者の算術はEやFとなり、カードに表記されない。


つまり、平均を超えた何かしらの技能を習得している場合、それらが称号として表示されるのである。


何が言いたいのかというと俺はネオマーレという国の基準において、

強靭Sという位階が100を超える様な伝説の中にしかいないような英雄を超える強靭さを誇り、

達人Sという世界に十人もいない達人技能を持っている各種戦闘のエキスパートの中でSというトップランクにいて、

なおかつこの世界のほぼ全ての言語を話せるような人間であると書かれているのだ。位階5というルーキーであると共に、だ。


まあ位階自体は問題ない。この悪意の温床となった砂漠の迷宮をたった一人で攻略するのだ。終わるころには中堅からベテランぐらいの位階にはなるだろう。


算術Aもまあ、それなりの商売をする人間なら持っていてもおかしくない称号だからいい。だが、他は全てが全て不味い。


そもそも強靭や達人自体、普通ならば表示されない。


強靭というのは文字通り身体の強さを表す称号であり、それはCですら探索者が持つ肉体強化やら、身体硬度やら、異常耐性やらの、身体に関わる全ての技能がAを超えた場合にのみ表示されるものだからだ。

達人技能を持つ世界に十人もいない彼らでやっと強靭Cを所持する人間が数人いる程度である。まあそもそも強靭Sなんていうのはお伽噺に出てくるような称号なのだし、当たり前なのだが。


達人称号にも頭が痛い。これは斧術など自身の戦闘技能をSまで極めた上で、更に肉体操作や危険察知といった戦闘に関わるあらゆる技能がAを超えていて初めてCとして表記される称号である。

まあこれはまだ、なんとかなる方なのかもしれない。少なくともいない訳ではない称号なのだから。……Sの時点で何の慰めにもならないが。


普通ならばこの称号欄は、もっとごちゃごちゃしていなくてはいけない欄なのだ。

こんな風にすっきりした称号欄というのはありえない。


ベテランの探索者ならばそれこそ文字が潰れる程の多様な称号を掲げているし、探索者でなくても自分の生業に関わる称号が十はつく。


「それがこんな風に纏められてちゃ、隠すこともできないじゃないか……」


称号は勿論、といっていいのかどうかはあれだが、隠すこともできる。それ以外の欄は国の検問において絶対に表示しなくてはならないが、称号は別だ。

特に持っていることで手の内をばらすことになってしまう傭兵やら、見せることで舐められてしまう商人もいる訳だし。


だが、表示されていない数、というのもわかってしまうのだ。


つまり俺が問題のある称号を全て隠してしまった場合、


称号:<算術:A>(+3)


となってしまう。


一般人ですら十はある称号が、4つである。この時点で大分舐められてしまうのだ、なんて劣った人間なのだと。

かといっていっそのこと開き直って表示したらどうなるか。


お伽噺の再来である。まず達人を持つ者は基本的に所属国家の召し抱えとなり、尚且つその国家から出てはいけなくなる。勿論様々な報酬があるが、その分堅苦しい義務も存在する。

達人とは戦略級の人材である。三国志、というよりも無双の方の呂布レベルの逸材と言えばわかりやすいだろうか。それゆえに制限やら何やらがかかってしまうのだ。


ならば算術Aと多国籍言語Sのみを表示してはどうだろうか。とも考えたが、結局の所Sなんて物をだせば達人でなくても同じことである。

拘束の内容が武人と文人で変わるだけだ。


この世界に連れてこられた俺は確かに強くされ、言語においても全人種と話せるようにされているが、それだけにこの迷宮を攻略し終えた後は、自由気ままに生きてみたいと思っている。

無論それに飽きたなら達人として召し抱えられるのもありかもしれないが、少なくともそれは今は嫌なのだ。


だが話を戻せば称号を隠せば舐められるだけではなく、探索者どころか他の職業ですらまともに雇ってもらえないだろう。

そもそも探索者は戦闘に関わる称号を登録時に何か一つ提示しなくてはなれない。


しかし達人という称号がある限り、例えば俺が魔法を習得したとしてもそれは戦闘技能として全て纏められ、達人として表示されてしまうのだ。

ちなみに魔法を習得していない、というのは達人と矛盾しない。

魔法とはこの世界では剣術や弓術といったカテゴライズであり、達人に必要な魔法感知や魔力操作などは俺は出来るようにされているからだ。

つまり魔法を例え極めようと、魔術師Sという称号がでることはなく、それもまた達人に含まれてしまうという話である。なんともかんとも救われない。


達人、強靭という上位称号がある限り、戦闘に関わるどんな技能を習得しようとそれが表示されることはない。

しかし戦闘技能を見せなくては探索者になれない。

しかししかし、達人だろうと強靭だろうと見せたら最後、探索者にはなれない。


要は、現状が完全に詰んでいるのである。ゲームオーバー。なんということでしょうか。

頭を抱えたくなるが、しかし楽しく生きると決めたのである。諦めたくない。



「……しかしなぁ……こうなったら諦めて達人を表示するか? いや……」



何か抜け道はないものか。と、考え唸っていた所で気配を感じる。これは、さっきと同じミミズだろう。数はまた一匹だな、と。

そこまで考えた所で俺に天啓が舞い降りた。


「そうだ、その手があったか!」


俺は荒ぶるテンションに身を任せ、先ほどは使わなかった魔力を全身に流し込み、ミミズを刹那で細切れにした。

また出た毒袋をいちいち大斧で掬うのも億劫なので、即座に素手でマジック・ポーチへ毒袋を投げ入れ、そのまま完全に強化した肉体で迷宮の爆走を開始する。


途中、二階層へ向かう階段も見つけたが、完全に無視し、そのまま出会うミミズや紫色の巨大なサソリを纏めて大斧で薙ぎ払い、落としたアイテムをポーチへ突っ込みながら、ひたすらこの階層のミミズとサソリ達を殺しまくる。


そう、称号には技能だけではなく、もう一つ種類があったのだ。

それは成し遂げた者に贈られる、今の俺でも習得できる称号。


即ち、種族虐殺。


迷宮には種類があり、そこで生み出される魔物というのも迷宮毎に変わってくるが、それでも共通項を持つ魔物というのはいる。


それらを国は一つの種とし、どれだけその魔物を倒したかというのを称号表示してくれるのである。数は千。なるほど確かに多い、だが。


「この迷宮には、いま魔物が溢れかえってる!」


視界にとらえる大部屋に蠢くミミズとサソリの群れを見やる。奥が霞んで見えないあれらを駆逐するだけで、<称号:ワームキラー>に<称号:スコーピオンキラー>は取れるだろう。


この迷宮が何階層あるかは分からないが、最低でも百階層はあるはず。

そして、その中で被りがあろうと一階層に魔物は二~五種はいるはずだから、どれだけ少なく見積もった所で称号十個なんて軽いものである。

それにドラゴンやリッチならば単体を殺しただけでキラーの称号が付くのだから、どうやったってキラーの称号は複数取得できるはずだ。


さらに、この手のキラー系は統合がとてつもなくされ辛い称号だ。


仮に虫系の最上位、<称号:インセクトジェノサイダー>を得ようと思ったならば、確認されている全昆虫系の魔物をそれぞれ万単位で殺さなければならない。


いくら一年放置されていようと、一種が万を超え、かつその系列が全て存在する様な迷宮なんて有り得ない。何故ならそれだけの数が溢れかえれば、

迷宮の壁は溢れた悪意により破壊され、どんな人間も昏倒するような階層が産まれ、入口の弁すら魔物の体積で圧迫され、破壊されてしまうからだ。


そしてそうなっていない今、俺はどれだけやっても構わないということでもある。

そもそもコアを破壊するならばこの迷宮の魔物を全て倒してしまわなくては、結局地上に魔物を溢れさせることになる。それではまるで意味がないのだ。


最初から、俺はこの迷宮全ての魔物を倒すつもりでいるのだし、これは本当、渡りに船。もしも神様がここまで考えてやっていたのなら底意地悪いこと甚だしいが、まあそれは流石に邪推かな。

息を軽く吸い込み、魔物の群れへこの身を投げる。大斧を薙ぎ払う度に霧の様に光が舞う中、俺は急速に強化される肉体に身を任せ、魔物を殺す台風となった。


結果、俺は全二百十階層の迷宮の全ての魔物を一日で倒し尽くし、ダンジョンコアを破壊したのであった。







名:コーヤ・ユーキ  位階:54


職業:旅人


賞罰:無し


称号:<強靭:S><達人:S><算術:A><多国籍言語:S> 

<スライムキラー><ゴブリンキラー><オーガキラー><サイクロプスキラー><ワームキラー><スコーピオンキラー><ビーキラー><スパイダーキラー><グールキラー><スケルトンキラー><ヴァンパイアキラー><リッチキラー><デュラハンキラー><バットキラー><マウスキラー><ラビットキラー><ホースキラー><ミノタウロスキラー> <シープキラー><ゴートキラー><バードキラー><フロッグキラー><リザードキラー><スネークキラー><ハーピィキラー><ゴーレムキラー><デーモンキラー><ドラゴンキラー>(32) 

 

国籍:ネオマーレ



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