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  幕間 保安官の休日〜クレイ・ソウル視点 その参

 今日も無事に一日を終えた。数年続けて飽きてきた仕事だが、最近はやりがいがある。なんといってもエレメンタルブレイカーがいるからな。

 あとはあの四人の中から英雄を選んでくれりゃあ万々歳だが、まあ迷ってんなら様子を見よう。とにかくトイチには一日でも長くいてもらいてえ。ヤツがいるってだけで街は繁盛するし、妙な輩は近づかねえ。ありがてえことだ。


 そう思って礼拝堂へ帰ると、長老こと義父が真っ青になりながら俺を出迎えた。

 めずらしいな。いったいどうしたってんだ。

「トイチ様がいない」

 俺は目を見開いた。そりゃ真っ青にもなるてぇもんだ。こっちも心臓が止まりそうになったぜ。

「あっちへ行ったんじゃねえか?」

 あっちとは異世界のことだ。だが義父は額に汗して首を横にふった。

「水晶をのぞいてみたが、そのような形跡はない……ニセモノがやって来たのだが、それとは無関係だろうか」

「ニセモノ? 性懲りもねえな。で?」

「拘留してある。いずれヒューマン領土へ送検せねばならんだろう」

「どうして。ニセモノの処分はこっちでしていいはずだろ?」

「連中は王宮から盗んだイチの値の四大元素を持っていた」

「なんだって?」

 てえことは、トイチがその事実を知っていなくなったんじゃねえのかってことか? おいおい、だとしたらマズイだろ。もし王宮へ厳重注意しに行ったとすりゃあ、アール・ラ・ジェイドに会わねえはずがねえ。

 いや待てよ。トイチのことだ。はなからアール・ラ・ジェイドに会うのが目的なんじゃねえか? 王宮へ行く口実を手に入れ嬉々として出かけて行ったに違えねえ。俺は大賛成だが、義父の立場を思うと諸手をあげてってぇワケにはいかねえな。

 俺は頭髪をかきむしった。

 めんどくせぇなあ。だから妙な小細工するなって言ったんだ。正々堂々と勝負してりゃあ良かったんだ。

 しかしトイチのやつ、やっぱり気づいてやがったか。英雄候補があいつらだけじゃねえってことを。そりゃ自分がエレメンタルブレイカーだって認めるわけにゃいかねえよな。こいつだと思って捕まえるまでは問うことができねえっていうルールがあるかぎり。……うまいこと考えやがったな。

 勇者どもは最終試練をクリアしたつもりでいるが、そうじゃねえ。トイチが首を縦にふるまでゲームは終わらねえんだ。まあ初っぱなからルールなんざ守られてねえけどよ。だからトイチ自ら英雄を求めたって誰も文句は言えねえ。

「長老、こりゃあ負けだぜ。エレメンタルブレイカーを欺くことなんかできゃしねえ。諦めるんだな」

 俺が尊敬していた義父は一瞬ふるえて愕然とし、弱々しく膝を屈して両手を床についた。


***


 ショックじゃねえって言えば嘘になる。だが義父ほどの男でもエレメンタルブレイカーには振り回されるんだ。それだけヤツの存在は大きい。

 俺は礼拝室の大きな窓の桟に腰かけ、星空を眺めた。

「やってくれたな、カワナミ・トイチ。俺ぁもう以前のように長老を見れなくなった。初めて見たぜ。あの男が誰かに負けるのを」


 それから二週間後のことだ。アール・ラ・ジェイドがエンブレムを手にしたという話を人づてに聞いたのは。

 エレメンタルブレイカーが英雄を選ぶように、秘宝石は主を選ぶ。これは当然の結果だ。だがそれを許せない者が存在するのも事実だ。王子と三銃士は失望と恐怖と怒りに打ちのめされていた。

「トイチは俺たちに報復するだろうか」

 宿直室にやってきて気弱に尋ねてきたのはトール・ジェイドだ。

「なんで俺に聞く」

「トイチはおまえを信頼しているようだった」

「知るかよ。だが報復なんて物騒なことはしそうもねえ。無視はされるかもしれねえけどな」

「王宮へ様子を見に行ってくれないか」

「はあ!? 自分で行けよ。実家だろうが」

「今アルの顔を見たら、俺は何するか分からない」

「けっ、どっちが物騒なんだか。これだからヒューマンは」

 トール・ジェイドは厳しい視線を向けた。

「これだからヒューマンは……なんだと?」

 俺は大きく息を吐いて座っていたベッドから立ち上がった。

「野蛮だってえ言うんだよ! さんざん策を巡らせたあげくテメエの思いどおりにならなかったからって誰かを逆恨みしてりゃあ世話ないぜ!」

 怒鳴った勢いで襟首もつかんだ。俺だってやりどころのない気持ちでいっぱいだ。敗者となった勇者を慰めてやる余裕はねえ。

「いいか。おまえらは長老も巻き込んで今回のことをしでかしちまってる。自分から責任取ろうって言うのが筋ってもんだぜ。それをなんだ。結局テメエの身の上だけ心配してんのか。最低だな」

 トール・ジェイドは俺の手を振り払った。

「最低で結構だ。俺は自分だけがカワイイ。別にアルがエンブレムを勝ち取らなくても、殺したいほど憎んでいた。その想いが強くなっただけのことだ」

 俺の言葉なんざまったく応えていない様子で、ヤツは背を向け部屋の戸の前に立った。そして、

「だが、おまえがトイチのお気に入りなのは納得した」

 と言って出て行った。

 ……お気に入りねえ。それが本当ならラッキーだが。

 なにはともあれ呑気にはしてられねえ。ティターニヤもタイムリミットが近づいている。英雄が定まったのなら、さっさと呼び戻してフェアリーケージを購入する前に解決しちまいたいところだ。ヒューマンめ。カゴ一個に法外な値段ふっかけやがって。


 ティターニヤに兆候があらわれたのは二年前だ。義父はもちろん、シャーリーも俺もどんなに絶望したかしれない。フェアリーケージシンドロームなんてケッタイな名前がついたこの厄介な病を治せるのは、エレメンタルブレイカーしかいねえんだ。俺たちは、ヒューマンが作った慈悲なきカゴに閉じ込めるよりほか能がねえ。

 わかるか? トイチ。おまえしかいないんだ。俺たちを救えるのは結局おまえしかいねえんだよ。情けねえ話だけどな。だから帰って来い。英雄でもなんでもお望みのものが手に入ったんなら、早く帰って来てくれ。

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