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さよなら、ダニー。

作者: 空野 翔
掲載日:2026/01/24

 カルフォルニアの内陸、セントラルバレーの少し北側。広大なローリングヒルズが広がる田舎町。夏は黄金色の草原が風に揺れ、点在するオークの木が影を落とす。冬は霧が深く、遠くのシエラネバダの山々が雪を被る。俺たちの町は、そんな風景の中にポツンとある小さなコミュニティだ。


俺の名はジャック、42歳。独身で町のガレージを営んでいる。古いピックアップトラックを直すのが仕事だ。

親友のダニエルこと、ダニーは41歳。妻のエミリーと11歳の娘のサラ、8歳の息子のトミーと、丘のふもとのランチスタイルの家に住んでいる。ダニーは地元の牧場で働いている。牛の世話をしてミルクを搾り、フェンスを直したりと、朝から晩まで大地と向き合う男だ。

俺とダニーの友情は子どもの頃からだ。学生時代に一緒に、ピックアップの荷台に座りジュースを飲み、2人一緒に寝転がって星空を眺めた。ダニーはたまにギターを持ってきては、好きなフォークソングを弾き語る。俺はただ聞いているだけでよかった。あの声と笑顔が、俺の人生のアンカーだ。


数年前、ダニーの咳が急に止まらなくなった。最初は単なる風邪か、小屋の埃のせいだとみんな思っていた。牧場の仕事は塵だらけだ。

でも、医師の診断は違った。肺がんだ。それも遅れて発見された進行形。ステージは3。治療はしているものの、完治の見込みは薄い。時間の問題だ。

ダニーはこんな状態でも笑って、俺にこう言った。

「なぁジャック、俺は運がいいよ。こんな素敵な家族がいて、お前みたいな最高の友がいて」って。


それからの日々は、ダニーは家族との時間を大切にした。エミリーは仕事を減らして、なるべくそばにいるようにした。サラにはギターを教え、ポーチで一緒に歌う。トミーとは庭でキャッチボールを。ダニーの投球はだんだんと弱くなるけど、トミーの目は輝いていた。


俺は毎週末に、ダニーの家になるべく行くようにした。ピックアップの荷台に座り、昔みたいに2人で話す。人生のこと。子どものこと。夢のことなど、いろいろ…

「ジャック、お前もそろそろ家族を持てよ」ダニーは言う。

「お前みたいに、いい人生を送れねーよ」俺はこう返す。


それから少しして最後の秋、ダニーは俺を呼んだ。家のベッドから丘が見える部屋で。

「約束してくれよ、ジャック。俺がいなくなったら、エミリーや子どもたちを見てくれよ。特にトミー。あいつ、俺みたいにわがままになるからな」

俺は頷いた。ただただ頷いた。言葉が喉に詰まり、ちゃんと声にならなかった。

ダニーは最後に弱々しく笑った。

「さよなら、ジャック。お前は俺にとって、最高の相棒だよ」


次の日の夜。ダニーは家族に囲まれて静かに逝った。

葬式は町はずれの小さな墓地で。丘が背景に広がる場所。町の人たちが集まった。

サラがダニーのギターで、あいつの好きな曲を弾いた。トミーはお気に入りのグローブを棺にそっと置いた。


俺は約束通り、ダニーの家族のそばにいる。エミリーを手伝い、子どもたちにギターや野球を教える。

ピックアップの荷台に座ると時々吹く風に、ダニーの歌声が聞こえる気がする。


さよなら、ダニー。


この広大な大地のように、お前との思い出は永遠に続く…


ありがとう、ダニー…


―終わり―


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