第七十八話:開かれた世界
「……おはよう、ファル」
「おはよう、サラ」
優しく、慈しむように。
まるで、魂に語りかけるように。
ファルの声が、朝に溶けていく。
「誕生日、おめでとう」
――そう。今日、私の誕生日だ。
「……ありがと」
祝われて嬉しいのに、どうしてだろう。
涙が溢れて止まらない。
胸の奥が、痛い。
けれど、それは悲しみだけの痛みじゃない。
「ファルは……どこにも行かないよね」
「――ああ。ずっと傍にいると、約束した」
少しの間。
その言葉が胸の奥で、何度も何度も反響する。
分かってしまった。
“傍にいる”という約束が、永遠と同じ意味を持たないことを。
それでも私は、頷いた。
そうしなければ――きっと、心が壊れてしまうから。
朝の光が差し込む。
ファルの影が、私の影と重なって、ひとつになる――
――黒い瞳に映る私の涙は、ファルの頬を伝う。
「――嘘、下手だね」
ファルの綺麗な瞳はこんなにも近いのに、鼻先に伝わる温もりが、どこか遠い。
「じゃあ、その嘘も――嘘にしよう」
「約束?」
ファルが優しく私の涙を拭いながら微笑んだ。
「ああ――約束だ」
これは――私とファルが、2人でで決めた初めての約束だ。
この約束が、世界を――壊す。
――あの朝の約束が、どんな世界を開くのかを、私はまだ知らなかった。




