番外編:灰の空の下で―リシェリが見上げた空―
第三章終盤の裏側。
サラの友人であり、宮廷魔術師だったリシェリ・エルンスト。
彼女が選ぶ道はサラと交わるのか。
『サラ・フェルディナンド及び同行している魔術師の捕縛』
その任務は異例中の異例だった。
騎士団、魔術師団、そして――教会魔術師。
三者が同じ標的のもとに集うなど、これまで一度もなかった。
私は、その一報を聞いたとき、胸の奥がきゅっと痛んだ。
「サラ……ちゃんと逃げたよね……」
昨日、最後に会ったとき、私は彼女に言った。
「……逃げて」と。
宮廷魔術師としては、完全な職務違反だ。
でも――あの子の友達としては、それしかできなかった。
「お前、顔色悪いぞ。……大丈夫か?」
同僚のルーファスの声に、私は軽く笑って誤魔化す。
サラが見ていた“外の世界”を、私は一度も見ようとしなかった。
あの子は怖れながらも、ちゃんと前を向いていたのに。
指先で、ポケットの中の小さな青いリボンを握りしめる。
それは昔、サラがふざけて結んでくれたものだ。
「似合ってるよ」――あの笑顔が、まだ目に焼き付いている。
「サラのこと、心配か?」
不意に、ルーファスが小声で聞いてきた。
黙って頷いて見せると、少しだけ笑みを見せてきた。
「……俺もだ。あいつ、まっすぐすぎるからな」
その言葉に、思わず顔を上げる。
彼も、知っていたのだ。
サラがどんなに不器用で、どんなに優しかったかを。
「俺は……たぶん、従えない」
ルーファスが、誰にも聞こえないような声で呟いた。
空は快晴。
まるで、任務に赴く私たちを祝福しているかのように。
でも、私には――どこまでも暗い空に見えた。
「リシェリ・エルンスト、配置につけ」
上官の声が響く。私は深呼吸をして、頷いた。
――見つけても、私は撃たない。
誰にも聞こえない声で、そっと呟く。
風が頬を撫でた。
その瞬間、世界がわずかに軋んだ。
空気が震え、地平が揺らぐ。
まるで割れた鏡が何百枚も重なり合うような光景。
誰もが息を飲み、その“亀裂”を見つめていた。
その中を、たった一筋の蒼い光が走る。
それは東から西へ――まるで導かれるように。
私は、思わず呟いた。
「……サラ」
その光が、西の空に溶けていく。
きっと、あの子は――その先にいる。




