表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の約束〜滅びの約束を越えて〜  作者: はる
杯と蛇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/109

第六十八話:風の名を呼ぶ

帝都を包んだ“幻想”が明ける。

サラとファル、それぞれの胸に残った想いを抱えながら――

新たな旅路へと踏み出します。

ファルが創った幻想の世界から抜けたのは、

帝都を出て半日ほどしてからのことだった。


「うわ……なんか、すごい」


振り返った先――

帝都全体が、薄い水の膜のような光に包まれていた。

朝の陽を反射して、まるで巨大な泡の中に閉じ込められたように見える。


「これ……いつまでこのままなの?」


「あと半日もすれば元に戻る。

 ……しばらくは、騎士団も魔術師団も教会も――事態の収拾に追われるだろうな」


ファルの声は穏やかで、どこか愉快そうだった。

まるで悪戯が成功した子供のように、

わずかに唇の端を上げて笑う。


私は思わず、その横顔を見つめた。

この数日だけで、彼がこんなにも多くの表情を見せるようになったことが――

なんだか、嬉しかった。


「これで、ゆっくりフェリシアに行く余裕もできただろう?」


暫くは戻れない。

だから、気を使ってくれているのだと分かる。

ファルは、ずっとひとりで生きてきた。

だから、私が家族や友人を思う気持ちを、

きっと誰よりも尊重してくれているのだと思う。


嬉しいのに、胸が軋んだ。


「……ありがと」


きっと、笑顔を返すことが正解なのだろう。

けれど――うまく笑えている自信がない。


ファルは少しだけ目を細めたが、何も言わずに微笑んでくれた。

その優しさが、余計に胸を締めつけた。


「さあ、時間が勿体ない――」


ファルのよく響く指笛が、晴天の風を裂いた。

それを合図に、二頭の馬が姿を現す。

初めてフェリシアへ向かった時、

私たちを運んでくれた、あの子たちだ。


「なんか、久しぶり……またよろしくね」


フェルのローブと同じ、艶やかな黒。

普段はどこにいるのか分からないが、

しっかりと手入れされた毛並みの滑らかさに、思わず手を滑らせたくなる。


「ずいぶんとサラを気に入ってるみたいだな」


大人しく撫でられている馬を見て、ファルが感心したように呟いた。


「そうなの?……うれしいな」


思わず顔が綻び、馬に頬を擦り寄せると、優しく返してくれた。


「名前、付けてやるといい」


名前がないことが、少し意外だった。


「いいの?」


「ああ。サラに付けてもらえば、そいつも喜ぶ」


「……名前……か」


そっと馬の首筋を撫でた時、目が合った。

その瞳は深く、静かに光を湛えていた。


「リュミエ……変、かな?」


少し恥ずかしそうに呟くと、

馬がひとつ鼻を鳴らした。


「気に入ったみたいだな」


ファルの小さな笑い声が、風に溶けて消えた。

その風が頬を撫で、晴天の光がゆっくりと二人と二頭を包み込む。


「ファルが乗ってる馬は、名前、あるの?」


問いかけると、ファルは一際優しい笑みを浮かべ、

そっと馬の首を撫でた。


「……アズル」


その優しい呼び声に、アズルはファルにすり寄った。

まるで、彼の孤独を取り払うように優しく。


「さあ、行こうか」


ファルがアズルに跨り、私はリュミエに跨る。


黒の魔術師は蒼に、

蒼の魔術師は黒に乗り――


振り返らず、まっすぐ進む。


思い出も、友も――置き去りにして。


馬の蹄が乾いた道を打ち、青く澄んだ空の下を、私たちは――フェリシアへ向かっていた。

静けさと優しさの中で見せたファルの笑顔は、

きっとこの物語の“転換点”になるはずです。


次回、第七十話――

再度フェリシアへ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ