番外編:サラとリシェリ〜宮廷魔術師の2人〜
サラとリシェリがまだ2人で魔術師団にいた頃、二人は何をしていたのか。
番外編で少しだけお見せします。
帝都の夜は静かだった。
訓練場の灯が落ち、石畳の道にだけ月光がこぼれている。
「今日も、ヘトヘトだね……」
ため息混じりに笑ったリシェリの隣で、サラは杖を肩にかけたまま苦笑した。
「ルシアン隊長、また途中から本気出してたもん。あれはずるい」
「ふふ、サラが真面目に受けるからだよ。手を抜けるようになれば一人前って言うでしょ」
「それ、褒め言葉になってないよ」
二人の声が夜風に混じって、塔の壁に反響する。
昼間の緊張が解けるこの時間だけが、彼女たちにとっての“自由”だった。
塔の屋上へと上がる階段を登り切ると、帝都の光が一望できた。
整然と並ぶ建物の屋根、その上を滑るように流れる雲。
そして遠くで淡く瞬く、街の灯火。
「……ねぇ、サラ」
「ん?」
「もしさ、宮廷魔術師じゃなくなったら、どうする?」
唐突な問いに、サラはきょとんとした顔をした。
「うーん……考えたこともないな。だって、ここが私の居場所だし」
リシェリはうっすら笑ったが、その瞳の奥にはかすかな不安が揺れていた。
「……そうだよね。サラは強いから」
「リシェリだって強いよ」
「え?」
「泣き虫だけど、人の気持ちを誰より分かる。そういう強さって、魔術より大事だと思う」
言葉を返そうとして、リシェリは俯いた。
頬を撫でた夜風が、淡い金髪を揺らす。
「サラだって泣き虫じゃん……。ねぇ、サラ。あんた、誰かのために魔術を使うこと、怖くない?」
「怖いよ」
即答だった。
「怖いけど、たぶんそれでも使う。だって――」
サラは手の中の杖を見つめ、ゆっくりと言った。
「いつか自分の力で、誰かを救えるようになりたいから」
その横顔を、リシェリはじっと見つめた。
月明かりに照らされたその表情は、真っすぐで、少し眩しいほどに強かった。
(――あぁ、きっとこの子は行ってしまう)
言葉にはならない予感が胸を締めつけた。
けれど、彼女の夢を否定することはできなかった。
「……だったら、私も隣で支えるよ」
「うん、ありがと。リシェリがいれば、きっと怖くない」
二人の視線が交わる。
その瞬間、塔の上の風がやさしく流れた。
蒼い灯が遠くで瞬き、帝都の夜が静かに包み込む。
――あの夜、二人は確かに同じ夢を見ていた。
互いの光を信じて、未来を恐れずに。
だが、その“蒼き灯”が二人を再び照らすのは、
もう少し先の話になる。
次回本編に戻ります。




