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黒の約束〜滅びの約束を越えて〜  作者: はる
揺らぐ真実

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第六話:森に呼ばれるように


硬い机をはさんで、三つの影が座していた。


ルシアン隊長、魔術師団長ヴァルター公爵、

そして純白の法衣をまとった――教会司教アウレリウス。


沈黙は刃のように冷たく、

空気が一つ鳴るたびに、胸の奥が縮む。


最初に口を開いたのは、隊長だった。


「サラ・フェルディナンド。

 精霊の森で見聞きしたことを、すべて話せ」


その声に、喉が凍る。

言葉が宙で霜となり、落ちて消えた。


沈黙を裂くように、隊長が問いを変える。


「二度の調査――いずれも“黒い魔術師”に遭遇した。それで間違いないな」


「……はい」


「二度目は捕縛を試みなかった。では一度目は?」


「……短時間ですが、戦闘がありました」


その瞬間、司教の手が机を叩く。

乾いた音が、部屋の空気をひび割らせた。


「古代魔術を見たのか!」


怒声が光となって空気を裂く。

彼の瞳には、燃えるような憎悪が宿っていた。


「い、いえ……魔術は見ましたが、下級魔術でした。

 古代魔術を知らないので、判断できません」


「本当にか?」


「……はい。私たちの魔術と変わらないように見えました」


また、嘘を吐いた。

心が軋む音がした。


実際には――違う。


ファルの魔術は、現代魔術の理から逸脱していた。

生成の一瞬。密度の奔流。

そして、私の結界さえ光に還した。


それは、杖も詠唱も存在しない“別の何か”だった。


質問が続く。

できるだけ、彼に触れないように答えを選ぶ。

それでも、逃げ道は徐々に細くなる。


「その黒い魔術師――黒髪に黒い瞳。事実か?」


「……はい」


「黒の意味を知らぬのか」


「……色に、意味が?」


ヴァルター公爵は答えず、低く続けた。


「最後に――名を聞いたか」


室内の温度が一度下がった。


言わなければ不自然。

言えば、何かが終わる。


「……ファル、と名乗っていました」


空気が止まり、部屋の空気が凍る。


司教が立ち上がった。


「それは本当か!」


「偽名だと思っていましたが……」


「偽名ではない! 忌まわしき名だ! “邪龍”――あの災いの名だ!」


怒号が天井を震わせる。

団長が無言で合図を送り、私の腕に拘束の魔力が絡む。


「必ず――あの邪龍を討つ!」


司教の声が、炎のように背を焼いた。



---


懲罰ではない。

連れて行かれたのは、静寂を抱いた独房だった。


石の壁。魔力封じの腕輪。杖はない。

冷気だけが、私の存在を確かめていた。


(邪龍……ファルが……?)


彼は人だった。

光に包まれ、森に祝福されていた。

どうして――“災厄”と呼ばれるのだろう。


時間は眠り、世界は曖昧になる。

食事の回数だけが、時の名残。


それでも、後悔はなかった。

彼を守ったことも、沈黙したことも。


「……また、会いたい」


無意識に落ちた言葉が、空間を震わせたそのとき――


――カチャ。


錠前が開く音。

見張りの姿はなく、気配もない。


(……罠?)


考える前に、身体が動いた。


廊下は静か。

足音も、灯も、影もない。


帝都の街に出ても、風がない。

空気すら存在しないのではと思うほど。


夜の門は、開いていた。


迷わず駆け抜ける。

足が覚えている――あの森へ。



---


夜明けを越え、息が白く散るころ。

精霊の森が、視界に戻ってきた。


帝都は遠く。

戻る道は、もうどこにもない。


(それでも……行かなきゃ)


風が葉を揺らし、森がひとつ、呼吸する。

その息づかいが、私の名を呼ぶ。


「……サラさん」


木漏れ日の中。

金糸を織り込んだ黒のローブ。

その中心に、光を縁どる黒い瞳。


「また、会いましたね」


微笑むファルの声が、朝の空気に溶けていく。


そして私の胸の奥で、

何かが静かに――還った。

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