表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の約束〜滅びの約束を越えて〜  作者: はる
鎖を解く言葉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/109

第四十七話:森に眠る静寂

サラたちが再び辿り着いた“森”。

戦いの痕跡、そして――サラが見るものとは何なのか。

白い靄が、森の入口に薄くかかっていた。

日差しは高いのに、重なった梢が光を細く刻み、地面は緑と影の縞模様で縫われている。


一歩、踏み入れる。

湿った土の匂い。潰れた葉の青臭さ。遠くで落ちる雫の音。


(……戻って、来たよ)


胸元のサファイアが、呼吸に合わせるみたいにかすかに脈打っている気がした。

風はないのに、枝葉だけが微かに触れ合い、誰かの囁きのように揺れる。


「空気が違うな」


インヴィクトゥスが低く言う。気安さは消え、警戒だけが滲む。


――急に視界が開けた。

木々が理不尽に倒され、地面は抉られている。ひと振りの剣が何かを護るように地に突き立ち、その刃を境に――背後だけは、生きた森が広がっていた。


「戦闘の跡か……魔術に、剣?」


インヴィクトゥスが首を傾げる。

魔術戦で剣は不利だ。だからこそ、この痕跡は不自然だ。


「……ファルの剣だ」


そっと柄に触れる。金属の冷えが掌に移り、微かな震えが返ってくる気がした。


「こっちは……教会魔術師の亡骸ですね。無惨に潰されています」


カリグナスが顔を顰め、周囲を検分する。


「こっちは細かく切り裂かれてるな。……これは、爪痕か?」


インヴィクトゥスは不可解そうに眉を寄せ、抉れた土と裂け目の並びを目で追った。

薄く残る鉄臭さが、靄の向こうでまだ消えきらない。

少し離れた草むらには、同じ紋の外套の裂片が血に貼り付き――三人分だと知れる。


「三人ってことは……クラリス、ゼフィラ、ドミニクスか」


インヴィクトゥスが軽く鼻を鳴らして立ち上がる。


「こりゃあ“アイツ”の仕業じゃねぇな。アイツは人を“殺せない”」


「殺せ……ない?」


殺さない、ではない。

まるで――何かの誓いに縛られている、そんな言い回しだった。


「あぁ。本人に聞いただけだから本当かは分からんが……まぁ実際、“アイツ”に殺された教会魔術師はいないからな」


インヴィクトゥスが片肩をすくめる。


「魔術すら禄に使わんし、精々結界を張るぐらいしかしない。……だが、この荒れよう。結界はおろか、“アイツ”お得意の魔術消却すら使ってねぇな」


カリグナスは剣の鍔元に指を添え、刃の腹と地面に残る掠れた傷を交互に見比べた。


「剣で弾いた……が正解でしょうね。――ですが、なぜ“魔術を使わない”?」


答えは喉まで出かかって、言葉にならない。


「おい、カリグナス。いくらなんでも剣で魔術は弾けないだろ?」


何を馬鹿な事をと呆れたように首を振るインヴィクトゥスに、カリグナスが目を細める。


「魔力で作られた剣ですよ、これ」


「な……そんなの、失われた技術だろ!?」


インヴィクトゥスが信じられないものを見るように剣を睨んだ。靄がその声を呑み込み、ざわりと枝葉が震える。


カリグナスは無言で剣から指を離し、森の奥を見据えた。


「……失われたのではなく、“抹消された”が正解です。大陸全土で禁忌とされ、記録から消された。――だから、知っているのは我々ぐらいでしょうね」


(また、教会の……)


私は剣の柄に触れながら、サファイアのネックレスを握りしめ、胸に押し付けた。


――瞬間、世界の音が消えた。


「なんだ!?」

「これは……」


インヴィクトゥスとカリグナスが警戒を強め声が重なる。だが私は知っていた。――この場所を。


ゆっくり目を開けると、石造りの貴族邸を思わせる建物が視界に広がっていた。

外壁はところどころ崩れ、浮遊する石材が空中に散らばっている。


「……静寂の庵」


息を呑み、私は立ち上がった。

そして、扉に手を掛け、ゆっくりと押し開いた。


その扉の先に何があるのか。

知っている。――だからこそ、怖い。


振るえる手に力を込め、扉を開け放つ。


一歩中に踏み入れば、床は白灰の石で均され、歩むごとに淡い波紋が走る。

壁は窓ひとつなく純白。天井にも光源はないのに、柔らかな明るさが保たれている。


そう――静寂の庵だ。


けれど、明確に違うものがあった。

森が再び、サラを迎え入れました。

そこに残されていたのは、剣と、そして“静寂”――。

静寂の庵の奥には何があるのか…。


次回は、独白回になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ