第二十九・五話:護るべき者、立ちはだかる者
長閑な村を歩くサラは、何もない景色にさえ目を輝かせ、楽しそうにしていた。
(……本当に、無邪気だ)
きっと、彼女が知る世界は故郷と帝都の周辺だけ。
私は思う。もっと広い世界を見せてあげたい、と。
彼女が触れることのなかった景色を、歩むことのなかった未来を。
微笑む横顔に視線を預けていたとき――視界の端に、見慣れた影が映った。
何度も顔を合わせてきた女。今は見慣れぬ服をまとっているが、それが偽装であることは明らかだった。
避けられぬ再会だとは覚悟していた。だが、これほど早く訪れるとは。
「サラさん。少しだけ、用事を済ませてきます。……すぐ戻りますから」
振り返った彼女は、不思議そうに首を傾げている。
その無垢な瞳を見て、胸の奥でひとつ言葉を刻んだ。
(何があっても――“サラ”を護る)
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日が暮れ、森の奥深くへ足を運ぶ。
木陰に身を潜めていた影が、楽しげに声をかけてきた。
「ああ、やっぱりアルヴィトだった」
声音は軽い。だが、その瞳だけは鋭く笑っていない。
純白の布地に、金糸で〈太陽を抱く龍〉をあしらったローブ。
教会魔術師最高位――クラリス・オフィエル。
「クラリス……何故こんなところに」
「教会が本気だ、そう言えば分かるかしら?」
「さぁ……私には理解できませんね」
「残念」
その一言を合図に、森の闇から新たな気配が現れる。
威圧を纏い、一歩ごとに空気を震わせる二つの影。
"ゼフィラ・ラグエル"
"ドミニクス・ラミエル"
三人――教会が誇る最高位魔術師が、揃って私の前に立ちはだかる。
予想外の戦力に、思わず目を細めた。
(サラ……すまない。すぐには帰れそうにない)




