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黒の約束〜滅びの約束を越えて〜  作者: はる
揺らぐ真実

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第一話:杖なき魔術師

――その出会いは、偶然ではなかった。

それは、遥か昔に交わされた“約束”の記憶。


帝都ラーベルの南。霧に沈む精霊の森。

そこで、杖を持たぬ魔術師と少女の運命が、静かに重なり始める。”

帝都ラーベルの南に、永遠のような森がある。

風は囁き、木々は夢を見ている。


人はそこを――“精霊の森”と呼ぶ。


私は馬を降り、静かに足を踏み入れた。

命令はただ一つ。


『この森に出入りする魔術師を捕らえよ』。


けれど、目の前に立つその人を見た瞬間――

何かが、音もなく崩れ落ちた気がした。


黒の衣。金糸の紋。

けれど、その手には――杖がない。


「……杖を、持っていない?」


思わず漏れた声が、森の静寂に吸い込まれる。

魔術師が杖を持たぬなど、ありえない。


魔術とは、“理”を通して発動するもののはずなのに。


「あなた、最近この森に出入りしている魔術師ですね? ――杖は、どこに?」


彼は空を仰ぎ、ゆるやかな声で答えた。


「ああ、そうですね……。なぜでしょうね?」


その声音は、風のように軽く、掴みどころがない。


「ふざけないで。捕縛命令が出ています。帝国に同行してもらうわ」


「それは困りましたねぇ」


男は、まるで午後の茶会に遅れた紳士のように顎を撫で、

穏やかに首を傾げた。


私は杖を構え、胸の奥が熱くなる。


「理由を言いなさい。なぜ森に?」


「散歩ですよ。……ダメですか?」


「ダメに決まってるでしょ! ここは精霊の森。帝国の許可なしに立ち入りは禁止よ!」


「ああ、なるほど。あなたは――帝国の魔術師なんですね」


その瞬間、彼の瞳に微かな光が走った。

まるで、何かを思い出したかのように。


私は躊躇なく氷刃を放つ。

風が裂け、冷気が走る。


――だが。


氷は彼に触れることなく砕け散り、

砂糖菓子のように溶けて光の粒となった。


「……っ!」


炎を重ねる。雷を編む。

けれど、いずれも空気に吸われ、形を失った。


「森で火を使うなんて、危ないですよ」


柔らかい声。

その優しさが、いっそう恐ろしい。


魔術が――消されている。完全に。


「……お手本を見せましょうか」


男が指先を動かす。

光が生まれ、音もなく広がる。

無数の魔術が、花のように咲いた。


私は結界を張る。

絶対防御。破られたことなど、一度もない。


だが、彼が指先で触れた瞬間――結界は音もなく霧散した。


「……嘘……」


膝が震え、杖を支える手が震える。


「……私の負け。……あなた、何者なの?」


彼は首を傾げて笑い、静かにフードを外した。


月光を閉じ込めたような黒髪。

夜の湖を思わせる瞳。


その奥にあったのは、深い闇と――祈りのような静寂。


「魔術師の、ファルと申します」


優雅な一礼。

その仕草ひとつで、世界の均衡が少しだけ傾いた気がした。


「……ラーベル帝国魔術師団、サラ・フェルディナンドです」


名を返した瞬間、胸の奥が温かくなる。

この人は――敵ではない。

そう、直感が囁いていた。


彼は微笑み、背を向ける。

黒のローブが風を孕み、森の奥へと歩き出す。


「今日はこの辺で失礼します」


その声は、夜の静けさそのものだった。


「……不思議な人。……でも、また会う気がする」


呟いた言葉が風に溶けて消える。


けれど胸の奥では、確かに何かが脈打っていた。


それは――“約束”と呼ぶには、まだ早すぎる鼓動。


最後まで読んでくださりありがとうございます。

次話『再び森へ』では、サラが帝国へ戻り、彼女の選択が動き始めます。

――あの黒の魔術師が残した“違和感”と共に。

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