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黒の約束〜滅びの約束を越えて〜  作者: はる
約束の残響

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第八十八話:記憶の息づく街

陽光が波に砕け、白い光の粒が甲板を散った。

港の喧噪が、次第に現実の音へと変わっていく。

人の声。鳥の声。

そして、陸の匂い――。


船が岸に寄せられ、船員たちが慣れた手つきで縄を結んでいく。

錨の鎖がきしみ、最後の揺れが静かに止まった。


「……行こう」


ファルの声が風に混じる。

その響きには、安堵と、言葉にならない影があった。

彼の視線は街ではなく、どこかもっと遠い場所を見ている。


私は甲板に足を下ろし、しばらくその景色を見つめた。

白い塔が陽光を受けて眩しく光っている。

けれど、どこか――静かすぎる。

港には人の姿があるのに、街全体が息を潜めているように感じた。


波の音が遠ざかり、かわりに鐘の音が微かに響いた。

それは沈黙の海の残響のようでもあり、

新しい記憶の始まりのようでもあった。


ファルが手すりを越えて先に降りた。

私はその背中を追う。

船を離れる足音が、ゆっくりと石畳の上に重なっていく。


足元には、陽に焼けた白い石の道。

海水を吸い上げて光るそれは、まるで街全体が呼吸しているようだった。

水路の上を渡る小舟が、静かに影を滑らせていく。


街の音が、少しずつ近づく。

声のない声。

誰かの記憶が、どこかで囁いているような――そんな錯覚。


ファルが立ち止まり、ひとりごとのように呟いた。


「ここは、“人の記録”が集まる街だ。人々が真実だと思った事が真実になる」


その言葉に、私は息を飲んだ。


「私は、迷わないよ」


風が吹く。

潮と石の匂いが混ざり、遠くでまた鐘が鳴った。


白と蒼が重なり合う街――アルカ・メーレ。

そこには、確かに何かが“眠っている”気配があった。


「なんだろう……活気はあるのに、静かに感じる」


「言葉だろう。この街の人々は、言葉が丁寧で落ち着いているから」


街の声に耳を傾けると、確かに穏やかで柔らかい。

今までの港町では、怒鳴るような笑い声や取引の声が響いていたことを思い出した。


白い石の街に、柔らかな言葉がよく似合っている。


「私、この街好きかも」


ファルが久しぶりに影のない笑みを見せた。


「この街は――サラに似ているかもしれないな」


「え……?」


首を傾げる私に、彼は穏やかに言葉を継いだ。


「己が信じる歴史が真実で、偽りの真実の内側を探そうとする。

 ――そういうところが、サラらしいと思っただけだ」


潮風が吹き抜けた。

光が海面を滑り、白い街並みを照らす。

その瞬間、街がほんの少しだけ息をしたように見えた。


「そういえば、どこに向かってるの? 宿、通り越したよ?」


「この街にも、会わなければならない者がいる。悪いが、付き合ってくれ」



アルカ・メーレ。

人々の言葉が記憶となり、記憶が真実を形づくる街。


次に出会うのは――この街の“記録”そのものかもしれない。


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