第20話 光の射さない澱みの世界
用事があり城の3階を通りかかった一葉は、何かの気配を感じてふと立ち止まった。アリエラはレイラに任せているため心配はないのだが、一葉も騎士である以上は早く帰らなければいけない。
(そうは、思ってるんだけどね)
彼女自身も忙しい身の上を理解しているのだが、脚がなぜか立ち止まってしまったのだ。空気が淀んでいる。王城ではかなりの人数が働いているが、なぜか人の気配がない。
今は全体的に歓迎されていない身の上であるため、一葉は人の気配に敏感になっていた。その彼女が人を感じないのだ。
「うわぁ……なんつーか……すっごく嫌な空気……」
一葉はげんなりした。この空気は学生時代に行った、曰くつきの場所や墓地などになぜか似ている。光があるはずなのに暗く見えるところも同じだった。
一葉はその気になればほぼ無敵とも言える。その無表情と実力が相まって怖いものなしと思われている節があるのだが、実を言えば攻撃してもどうにも出来ない存在が非常に苦手である。しかしすぐに立ち去れない理由もまた、ここにあるのだ。
「またか」
振り返り睨み付けた先にあるのは何かの花。この数日間繰り返し起こった現象だが、しかしそれはなぜか回を増すごとに段々と大きくなっている。
(あー、嫌な空気の原因が分かったかもー)
落とし主……いや、この場合送り主だろうか。思い当たるその人物を思い出して一葉はため息を吐いた。
「このまま置いておくのもなぁ……」
そしてそう言いながら彼女はいつものように花束を拾い上げ、その足で私室へと向かうのだった。
「とりあえず、サーシャさんに預けてから帰ろう……」
ため息を吐き出す。それがとても重くなってしまったのは、一葉自身にとっても予想外のことである。
「あぁもう……自分の身に起こると笑い話にもならんもんだなぁ……日本にいた時にはこんなの、完全にネタだと思ってたのに」
ぼやきながら一葉はこの事態の原因を考えた。それは、数日前に遡る。
コネ入社と言えど流石に色々と覚えることも多く、着任早々それなりに大変ではあった。アーサー王相手に『自由に振る舞う』と嘯いたところで、一葉の僅かな非常識を問われるのは彼女自身ではない。それが少なからず一葉へのプレッシャーになっていた。
何かと気を張る毎日だったが、僅かずつ体も慣れてきた頃のこと。
「イチハ、俺と結婚してくれ!!」
「えぇと、お断りします?」
碧の節黒の月の6日。この日は一葉が騎士になってから初めて与えられた休暇だった。
騎士は非常事態に備えて常に上層にいた方が望ましいため、滅多に下層の食堂には行かない。そのためにそれぞれの私室に隣接した控えの間には調理施設も設置されているのだが、この日はサーシャに用事があったようで暇を出していた。
侍女を持たない騎士たちのように、一葉もこの日だけ城付きの侍女に雑事を依頼する選択肢もあった。だが後学のためにも、この日の彼女はウィンとともに下層の食堂へ向かうことにしたのだ。
(一体何なんだ、この人は……?)
一葉は目の前の男をまじまじと見つめる。歳のころはウィンより少し上だろうか。隣に立つ義兄よりも少しだけ長身の青年。見たところ義兄とは違い嗜み程度には体を鍛えているらしく、割としっかりした体格をしている。その青年は一葉の進路に立ちはだかったかと思うと、いきなり先ほどのセリフを叫んだのだ。
完全に外野となったウィンは、一葉へ素朴な質問を投げかける。
「なぜ疑問形なのですか?」
「だって……あー、うん。まだ歳がね。っていうかまず、このひと誰だか知らないし」
一葉の言葉に含まれた複雑な意味には気付かず、ウィンは苦笑いをした。
「あぁ、成程……」
その敷地面積に相応しく王城には膨大な人数が集まっているため、もしかしたら一度くらいすれ違ったかもしれない。しかし一葉はこの青年についての記憶が全く無いのだ。それにも拘らず求婚される理由が彼女には分からない。
とは言え相手にとってはそうではない訳で。
「俺たちの前には歳なんて関け」
「却下」
「ようやく出来たヴァル家の姫を、このような形でもらいうける覚悟は当然出来ていますよね? ダルトリー殿。まずは義兄である私と、その後には養父である我が父がお相手することになりますが。父など喜んで立ちはだかるでしょう」
やはり瞬殺の一葉に被せるようにして、青年を脅しにかかるウィン。
(あらま、ウィンが私を護ってくれるなんて意外)
一葉は驚いているが、ウィンにしてみればこれは普段の危険との種類が違うのだ。下手なことで一葉を失わないように手を貸す、と言うのがウィンやアーサー王たちの方針である。そして彼らの予想通り、一葉は宮廷での処世術がそう上手い方ではなかった。
ここで生きていくには彼女は真っ直ぐすぎるのだ。
「くっ……」
ウィンの明らかな威嚇に青年は心持ち身を退いている。普段の行動範囲では一葉の陰に埋もれがちなウィンも、実際はその辺りの魔術士などより遥かに大きな魔力を持っている。それを真正面から受け止めるには普通の人間では荷が重いだろう。
そんな彼は普段抑えている魔力を解放することで、青年に対して威圧感を与えていた。
「くっ……待っていてくれ、ヴァルの檻から君を必ず救い出す!」
「檻って」
台詞だけはやたら恰好よく決めた彼は、くるりと一葉たちに背を向けて退却していく。
「えー……一体あの人、何しに来たの……?」
ウィンは呆れた顔をしてため息を吐きだした。彼は混乱して首をひねる一葉に対して、一応忠告だけはしておくことにする。
「気を付けてください。彼はあれでも貴族……シンパリー子爵家の子息です。医療魔術の使い手であることが確認されていますが、ああしてフラフラと遊びまわっているようですね。用事が無くとも王城へ来ては気に入った侍女に手を出して……女性問題もよく噂を耳にします」
「な、何て面倒な……」
面倒そうな人間は、ほぼ必ずと言っていいほど問題を起こす。そしてその過程で一葉が巻き込まれるのだ。
(うぅぅ、また顔を見そうな気がする……。考えすぎでありますように……!!)
祈りながらも絶望的な表情を浮かべている一葉。その心の内が何となく想像できるウィンはやれやれ、とでも言うかのように肩をすくめたのだった。
(実際に聞かれるのは女性問題だけではなく、限りなく黒に近い容疑もありますが……今は言わない方が良いでしょうね)
混乱しているだろう一葉に対する僅かな配慮と、重大な『犯罪』に対する撒き餌として。ウィンは義妹への情報をそっと伏せたのだった。
記憶にある『面倒な予感』に一葉は重いため息を吐いた。時刻は低い音の2刻。同じテーブルでは昼間に落ちていた花束の報告がてら私室に呼んだウィンと、侍女であるサーシャが何とも言えない表情を浮かべている。
「こう続けば、偶然などという温いものではありませんね。視線の方も相変わらずですか?」
ウィンに言われて思い出した一葉は、ブルリと体を震わせる。
「……うん。何だかいろいろ絡まった感じで、超キモい。本格的に私が邪魔な人と、単にポッと出な私が気に入らないだけの人と、一部の……微妙な視線と混ざっちゃって……正直どれがどれだかわからない。このまま攻撃されたら全部一緒になぎ倒しちゃいそうで自分が怖いわ」
キモい、の意味は量りかねるが、ウィンはあまり快い感情ではないと判断した。
「私が言えたことではありませんが、その他大勢の視線は……何せ手段と経緯がアレですから、ある程度は仕方がないかと」
「ホントにウィンが言うことじゃないよね」
今でこそ飄々とした態度を取っているが、ウィンにしても一葉の我慢が限界を超えた時が恐ろしい。何せ彼女を止めるのは一苦労どころの騒ぎではないのだから。ウィンでは止められないことは、彼の魔術が通じないことで実証済みである。
ギロリと睨み付けてくる一葉を表面上は軽くいなし、ウィンはサーシャへと声をかけた。
「サーシャ。夜間は当分、いつもより気を付けていてください。こちらでも引き続き探りを入れますし近くには警備もいます。本人の力も含めて恐らく心配は要らないと思いますが……一応、念のために」
「えぇ、承知しております。この部屋にいる限りイチハ様には指一本たりとも触れさせませんとも」
ウィンは自分で頼んだ手前、一葉は守ってもらう手前何とも言いづらいのだが、サーシャの綺麗な微笑みはなぜか背筋が薄ら寒くなる。
夜間に忍び込むような不届き者がいないことを心から願う義兄妹であった。
碧の節白金の月、15日。現在の時刻は高い音の4刻。
非番になると比較的することのない一葉は、この日も散歩がてらブラブラと城内を探索していた。本来はあまり『散歩』を認められない範囲でも一葉の職業柄、知らないよりは知っていた方が良い為に許されているのだ。
「役得、役得……って!!」
鼻歌でも歌いそうな一葉だったが、突然いつもの寒気に襲われて背筋を震わせる。気配を追って即座に振り返ったが、相変わらず人の姿をその目に捉えることは出来なかった。代わりにやはり花束がそっと置かれている。
「また、来た……」
(タイミング的に見ても気配と花は同じ人間なんだろうけど……)
流石に気味は悪いものの、花をそのままにしておくのも気が進まない。既に一連の噂が流れているため何もしなくとも花束は私室へ届くだろう。
(その方が余計にコワいわ)
一葉は少々躊躇った後にいつも通り花束へ近寄った。もう何度目かも分からない花束は、最初とは比べられない程華やかなものへと変わっていた。
「……これもまたサーシャさんにお願いするようだなぁ」
花には罪など無い。しかし気味悪く思うことは止められないため、少々気合を入れながら一葉は屈みこむ。見たところ妙な仕掛けが無さそうだと言う判断が彼女の油断を誘った。
真後ろにひとつの気配が生まれた。
そして同時に、仕掛けが無かったはずの花束から何かの粉末が噴射される。
「ぇ……!? ちょっ……っ、ゴホッ!! 何こ……ゴホッ、や……ぁれ……」
咳き込みすぎたせいか、体の感覚が意志と離れていく一葉。そして事態は彼女の思わぬ方向へと転がり始めた。
(え……っ!? 魔力の流れが……!)
粉末で一瞬気をそらした瞬間、後ろに立つ何者かが一葉の身体に流れる魔力を弄ったらしい。普段ならばすぐに再調整できる程度の乱れ。
しかし今はなぜか、それが自由にならなかった。
(くっそ……薬か……マズ……た……な……)
自由の利かない身体と後ろに出現した気配、そして段々と大きくなる魔力の乱れ。それらが一度に集まったことで一葉は上手く集中できなかった。
そしてその僅かな時間が決定打となった。ついに体が、狂った魔力に対応できなくなったのだ。
――ユダン、シタ……
それを最後に一葉の意識は闇へと沈んでいった。
一葉の私室に控えていたサーシャと、宮廷魔術士の詰所にいたウィン、そしてヴァル家に手紙が届いたのはそれから2刻ほど後であった。
――姉ちゃん、起きろよ
(弟よ、もう少し寝かせてくれ……姉は色々あって最近睡眠不足なんだ)
懐かしい弟の姿に、一葉は夢を見ているのだと確信した。最初に家族の姿を夢に見た時は実感した遠い距離に辛さを感じ、目を覚ましてから号泣した。しかし既にその感覚も麻痺して久しいため、今では家族の夢を見るのが楽しみですらある。
――ったく、何時だと思ってんだ。事情なんて知るか。いい加減起きろよ
(そう言わずあと一時間くらい。君も寝るがいい)
――はぁ!? もうそれ起きる気ねぇだろ! いい加減にしろよ!
――そうですよイチハ、起きないならば、貴女がどうなっても知りませんよ
(あれー、愛しの弟だけでなくウィンまで……。ウィンの言い方だと具体的に私が何とかなりそうでヤなんだよなぁ……)
頭の中で鐘が鳴るように何かが響き非常に不快だが、しかし覚醒した意識を再び沈めることは出来ないようだった。
一葉はゆるりと瞼を押し上げ、そこにあるはずの天井を探した。
「っれー……」
そこにあったのは恋い焦がれた日本の低い天井ではなく、こちらで見慣れた王城の高い天井でもなく、見知らぬ環境。
真上には立派なステンドグラスらしきものがあり、そこから射す光は一葉の寝ている辺りを明るく照らしている。ゆるりと見回せばご神体らしき像と、かなり離れた場所に巨大で立派な扉。高さは10メートル程あるだろうか。そしてその扉から一葉までの空間は王城の謁見の間ほどの広さがある。
人の多い王都でこのような広さを確保できるなど、かなり高位の施設であることは確かだった。
(教会……? だとすればここは、乗ったり寝転がったらいけない場所なんじゃないかなぁ……)
ぼんやりとした意識で一葉は考える。
ミュゼルは多神教の国であり、王都にもこういった教会などが多数配置されている。王家や公爵、侯爵、伯爵までは政治に直結してしまうために特定の宗教に関わらないようにしているが、国民であれば各自信じたいものを信じることが出来る。流石に祭事などでは多少の問題が起きるものの、単教国家より暮らしやすいと言えないこともない。
しかしその風土が今の一葉には不利に働いている。教会がありすぎるため、今の一葉には自分がどこにいるのかを特定できないのだ。
(あー……アリアを待たせてるんだった……早く帰らないと……。まぁ、まずはここから迷わないで帰れるか自信ないけどねー……)
ぼんやりと記憶を手繰り寄せ、天井へと両の手を伸ばした一葉。その瞬間に全身を冷気が駆け抜け、彼女は青褪めた。眠気など既に欠片も残ってはいない。
(え、ちょ、なん……何でドレス!? 自分で? いやいやいや、そんな覚えないし! そうだとしたら覚えてるでしょうよこんな服!! どうして……いや誰が……いやいや何で……えぇぇぇぇ!?)
まず目に入ったのは、指先から二の腕までを覆う肌触りの良い手袋。純白のそれは恐らく絹で織られた物だろう。慌てて見回せば同じく純白の布を重ね、派手にならない範囲で金糸や銀糸などで刺繍の入れられたドレス。
さらに頭を探ればやはり繊細なベールもつけられており、この恰好が何のためのものかを否応なしに見せつけられた。
慌てて起き上がるが完全に自由にはならない身体。裸足で床へ降り立ち、手と腰と今まで寝ていた台で体を支えながら、一葉は声にならない言葉を頭の中で繰り返していた。
(確かに私も結婚したいなーとか思ったことあるけどいきなりコレはちょっとどうなのっていうか何で起き抜けでコレ!?)
「あぁ、ようやく目が覚めたようだな」
混乱の極みにいる一葉をある意味『救い出した』のは、悪い意味で見覚えのある相手だった。
「おはよう、イチハ。君が起きるのを待っていたんだ。さぁ、今すぐ神の御前で誓いを交わそう」
「マジかー……まさかこう来るとは……」
ひと月ほど前に彼女へ求婚した青年、シンパリー子爵子息。確か家名はメリア。あの求婚事件から今まで直接彼が姿を見せることは無かったため、フルネームは確認していない。
そんなシンパリー青年の瞳はとても危険な色に染まっており、一葉は唇を噛みしめた。
(完全に私のミスだ。安心できる場所が出来たからって危機感が足りなかったのと、自分の力を過信しすぎたか)
誰が隣にいようとここが日本でない限り、最終的に自分の身を護るのは自分でしかない。一葉は唇を噛みしめた。
しかし事態は彼女が自分の油断を責める時間すら許さない。
「君と式を挙げるにあたって、ヴァル家と君の侍女には手紙を出しておいた。何も知らせないのでは君も気がかりだろう?」
(気がかりっつーか、勝手に結婚させんなよ)
眉を顰めた一葉を気にもせず、青年は言葉を続ける。
「まぁ、君の花嫁姿を見せる気はないが。君を閉じ込めて、俺との仲を引き裂いた犯人たちだからな」
(……ちょっと、コレはヤバいかな)
一葉は本能的に悟った。これは関わってはいけない種類の人間だ。下手に刺激をすると大変なことになるだろう。
(手紙を出した。ってことは、ウィンたちが探してくれてる。多分、『影』も。私はまだ、いた方が便利な人間のはず。……時間を、稼がなきゃ)
今この状態では口でしか時間を稼ぐ手段がない。
「……ところで、コレは誰が着替えを?」
「我が家の侍女が。式を挙げるまでは俺が君の身体を見るわけにはいかないだろう?」
一葉は思わず言葉を失った。
(キモい。超キモい! 式を挙げてからも見るな。っていうか式を挙げるな。同じ空間に存在するな――!!)
この男に着替えさせられた訳ではなかったらしい。彼に従う侍女への疑問と彼の自己陶酔気味な視線に気分が悪くなるが、自分の安全が懸かっている以上ここで口を止めるわけにはいかない一葉。
「……私の、どこが気に入ったのか聞いても?」
「どこが? それは運命として決まっていたことじゃないか。王城で初めて見た瞬間に分かったんだ。だから君と俺は結ばれなければいけない」
「へぇ。運命、ねぇ……?」
(運命で決まっていた、と。だいぶ電波なニオイがするなぁ)
洗脳を受けたようなブレないシンパリーの視線から、彼の背後がまき散らしている悪意を感じた。しかしそれは後回しにするべきことだ。
「で」
一葉は彼を真正面から見る。
「何だ?」
「その運命を感じた相手にコレはどういうことかな」
一葉がゆっくりと掲げた両手には、彼女の細い手首に不釣り合いなほど重く分厚い手枷がつけられていた。それは単に両手を封じるだけでなく、魔力をも封じる力があるようだった。
さすがに一葉の魔力量を完全に封じることは出来ていない。それでも彼女が術を使うには普段の何倍も時間をかけて魔力を集めるしかない程で、恐らくかなり優秀な枷である。
「あぁ、それか。君の魔力に触れた時、俺にも君の凄さが分かったんだ。でもそれは諸刃の剣だろう? 大事な式に臨むなら、一応保険をかけておいた方がお互いのためだろうと思って枷を着けさせてもらった。大きな魔力は少しの感情にでも大きな力で反応するからな」
「あぁ、そう……」
脳みそが会話を拒否していると感じつつ、一葉は考えを巡らせる。
(あぁ、医療魔術士だって言ってたしな。普通の魔術士よりハッキリと魔力が見えるのは確定。体もまだ微妙に本調子じゃないし、魔力を集めるのに時間がかかる以上『コトダマ』はギリギリまで使えないか)
適当な返事にも気を害した様子を見せず、自分の世界に浸っている男は話を続けている。
「しかしイチハはすごいな。現状で一番強い枷でも完全に覆い隠せない魔力を持っているとは、これなら無骨な鎖も我慢できるな。夫になる身としては鼻が高いが、暴走しては綺麗なイチハが台無しだ。本当は黒瞳などという『無力』などではないのだろう?」
問いかけておいて一葉の返答など望んでいない青年に、彼女は顔を盛大に顰めた。
(魔力至上主義か? バカかっての。アレナさんたちにフルボッコにされればいいのに。つーか暴走するくらい私が喜んでるとかどんな妄想だよ!
……ま、聞いたところで超理論を聞かされるだけなんだろうけど)
疲れ切った一葉。彼女が口答えしないことで更に気を良くした青年は、さらに大きな爆弾を投げ込んだのだった。