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六 権利関係

 そう言って、黒木はしばらく黙考し、深く息をついた後、静かに口を開いた。

 「つまり、今回の相続問題は単なる資産の移譲だけではなく、その背後にある歴史や文化、そして家族の想いが複雑に絡み合っているということだ。屋敷や土地の価値だけを見れば、相続しない選択も一見合理的に思えるが、その裏には、代々受け継がれてきたイベリスの庭園という象徴的な存在がある。これは、単なる植物の庭園以上の意味を持つ、家族の誇りや伝統の象徴だ。もしも、その庭園を手放すことになれば、工藤家の歴史や文化の一端も失われてしまう可能性が高い。また、負債の問題も見過ごせない。隆の負債は確かに大きいが、宇佐美さんの助言のとおり、その負債は資産価値の高い屋敷と庭園によってカバーできる。逆に、負債を放棄してしまえば、家族の信用や今後の資産運用に悪影響を及ぼす恐れもある。こうした複合的な要素を考慮すると、単純に資産の差し引きだけで判断できる問題ではなく、家族の歴史や文化的価値、そして今後の家族のあり方を総合的に見極める必要がある。さらに、相続放棄を選択した場合、その土地や庭園の管理や保存についても新たな課題が浮上する。誰がその庭園を守り続けるのか、また、その価値を次世代にどう伝えていくのかという問題だ。これらの点を踏まえると、単なる財産の問題を超えた、家族のアイデンティティや伝統の継承に関わる重要なテーマとなる。こうした背景を理解した上で、歴史的な観点からイベリスの庭園そのものについて考える必要がありそうだが…」

 僕には、黒木が何か引っかかっている様子に見えた。

 「何かほかに気になることでも?」

 僕がそう聞くと、「まぁ…」と言いながら、静かに言葉を続けた。

 「宇佐美さん、これは大前提となる重要な確認なんですが、我々は屋敷の名義は父の隆にあるという前提で話をし、それはそれとして自然と、その代々工藤家で引き継がれてきたイベリスの庭園の土地もまた、屋敷を建てる際に隆の名義にしたとして議論していた向きがありますが、この権利関係については、一花氏から何か伺っていますかね?」

 彼女は少し考え込みながら答えた。

 「一花からは、今のところ特に権利関係について詳しい話は聞いていないの。たぶん彼女も私たちと同じように、イベリスの庭園の土地や屋敷の名義については、父の隆の名義だと認識しているんだと…、ただ、彼女も家族のことや歴史については気にしているみたいだから、一回、黒木君と銀杏君も、直接話してみるのがいいかもしれないね」

 黒木は頷きながら、「そうですね。やはり、権利関係は複雑な場合も多いだろうし、誤解や見落としがあると後々問題になることもある。今後の話し合いの中で、一花氏ともきちんと確認しておく必要がある」と付け加えた。

 彼女は、この後、「民法Ⅲ」の講義で一花と会うようで、講義後、サークル棟331号室に一花氏を連れてくる段取りとなり、「じゃあ私は、いったん講義で抜けるね。終わったら、そのままここに一花を連れてくるから」と言って、部屋を後にした。


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