十 地盤調査
顔を合わせて何も言葉を発さないのも気まずかったので、僕は一花氏に「地盤調査って、庭園の修繕と併せて行われるのは一般的なんですかね」と問いかけた。
「いいえ、おそらく、母がイベリスの庭園の部分もいずれは規模を狭めて、屋敷部分を増築する可能性も考えて、ついでに母の友人が代表を務める調査会社にお願いしたんです」
「そうでしたか」
僕がそういうと、一花氏は「ただ…」と言葉を続けた。
「ただ…、何と言っていいのか、そこにもまた別の疑念がありまして…」
「別の疑念って?」彼女が訊いた。
「私の想像で恐縮なのですが、母とその友人は不倫関係にあったのではないかと思うんです。というのも、私、聞いてしまったんです。その友人が母に『今すぐに屋敷から出ていくべきだ』と怒鳴り散らしているのを。ただならぬ形相でしたので、そのときに私は、母がその方と友人を超える関係にあったのだと察したんです。母も父も私には言いませんでしたが、もしかすると、離婚の原因は、そこにもあるのではないかとも思っています」
「そこにもっていうことはほかにも?」彼女が尋ねた。
「離婚の原因は、これといってひとつに絞れるものではなく、一つ一つの積み重ねの結果ですから、私が知らないこともたくさんあるとは思いますので。父方の祖母との不仲もあったり…これは一般的にどこの家庭にもあることだとは思いますが…」
「それはおっしゃるとおりですね」僕もしんみりと一花氏の話を聞いていた。
どの家庭も、それぞれ複雑な問題を抱えながら、外見的には、一つ屋根の下で平凡な生活を送っているかのように振舞う。というよりも、そうして、家族である幸せを、あえて自ら確認し続けている。そう思えてならないのである。僕の家庭もまた、“銀杏”という姓に縛られ、それが一般家庭以上に、家族を定義するものとして重んじられてきた。僕はその重荷を今もなお、背負っている。
だからこそ、僕はまだ学生でありながら、彼女を将来の伴侶として意識し始めてしまったのである。彼女と結ばれ、子を授かれば、少なくとも銀杏姓はもう一代引き継がれることとなる。その瞬間、僕は銀杏家から負わされている重責から解放されることになる。そして、僕は純粋に彼女との平凡な日常を楽しみたいのだ。
そんな思いからおもわず「あぁ…」と声を漏らしてしまった僕に、彼女が少しニヤけながら「銀杏君、何か違うこと考えていたでしょ」と言うと、それを聞いて長考に入っていた黒木が反応した。
「宇佐美さん、彼はね、そういう妄想癖がありましてね。それが、普段のエッセイの脚色にも少なからず役には立ってはいるんですよ。ただ、妄想が行き過ぎて、脚色というより、粉飾に近い、事実のねじ曲げになることもあるんですが」
「すごい、言いようね。そこまで言うと、銀杏君、可哀想じゃない。ね?」
彼女のそんな言葉にちょっと照れてしまい「いや、そんなことは…」と言ったはいいものの、続ける言葉が出てこず、落ち着かずにモジモジしていると、黒木が話を切り出した。
「ちょいと、本題に戻りましょうか。一花さん、点と点がつながってきましたよ。今までどうやら俺たちは、イベリスの庭園の問題を相続の観点で考えすぎてしまっていたようだ。これはじつにシンプルな問題、そして俺の結論もほぼ確信の状態にある。ただもし俺の確信が、そうだとすれば、それはそれでとんでもない惨事を引き起こしかねない状態に今、イベリスの庭園が置かれていることになる」
「謎が解けたということでしょうか?」
一花氏がそう言うと、「解けたというよりは、最適解に辿り着いたとでも言っておきましょうか」と、黒木は事の“最適解”を語り始めた。




