表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

閑話 ートモダチー



side美結 ※まだ木綿花と理仁がくっつく前の話です。



 柏木美結は昔から人見知りだ。人と仲良くなるまで時間がかかるし、はっきりものを言う性格ということもあり、付き合いづらいとされていた。自分でも人との付き合いに苦手意識があったので、自ずと距離が出てしまった。

 

 だから美結は大好きなものづくりに没頭した。ものを作っている間は何もかも忘れられる。手先が器用なのも幸いしていろんなものを自分で作るようになった。


 アクセサリー、マフラー、手袋、鞄、ついには洋服にまで手を出し始める。将来はお洋服を作れる人になりたい、と幼心に思ったりもした。


 「うわー、ぼっち確定じゃん」


 高校の入学式。同じクラスには同じ中学校の同窓生が数人いるが、当然あまり話したことのない顔ぶれだった。唯一浦口だけは「柏木さんも一緒のクラス! よろしく!」と言ってくれたけれど、名前の順で並ぶと浦口と柏木の間にひとりいる。それが織原木綿花だった。


 「その筆箱可愛いね」


 木綿花はプリントを回しながら美結が作った筆箱を褒めてくれた。それだけで美結は心の中で「このこいい子だ!」と思った。もちろん顔には出さないが。


 筆箱は高校生になるので、大人っぽくフェイク皮を使用した。焦茶色の皮に白い糸でステッチを入れた小ぶりの筆箱。しかし、容量が大きいので実は色々と入る設計だ。自分でも気に入っている。


 「あ、ありがとう」

 「どこで買ったの?」

 「織原さん」

 「あ、はい。ごめんね」


 プリントがたくさんあるようで、残念ながら話はそこで終わってしまった。もし続けていてもきっと美結は答えられなかったのでそれでよかったのだ。


 ーーどこで買ったのって、わたしが作ったんだけど、


 だが、そんなこと言えなかった。


 前に自作した鞄を使っていると「ダサい」と揶揄われたことがあった。数少ない友人にも苦笑いされて、口には出さなかったけれど彼女たちが心の中でそう思っていたことを知ってしまった。


 (……いいもん。わかってくれる人だけで)


 すでにカシミューというブランドでネット販売を行っている。

 アクセサリーや皮小物など、ポツポツと売れているのだ。中には美結の作るものを気に入って何度もリピートしてくれるファンもいる。


 だから傷ついてはいないけど、やっぱり口にするのは少し怖い。

 それでも友達がいないと学校は楽しくないし、グループワークもイベントごとも苦痛でしかない。


 「すごいね。もう志望校決まってるの?」


 入学して数日後。まだ入学したばかりだが、先生と進路面談がある。その際に進学先についての話があるので進路希望表を出さないといけなかった。


 美結は予め調べてきた大学名をプリントに書いていると、木綿花に驚かれた。


 「あ、ごめんね。勝手に見てしまって」

 「ううん」

 「わたし、織原木綿花。あだ名はもめ。よかったら気軽にもめって呼んでほしいな」


 知っている。クラスの自己紹介の際に木綿花がそう言っていたから。


 「柏木美結。美結でいいよ」

 「美結ちゃん」

 「うん」

 

 それで話が終わってしまった。何か話した方がいいと思うがこんな時何を話せばいいか分からない。誰でも話せるように天気の話だろうか。それとも学生らしくやっぱり勉強のことだろうか。


 やっぱり今期始まるドラマの話だろうか。うんうん唸っていると木綿花が話を広げてくれた。


 「差し支えなければどうしてその大学を目指しているのか聞いてもいい?」

 「え?」

 「参考にしたくて。わたしはまだ何も決まっていないから、進路表に書けるのがすごいなぁって。あ、嫌なら無理しなくていいよ!」


 木綿花は両手をあわあわと振った。彼女も何か話題を探してくれていたのだと理解する。


 「……昔からファッションやアクセサリーが好きで自分で作るのも好きなの。だからデザインが学べる大学か、服飾大学か、経営学部のある大学を目指していて」

 「どうして経営?」


 純粋な眼差しに言葉に詰まる。一瞬ためらったものの、美結は小さな声でぼそぼそと理由を説明した。


 「……実は、自分の作ったアクセサリーをネット販売していて」

 「え、すごいね」

 「わたし、人見知りだしあまり人と付き合うのもうまくないし、社会人できる気がしないから、だったらもう早く地盤作れるように経営の勉強しようかなと思……っ」


 顔を上げるとキラキラした眼差しを向けられて美結は目を丸くした。もっと馬鹿にされると思っていた。アクセサリーを手作りするなんて、と非難されると。


 「すごいね! 素直に尊敬する!」

 「え、そ、そう……?」

 「うん! あ、もしかしてこの筆箱も自分で作ったの?」

 「……うん」

 「すごいね! かわいい。これ、ネットで売ってるの? わたしも買える?」

 「……これは非売品」

 「そっかぁ、残念」


 しかし、その会話をきっかけに木綿花との距離がグッと縮まった。木綿花を通じて果乃実とも話すようになり、おかげで新生活は少し楽しくなる。何をするのも木綿花と果乃実がいるから、もうボッチじゃない。


 「もーめっ♡ お腹すいた。早く食堂行こう」

 「美結ちゃん。ちょっと待って」


 木綿花はいつも授業が終わってもノート書いている。意外とのんびり屋さんだ。

 そんなところもかわいい。美結はぎゅっと木綿花に抱きつくと彼女はあわあわとしていた。

 少々のんびりやの彼女だが、人懐っこいのでクラスの人気者だ。美結にはもめと果乃実しかいないので、大事な友人を取られないように、こうして周囲を牽制している。


 ーーわたしから大事な友人を取らないでネ? と。


 果乃実にはその思惑がバレているが、木綿花は鈍感なので気づいていない。


 「美結、あんまりくっつくともめに嫌われるよ」

 「じゃあ果乃実ぃ〜」

 「やめい」

 

 その年の木綿花の誕生日に、美結は手作りの筆箱とアクセサリーをプレゼントした。

 木綿花はすごく喜んでくれて、その筆箱を学校で使ってくれている。そんな彼女の様子を見て、美結は「ずっと友達でいてもらえるように努力しよう」と誓ったのだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ