5話 願いが叶いますように
ーー休日ーー
美月のスクール水着を買いに、一番近くのデパートへ出かけた。
学校用品や生活雑貨も揃えて、カートには荷物がどんどん増えていく。
そんな帰り際、美月が顔を上げて言った。
「パパ、テレビのCMでやってたアスレチックパークに行きたい」
弾んだ声には、期待がにじんでいた。
疲れた様子も見せず、さっきまで手にしていた袋を手に、嬉しそうに腕を振っていた。
美知と直人の視線が合った。
唐突な提案に、ほんの一瞬戸惑った。
けれど、美月の嬉しそうな顔を見ていると、胸の奥がほぐれていくのを感じて、自然と頷いていた。
「今から行ってみる?」と直人が言うと、
美月はすぐに「うん!」と嬉しそうにはしゃいでる。
アスレチックパークに向かう道中、車内には軽快な音楽が流れ、
美月は後部座席でさっき買った文房具を一つずつ確認していた。
美知は窓の外に広がる景色をぼんやり眺めながら、ときおり聞こえる美月と直人の会話に小さく笑う。
どこかで置き去りになった記憶はまだ戻らないけれど、この穏やかな時間に心が少しずつほぐれていくのを感じていた。
しばらくして、木々の間にカラフルな遊具が見えてくる。
駐車場には子供連れの家族が次々に入っていく。
美知たちも車を降り、にぎやかな笑い声の中へと足を踏み入れた。
お昼ご飯もそこそこに、直人が「美知と美月、遊んできていいよ。律は見てるから」と言ってくれた。
その言葉に甘えて、内心少し楽しみにしていたロープネットやボルダリングへ向かう。
「美月ちゃん、行こうか」
そう声をかけると、美月の方から手を繋いできた。
まだ大人よりもずっと小さな手。
その温もりに、気持ちがふっとやわらいだ。
ボルダリングのゴールを目指して、ふたりで必死に登った。
手に汗を握りながらも、美知と美月は見事クリア。
受付で渡されたのは、小さなメダル。
「すごいね、美月ちゃん。やったね」
「ママもすごかったよ!」
⸻
帰り際、美知は小さく頭を下げた。
「ありがとう、直人さん、楽しかった」
「楽しんでくれて良かった」
照れたように笑う直人を横目に、美月が言った。
テーマパークの入口近く、小さな噴水がある。
水の中には、たくさんのコインが沈んでいた。
「ここでお願いすると、叶うんだって」
そう言って、美月はポケットから硬貨を取り出す。
そっと目を閉じて、コインを投げ入れた。
「お母さんの記憶が戻りますように」
――跳ねた水しぶきが、きらきらと光に揺れた。
美知はその後ろ姿を見つめながら、胸の奥がきゅっと締めつけられるような気がした。