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偲愛  作者: 388
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4話 本物かどうか

美知は、ゆっくりと心を落ち着かせながら、湯上がりの肌に服をまとった。


火照った体は早く水分を求めているはずなのに——

頭の中では、あの優しい直人が「本当の直人じゃないかもしれない」という不安が渦を巻いていた。


(……あの人、本当に信じていいの?)


鏡の前に立ち、自分に言い聞かせるように目を見つめた。


「……よし、大丈夫」


口に出してみると、ほんの少しだけ落ち着く気がした。

(そうよ、離婚の話をしたのは“前の”美知。今の私は違う。私は——大丈夫)


無理やりの自己暗示。

それでも、不思議と心の奥に、蓋を閉めたような静けさが広がっていった。


(そもそも……離婚を言い出されたって、別にいい。今の私にとって、彼は“ただの他人”なんだから)


そう思えば、少しだけ呼吸が楽になった——


美知が寝室へ向かうと、直人が寝室の照明を少しだけ落とし、

寝室に入ってきた美知のほうを見て静かに声をかける。


「どう? 落ち着いた?」


その声は、目覚めたときから変わらない、真っ直ぐで優しい響きだった。


美知は、小さく頷いて笑った。


「うん。……ごめんね、心配ばかりかけて」


「こっちが勝手に心配してるだけ。謝る必要なんてないよ」


そう言って直人は、ベッドの布団を軽く整えた。


その何気ない仕草が、やけに丁寧で、優しく見える。

美知の胸の奥に、じんわりと温かいものが広がった。


(この人が“本物”ならいいのに——)


そんな考えが浮かんで、すぐに打ち消す。


寝室には、落ち着いた静けさが広がっていた。

美知はようやく、心の奥にあった強張りがすこし緩んだ気がして、そっと目を閉じた。

深い眠りに落ちていけそうな中——


ふと頭に浮かぶ。

ライト台の引き出し。あそこに、スマホがあったはずだ。


(あの中に何か、思い出せる手がかりが……)


目を閉じかけていたまぶたをゆっくり開き、隣の直人に気づかれないように静かに体を起こす。

隙間から覗く寝息。まだ眠っているらしい。


そっと引き出しを開け、スマホを取り出す。

手に持ったときには、もう電源が落ちていた。


そばにあった充電器にそっと差し込む。

光が灯り、画面が浮かび上がる——が、ロック画面にパスコードが表示された。


(……やっぱり、わからない)


心のどこかでそうなると分かっていたような気もした。


その夜は、充電されていくスマホの隣で、眠りについた。

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