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シル・ストア~来訪者(旧サブタイトル:風の通り道)  作者:
最終章 来訪者

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断章5.聖人の子

最初の記憶、それは母が何者かに罵られている場面だ。

母は黙って俯いている。

その後の記憶は母と二人、街から街へさ迷っていたこと。

そして盗賊に襲われたところを父に助けられた。

父は母から事情を聴いて、自分の故郷、クィーグに連れ行ってくれた。

白髪頭に深い皺だらけの老人だったが背筋がしゃんとした穏やかな人だった。

父は母と僕を家族として一緒に暮らせるようにしてくれたお陰でやっと落ち着いて暮らせるようになった。


数年後、母に求婚するものが現れた。

村の狩人で農夫の男は僕にも良くしてくれたが母を取れるようで大嫌いだった。

父は穏やかに僕の母の狩人の話を聞いてくれた。


そんなある日、僕は母と喧嘩した。

最初は狩人との再婚について僕の気持ちを確認するものだった。

が、次第に意地の張り合いになって口汚く母を罵り、家を飛び出した。

そして禁忌を破って山に入ってしまう。

この時期は山の獣の求婚の季節

普段は大人しい獣達が番う相手を求めて争う。

クィーグの村ではこの時期に山に入ることを禁じている。


僕が山に入るのを見た狩人は慌てて家にやってきてそのことを父と母に伝えたらしい。

母は父と一緒に山へ、狩人は助っ人を呼びに集会所に向かった。

僕はというと暫くして興奮が冷めたところで村に戻ろうとした。

そこで気付く。

周囲を殺気立った獣達に囲まれていることに。


その場から逃げ出した僕を獣達が追う。

僕の悲鳴を聞きつけた母が僕を庇って抱きしめた。

父が僕達を背に獣達を牽制している。

老人とは思えない気迫で獣を抑える父はとても格好良かった。

そこへ助っ人を連れてやってきた狩人の声がする。

助かったと思ったら急に恥ずかしくなった。

抱きしめる母の手を振り払って飛び出してしまう。


覚えているのは真っ赤に染まった世界。

飛び出した僕を獣が襲い、庇った母が死んだ。

父は母の葬式の後、禁忌を犯した僕を連れて旅に出た。


父は旅の途中色々なことを教えてくれた。

今まで訪れた様々な街や村のこと

船旅で海洋国やエマルドに行ったこと

そして自身が異なる世界から突然ここにクィーグ村にきてしまったこと

異なる世界、文字、様々な知識も教えてくれた。

だけど、母から聞いていたであろう僕のことだけは教えてくれなかった。


そうして旅を続けてある街で父は倒れた。

父は最後まで僕を責めなかった。

亡くなる直前、懐かしそうに何かをみつめ、穏やかに息を引き取った。

父が最後に何を呟いていたのか僕は聞き取ることは出来なかった。

・・・僕は父の亡骸を大地に返すことは出来ず、そのまま収納しまった・・・


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「そういうことかの。」

うつむく母親に声を掛ける。

「行く当てはあるかの?」

母親は黙って首を横に振る。

「わしと一緒に来るか?」

母親は顔が上げた。

「一人暮らしだし家政婦として雇われるかの?」

暫く沈黙をした後、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「この子と一緒に居られますか?」

わしが頷くと母親は頷いた。

「よろしくお願いします。」


レナ・カサルからハーレンに戻る道中で助けた母子はジョセフィーヌとセルローと名乗った。

彼女達を襲った盗賊は盗賊の振りをしているがどこかの家に仕えるもの。

豪族に仕える騎士なのだろう。

身元を改めた時、マイセン家所縁のものがもつ短剣が見つかった。

そのことに触れるとジョセフィーヌはマイセン家の姫で禁忌を犯して追放されたという。

16,7歳の少女が3歳の息子を連れて旅をする。

彼女が犯した禁忌を思って気分が悪くなった。

現マイセン家当主の悪行は旅のトリスタンの耳にも入っている。

彼女が望んだことではないだろう。

子供を手放せば彼女は姫でいられたかもしれない。

それでも彼女は自分の産んだ子供と共に生きる道を選んだ。

実の父親が言うことを聞かない娘と息子を殺そうとする。

つくづく腐っている。


翌朝、ジョセフィーヌとセルローには追っ手を撒くために名前を変えるように伝えた。

母親はシンシア、子供はトリムと名乗ることになった。


こちらに来て100年以上の年月が過ぎた。

クィーグ村を出て各地を回った。

この世界で神と呼ばれる存在に会った。

自分と同じようにこの世界にやってきたものの痕跡を調べた。

少しでも役に立てばと思い自分の知る知識を伝えた。

「わしの最後の仕事は子育てか。」

旅を続け自身の子を持つことは無かったがこれも悪くない。

そう思った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

トリスタン教の聖典について


トリスタン教の聖典はトリスタンがトリムを連れてクィーグ村を出た後、

母の死で情緒が不安定になっているトリムに語った言葉がベースになっています。

なので聖書と言うよりは論語に近いです。


100年以上に渡ってあちこちを旅してきたトリスタンの言葉は非常に含蓄に富み説得力が高いです。

巡回牧師達の語る言葉はレナ・カサルの農村の子供達の教育に非常に有益でした。



そんな聖典の言葉に親しんだ筈の司祭達が何故教会と言う場所で腐っていたのか?

これはマーデや他の豪族たちの権力闘争に巻き込まれた結果としか言いようないです・・・

この世界で禁忌とされるのは近親相姦、親子の場合です。

兄弟姉妹の場合、同父母でなければ認められます。

同父母であっても状況次第で認められることもあります。

その例が神聖帝国の2代目以降です・・・

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