3-3.トーリ・サイデン
今回は平和な帰還・・・
視界が揺らぐといつもの玄関だった。
「ただいま」
一声掛けて居間に顔を出す。
まだ両親は帰っていない。
夜、パソコンで編者達と会議をする。
「現在、風の通り道の初版合計1万部は完売しました。」
「おまけで用意していた章単位もこちらも完売してます。」
「これは最初から数量限定にしていて再販しないと告知してあったのですが、欲しいという方が多くて編集部で検討中です。」
当初幻影奇譚社サイト限定販売の予定だったハーレナ語版トーリ・サイデンの小説は他の書店サイトや付き合いの深い実店舗でも販売されることになった。
英語版の辞書が出来たタイミングで英語圏からの予約を開始。
こちらは現在準備中で4月に販売開始予定である。
日本語版の辞書と1章単位以外は第2版の発行、販売を開始している。
風の通り道のドラマは年末に1年目の冬編が終わり、現在は2年目の春を放映している。
1章単位はこれと連動しているらしく1~5章までが最初に完売した。
5章はドラマの放映開始イベント用に俳優たちのコメント付き特装版1000部を用意したのだがこちらもあっさり完売した。
「聖者の左手の初回出荷は完了しました。こちらも第2版を準備中です。」
先週、聖者の左手を原案とするドラマの制作発表イベントがあった。
そこでイベント参加者限定先行販売を実施したのだがイベント参加者数より多い数を用意したのだがこちらも完売。
一人種類を問わず1冊に限定したにも関わらず・・・
・・・残った分はイベント関係者が買っていった・・・
「感想が特設サイトに多数届いています。概ね好評と言うか他のを早く出せと催促が殆どです・・・」
「三枚の硬貨ですが、掲載元から延長の依頼が来ています。」
「?確か半年分話を増やして渡したよね?」
当初1年分本にして1冊で収まる量、12話を渡していた。
発売早々に延長の話があり、3話以降の話を増量し前後編にしたりして18話、薄めの本2冊分の分量にして渡している。
「はい、掲載紙の売り上げが紙、電子ともに好調のなので再度延長してほしいと。」
「バランスが崩れるから流石にこれ以上は無理です。」
「わかりました。その旨相手側に伝えます。ただ・・・」
「ただ?」
「今度は新作の依頼が来るかと。」
「そうそうネタは無いって・・・」
会議は終わってPCにはジーンが映し出される。
「ご勝手サイトも覗いたが大体さっきの報告の通りだな。特に新しい動きは無い。」
「そう。予想はしていたけど、トーリ・サイデン、すごい人気だね。・・・」
「どうした?何か気になることでも?」
「えっと、トーリ・サイデンってストレア、アナ・ハルナの人だよね?」
「そうだが?」
「最初に享年を聞いた時、寿命で亡くなったと思っていたの。」
「?」
「こっちじゃ80歳て言ったら平均寿命だし、レナ・カサルやエマルドじゃ平均寿命、もっと短いでしょ?」
「そうだな。」
「だけど、アナ・ハルナの人達って平均寿命200歳を軽く超えているじゃない。」
「・・・大災害で生き残ったものが寿命で死んだという話は聞かないな・・・」
大災害当時のアナ・ハルナは、アナ・ヤーレやアナ・セドンに居た者を除き、弱い者が生き残れる状況ではなかった。
「大災害をレナ・カサルに留学することで生き残ったトーリ・サイデンは何で死んだんだろう?」
「事故なら事故って記録に残っていそうだな。病気だったという話もないし。」
「ゼンさん、昔会ったことがあるって言っていたけど見た目30歳位だったという話だし。」
「生きていると思っているのか?」
「それは無いと思う。当時の新聞に葬儀の様子が載っているし。」
「気になるのはトーリ・サイデンが亡くなった年ってジーンが生まれた年なんだよね。」
「おいおい、生まれ変わりだとでも言うのか?」
「そうは言わないというかジーン、貴方文才はあまりないでしょ。」
「お前なあ。」
「報告書とかは得意でもトーリ・サイデンの様な文才は無いよね?」
「それは認めるが。」
「私もだよ。見たものやったことを文章にするのは出来ても創作はできない。」
「そういう意味じゃ文才があるのは寛や悟の方か。」
「そう思う。」
佳澄の小説はシンプルでストイックと言われている。
余計な情報をそぎ落として分かりやすくスタイリッシュだとも言われる。
まさかジーンが体験したことを文章にしただけとは誰も思わないだろう・・・
「それでどこが引っ掛かるんだ?」
「トーリ・サイデンの小説とジーンが体験したこと、なんかリンクしている気がする。」
PCの中のジーンが考え込む。
「私が小説のサブタイトルに使う位にね・・・」
「この後どうするんだ?」
「今の出来事が終わったら完結編を書いて作家引退かな。」
「そうか。」
ジーンの質問にずれた答えを返す佳澄・・・
「ただね・・・」
黙って続きを待つジーン。
「私の存在どうしよう・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・来訪者であるお前が鍵となっているのは間違いないから下手に隠すと話が変になるぞ。」
「そこなんだよね・・・かと言って私とバレるようにはしたくないし。」
「性別と年齢設定を変えるか?」
「うーーん、それもそうなんだけど・・・」
「性別変えても違和感無いと思うが?」
佳澄は画面のジーンを殴る真似をした。




