断章2. トリスタン
アナ・ハルナの人々はかって来訪者のことをお客人と呼んでました。
ステバノが佳澄のことを来訪者と呼んだのはダリとワイズマンシステムに理由があります。
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いつも休みになると公園に行った。
そこで彼女と会ってたわいのない話をする。
それが当たり前だった。
それがずっと続くと思っていたのは自分だけだったと思い知らされたの昨日のこと。
彼女から将来のこと結婚のことを話題にするようになってからずいぶん経つ。
それに対し曖昧な返事をしていたのは自分。
その結果が昨日、彼女から別の人と結婚するのだと告げられた。
頭が真っ白になって、機械的にお祝いの言葉を述べていた・・・
その時の彼女の傷付いた表情が忘れられない。
気が付いたら山の中だった。
さっきまで町中で公園から外に出たところまで覚えている。
何時もの公園で彼女の姿を見掛けそのまま背を向けた。
近くで獣の唸り声がして慌ててその場を離れた。
彼は人里を求め山を下り始める。
彼はここで大きな間違いを犯していた。
元の世界に帰るにはその場を動かない、またはその場所をしっかり覚える、目印を付けることが正解だった。
恐怖に駆られ山を下り始めた彼は自分が最初に来た場所をはっきり覚えていない。
それがどういう意味を持つのか彼がそれを知るのは数日後であった。
途中の小川で水を飲み、生っていた果物を齧って山を下ること1日、何かに導かれるように彼は無事人里に辿り着いた。
そして彼は知る。
言葉が全く通じないことを。
パニックを起こして喚き散らす彼に対し、村人は長老と言うべき老人を連れてきた。
老人は
身振り手振りで大人しくするよう伝え、額に手を触れた。
『どうなされた。お客人』
頭に声が響いた。
興奮して落ちつかない彼を老人は自分の家に連れていき飲み物と食事を与える。
彼が手触れているときだけ会話が出来る。
そのことに安堵した彼は疲れから崩れるように眠りについた。
翌日
『わしはオンという。お客人は?』
『私はトリスタンと言います。ここはどこですか?』
老人と会話する内に自分は来訪者と呼ばれるものでこの世界では偶に余所の違う場所からやってくることがあることを知った。
帰る方法を聞くと老人は知らないという。
昔近くの村で来訪者が現れた時、そのものは突然村に現れ、数時間後に現れた時と同じように消えたそうだ。
『その人は帰ったのでしょうか?』
『多分そうなんじゃろうなあ。』
聞いた話によると来訪者が帰るのはやってきた場所の近くであることが多い。
『トリスタン殿、貴方がここに来た時の場所を覚えているか?』
彼は首を横に振った。
村の猟師の付き添いで彼は再び山に入った。
前日のことなのに彼は自分がどういう風に歩いたか思い出せない。
猟師は周囲に何か問い掛けて歩き出す。
そうして暫く歩いてある場所で止まった。
『ここに見覚えがあるか?』
彼は周囲を見渡し、その場所の近くの岩に見覚えがあった。
『あります。暫くさ迷って確かにここに来ました。』
『ここにどうやって来たか覚えているか?』
彼は首を横に振る。
『ここに来るまでにどれぐらい時間が掛かった覚えているか?』
彼は首を横に振る。
『参ったな。風に聞いたらここで貴方を見つけたと言っている。』
『風?』
『ああ、困っていそうなので村まで案内したと言っている。』
周囲を見回すが猟師以外は誰もいない。
ただ確かにここから先は何かに案内されたような気がする。
彼は山に入ろうとすると猟師に止められた。
『ここから先は山の領域だ。場所を覚えていないなら止めた方が良い。』
『山の領域?』
『ああ、山神の領域だ。私も許可なく入れない。』
『どうすれば許可を頂けるのですか』
『あの祠にお伺いを立てれば許可を頂けるが今は時期が悪い』
彼は首を捻る。
『今は恋の季節だ。獣達は気が立っている。興奮していて下手に近づくとと攻撃される。』
彼は獣の唸り声を思い出す。
そのことを話すと猟師は気の毒そうに言った。
『やはりそうか。今はやめておきなさい。』
トリスタンは彼女に振られたと思っていますが実際は違ったかもしれません。
それについて確認することが出来ないままこっちにきてしまいました。
その可能性についてトリスタンが気が付くのは相当時間が経ってからです。
ただ、そうであってもトリスタンはこっちに来てしまったことについて両親や彼女に申し訳ないと思っていますが帰りたいとは思っていません。
彼にとって自分の居る場所はこっちの世界でした。




