作戦会議その3(認識票)
「まずは認識票の作成からね」
今、佳澄が手にしているのは旅行者用の簡易版である。
お金さえ出せば誰でも入手できるが入れるエリア・出来ることは思い切り制限されているし、有効期間も3日間と短い。
「佳澄、新規メンバーとして登録するからここに手を置いて」
本来認識票は役所などでしか発行できないが、ギルドに認められたクランであれば専用の認識票を発行できる。
城塞都市で発行された認識票はその都市でしか使えないが、何でも屋ギルドの認識票はギルドのある場所ならどこでも使える。
ジーンが拠点に向かうことを勧めたのはこの専用認識票の発行が理由であった。
いずれギルドに行って正式な認識票に切り替える必要はあるが当面はこの認識票で問題ない。
しかし、結果は警告音ともに弾かれた・・・
「え・・・何々・・・既に発行済みなので重複発行はできません。・・・」
「どういうこと???」
「・・・どうやらジーンと認識されたみたい・・・」
「嘘でしょ、・・・一卵性の双子だって別人と認識するのに・・・」
数ある異能には変化があり、見た目は好き勝手に変えることができるものがいる。
「ジーン、あんた変化は使えなかったよね。」
「ああ、スキル習得はしてない。」
『ジーンのスキルに変化を登録しました』
無機質はシステム音声が響く。
どうやら佳澄はジーンの変化と認識されたようだ。
一旦認識票の発行は諦め、居間に戻る。
「ミア、認証機の判定基準はなんだ?」
「城塞都市だと遺伝子と生体波だけど、ギルドの場合は生体波と異能波ね。」
「それに遺伝子を加えることは可能か?」
「可能だけどジーンの遺伝子情報を登録してないから意味がないわ」
「となると・・・」
「一旦、ジーンに休眠状態となってもらうのはどうかな。」
今の佳澄はジーン共々活性状態である。
そしてジーンと佳澄は非常に似ている。認証機が同一人物と認識するほどに。
「佳澄、休眠状態って?制御を渡すとどう違うの?」
路地裏のようにジーンは佳澄の体の制御を受け取って自由に行動することができる。
この時、佳澄は体を動かすことこそできないが、目が見え、音が聞こえ、考えることができる。
認証機を使用したとき、ジーンの声は手元の端末から会話に参加していた。
が、実体・本体というべきものは佳澄の中から移動していない。
佳澄の言う休眠とは宿主である佳澄ですら殆どジーンの存在を感じ取れなくなる状態である。
スマホ経由して外の情報にアクセスできるようになったジーンは様々な情報を読み漁っていた。
ここでデータをダウンロードしていれば容量的、金銭的、社会的にもとんでもないことになっていただろう。
ジーンがやったのはその場で自分自身に記憶させる何でも屋時代の潜入調査で培ったスキルを使ったものである。
その為、佳澄や兄の寛、両親も気づかず、突然ジーンがダウンして始めて状況を知ることになった。
図書館ともいうべ情報を集積したサーバの情報を手当たり次第閲覧していてオーバーヒートしたのである。
ダウンから回復したジーンが佳澄や家族からお説教されたことは言うまでもない・・・
「それじゃ始めるよ」
事務室に移動し、再び認証機の前に佳澄は立った。
いつでも認証を開始できるようにミオがその機材の横に控える。
そうして佳澄は深呼吸を繰り返し、ジーンと自分の存在を切り離していく。
ジーンは自分の活動を停止して仮死状態に移行していた。
任務中、標的外の強力なモンスターに出くわした時に使う回避スキルの一種である。
狸寝入りと呼ばれるこのスキルはジーンが開発しギルドに登録された一つで潜入や討伐をメインとする何でも屋には人気スキルとなっていた。
タヌキってなんだ?という質問には笑って答えない。
元ネタは子供の頃に佳澄が読んでいた娯楽小説である。言えるはずもない・・・
1分後、佳澄からもジーンの存在を感知出来なくなってから再び認証機に手を翳す。
『新規登録を開始します。IDを入力してください。』
無機質な音声は情報の入力を促してきた。今度は成功である。
認証機から手を放し、事前に決めておいて設定を入力し、佳澄としての認識票を手に入れた。
ランクなし、見習いを示す白である。
佳澄の立場はジーンの生き別れた妹になった。