とある作家の帰り道
都内のどこかで開かれた大手出版社のライトノベルレーベル5周年のパーティに参加した作家は家路に向かう前、親しい作家仲間と居酒屋に入った。
普段はSNSなどでやりとりするのでこうして直接顔を会わせる機会は少ない。
「乾杯」
ビールのジョッキを掲げる。一人は飲めないのでウーロン茶だったが。
暫く近況や新作などの話を続け、その内、一人が先程のパーティの愚痴を語りだした。
「いやーさっきは担当者に変な話をして大変だった。」
「どうした?」
「最近見たアニメと言うことで風の果ての物語のラストの話をしていたら編集長に担当者が絡まれて。」
「なんで」
「どうも原作者に交渉しようとしてあっさり断られたらしいんだよね。俺の担当者。」
「あー、逃げた魚は大きかった奴か。」
「実際大きいと思うよ。最近本屋で特設コーナー見かけるから。」
昨年のスピンオフのドラマは3シーズン放映、ファイナルシーズンは今年の秋に予定している。
演じていたのは放映開始時点ではメジャーとは言えない劇団だったが今では主役級を演じていた俳優は結構TVで見るようになった。
アニメも変に視聴者に媚びた部分がなくそっちからファンになったというものを多い、
「あのラスト、交流サイトで炎上仕掛かったという話だしな。」
「ドラマからアニメに行ったんじゃショックでしょあれ。」
「あれ、元々だし、あのサイト公式じゃなくて勝手サイトだったしなあ。」
「最近の幻影奇譚社ってよく見てるよね。うまく俳優さん達と連携・フォローしていい流れに持っていたし。」
「海外で無断掲載とか告訴してるし。」
「質の悪いアカウント、除名処分にしてその後もどうやっているのか再入会できなくしているみたいだし。」
「安いとは言え有料サイトだからな。居心地悪くするやつがいないのは有難いよ。」
「そう言えばこれを持ってきたんだ、」
そう言って16冊の小冊子を見せる。
「おー、全部入選したのか流石だな。」
暫く冊子を捲る音だけが響く。
「おっと料理が冷めちまうな。」
再び箸が動き空になったジョッキを手に追加注文をする。
「聞いたか、児童文学の大御所がこれの翻訳頼まれったって話。」
「聞いた聞いた、で自分ではこれの良さを引き出せないって辞退したって聞いた。」
「それ、本当らしいぞ。」
「サイトに参考翻訳って形で掲載されたけど、その後これの翻訳版出すって話聞かないね。」
「トーリ・サイデンの小説って他にもあるのかな。」
「小説にタイトルが出てくるだけで10冊位はあるだろ。」
「読んでみたいよな。」
最近出た第4部 聖者の左手には1~4巻まで巻末にダイジェスト版の和訳が載っている。
「4巻のラスト、ビビったよなあ。」
「本編の方は無事追放されたのにトーリ・サイデンの小説の方はバレないままで終わっているんだもん。」
「そっちの聖者がどうなったか凄く気になる。」
「幻影奇譚社に要望書出そうか?」
「バレたら怒られそうだけど・・・」
隣の席の男が振り返り、ポンと肩を叩いた。
「怒りませんよ。」
「げっ」
彼らの担当編集者達がそこにいた。
「私達も乗ります。」




