断章_焦り
レア・マーデの元首アルフォンス・マイセンは傍から見れば非常に恵まれている男だろう。
高貴な血筋、能力、外見、権力どれをとっても人から羨ましがられるものだ。
本人にとってはどうだったのか?
アルフォンス・マイセンにとって自身のこれまでは挫折の連続で何一つ思い通りにならないものだった。
最初の挫折は判定の儀、神の子となる資格があるかどうかを判定する儀式だった。
彼は自身が神の子となり法王国に行くのだと思っていた。
結果は無反応、判定の宝珠は輝くことなく沈黙している。
彼はその結果が信じられず荒れた。
実際は彼の両親が我が子を法王国に送りたくなくて判定の宝珠を単なるガラス玉にしたという裏はあったが・・・
この点については判定の宝珠を使ったとしても神の子と判定されるほどの才能があったかは疑わしい。
この後、高名な異能を持つ何でも屋に異能の習得の手伝いをさせたがうまくいっていないのだから。
次の挫折はデ・カサルの上級市民との婚約騒動である。
アルフォンス・マイセンが20代半ばの頃、10歳近く年下のデ・カサルの異能を持つ上級市民の娘との婚約話が持ち上がった。
彼には既に何人もの愛人や子供がいたが正妻は居なかった。
相手の見目は悪くないし、何より相手が成人するまでに時間があるから丁度良いと思っていたが・・・
その相手は逃げて自分の手の出せないところに行ってしまった。
最初の挫折は神から、今度は人から明確にNoと突きつけられたのだ。
その報告をした補佐官に手にしたカップの紅茶を被せるという八つ当たりをしてしまう。
その後の何度かその父親と顔を会わせる機会があったが、自分の父親と同じ世代なのに若々しく仕事も出来る。
その上、自分に対しては慇懃無礼な態度で婚約の一件も暖簾に腕押しで有耶無耶された。
さらに元首となる実力がありながら後輩に譲り、自分は表舞台に立とうとしない。
そして昨年、アナ・ハルナで起こった大災害にレア・マーデの飛行艇が関係しているのではないか疑われる。
彼の親どころか曽祖父の時代の話でその関係者は誰も生きていない。
またその前に起こった何でも屋が行方不明になる事件の関係を疑われ対応に追われている。
その一件はおひざ元の教会が廃都で人体実験をしていたというおまけ付きだ。
事態は彼の予測を超え目まぐるしく移り変わっていく。
彼は表向き冷静で優秀な統治者として振舞っていた。
その内面は怒りと焦り、劣等感様々な感情が渦巻いている。
彼は夜一人で酒を飲むことが増えた。
そして教会から派遣された医師から薬を処方され眠ることが日常となっていく。
その薬が何だったのか知ることなく・・・




