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シル・ストア~来訪者(旧サブタイトル:風の通り道)  作者:
第2章 レナ・カサル

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2-12.岡目八目

戻ってくるまでに掛かった時間は1時間

泣いている悟を宥めすかして落ち着かせ、情緒不安定な悟のケアに努めて1週間

佳澄は疲れた様に机に突っ伏していた。

「やっと落ち着いた・・・」

学校では普段通りに過ごしていると自己申告しているし、学校からの問い合わせもないが家ではかなりアレな状態となっていた。

まるで最初に目にしたものを親と思うひよこか飼い主をストーキングする猫のごとく佳澄の後をついて回る状態が続いたのだ。

姿が見えないと挙動不審になるので暫く佳澄のスマホを悟に渡してジーンが声を掛ける様にしている。

「お疲れさん。」

やっと手元に戻ったスマホからジーンが声を掛ける。

「今回は悟の目の前だったこと忘れてた・・・」

佳澄が向こうで過ごした時間は1か月以上、どういう状況で向こうに行ったかなど忘れても仕方のない面はあるが。

「これからはもう少し前兆を確認するようにしないと・・・って手掛かりは無いんだよね・・・」

ノートには今まで行き来した状況を書いているが法則は見つかっていない。


首藤や三枝に対しては悟がナイーブになっているということで直接の連絡は控えて貰っていた。

今日の打ち合わせにやっと参加して日常が戻りつつある。

「本の販売は想定通りかやや上、サイトのコメントも悪くない。」

「半分以上が書籍用のオリジナルだからねー。本に載せた話を掲載してくれっていう意見もあったけど。」

「読みたきゃ本を買えってということで本に載せた話はサイトには載せないって方針をサイトに載せて貰った。」

「代わりに偶に電子版の無料参照期間を設けるみたい。」

「で、問題はこっちか。」


目の前にはトーリ・サイデンの小説が6冊、小説のタイトルとして使ったものである。

・風の通り道

・海神の贈り物

・星祭の唄

・聖者の左手

・龍の咆哮

・三枚の硬貨

三枚の硬貨は幻影奇譚社と縁の深いSF系の雑誌に連作として9月から連載を開始した。

一応12話、1年分の原稿を幻影奇譚社に預けてある。

特設サイトに告知しているのでこちらの動きも気になるところ。


「これ全部ハーレナ語版の原稿、幻影奇譚社に預けて翻訳者探しをお願いしていたんだけど・・・」

作風は牧歌的な自伝、冒険活劇、青春、サスペンス、歴史ミステリー、幻想奇譚・・・

どれか一つくらいは訳せそうな人が居るかと思ったら結果は全滅

英語版も期待できないという。

作風は違ってもトーリ・サイデン節ともいうべきものが根底にあってそれを無視して訳せない

さらに編集者達は全部読んで翻訳者に求めるレベルのハードルが思い切り上がったらしい。

「編集部は諦めてハーレナ語版出版に舵を切ったみたいだぞ。」

「そうなると英語版の翻訳オーディションが終わったらその結果をもって、年末にハーレナ語版の出版を告知かな?。」


悩みや考えることは沢山あっても日常は続く。

鍛錬、家事、学校、作家活動、弟の受験、そして何でも屋生活、気が付くとあっという間に年末が近づいていた。


本日の当番はジーン、食卓には帰省した寛を加え深山家の5人が揃っていた。

和やかな会話はやがて昨日のハーレナ語版出版の告知に移っていった。

「結局、翻訳者は見つからなかったか。」

「父さん達、祝賀会に出たんでしょ。どうだったの?」

日本語版の祝賀会は2回、1月の終わりと5月の連休明けに、英語版は1回、12月の半ばに開催された。

英語版は各回(4章ずつ)の最優秀者5人については出版社側の渡航費、ホテル代込みの招待、残りの最優秀者は代理店側で設定したビデオ会議での参加による祝賀会である。

両親、寛は最優秀者と直接会話する機会があったので聞いてみる。

「うーーん、英訳版をなんか薄いと思うよ。最優秀の人達はなかなかだけど日本に来たのは皆、40代以降だったなあ。」

「日本語版の方はドラマを見ていた人が多くて訳に深みがあったけど。」

「若い人達にはあれの翻訳厳しかったみたいね。優秀者はともかく、最優秀は30~60代だったわ。」

英語版の応募者数は日本語版の5倍、人数比は日本語も英語も変わらず10代が15%、20代で35%で50%以上を占める。

しかし、優秀者になると20歳未満は日本語版は辛うじて数%いたが英語版は0。20代も数%である。

「トーリ・サイデンがあの話を書いたのって確か50歳位の時だって話よね。」

「うん、そう聞いている。」

「貴方達から話を聞いている私達でも厳しいと思うのに他では無理と言うかあの文章をトーリ・サイデンの翻訳として認めるのは出来ないわ。」

「まあ、参加した翻訳者達も同じ意見だったからね。彼らは皆ハーレナ語版を読みたくてオーディションに参加したという話だから。」

「ハーレナ語版の出版の話が出たら皆躍り上がって喜んでいたよ・・・」


食事が終わり、悟は受験勉強で自分の部屋に、明日も仕事な両親は居間でのんびり読書、佳澄と寛は寛の部屋に集まった。

遮音結界を張っての高速言語会議を開始する。

最初に向こうでの現状の報告

「現在、レア・マーデや教会を追い詰める一手に欠けるということで良いのかな。」

「バレたと知って蜥蜴の尻尾切に走られた。」

「誘拐された4人が解放されたのは喜ばしいんだけど・・・」

「薬物が使われて後遺症が残っているからな。」

「今回見つかった過去の資料で、人の脳髄を使った人体実験が噂ではなく事実だったけど今回はそれは無かったからね。」

「もう少し時間だ経てばそちらも実験したかもしれないが。」

はっきりしているのは新しいコアの開発方針として異能者の持つ並列思考に目を付けたということ。

誘拐した何で屋に負荷を掛け、脳の動きを調べる実験が行われていた。

今回の摘発の切っ掛けとなった不良何でも屋達は何でも屋としてのランクはD、誰も異能者と言えるレベルではなかった。

シル・サーレのウェルシーはランクこそ低いがれっきとした異能者である。

下卑た下心と言うより優秀な異能者を確保したかったのかもしれない。


「今回の一件で結構な数の人間がレア・マーデと教会で逮捕されたけど。」

「鍵を握っていそうな奴は皆死亡した・・・一応遺書有の自殺ということになっている。」

「教会ではフランツ卿もデミアン卿も側近の自殺で終わった。」

「後、エマルドの修道院に送られたトレイス卿は死んだみたい。」

「で、余所からの視点と言うことで僕の意見を聞きたいと。」

「次の手として考えているのはジルフォードとアルフォンス・マイセンなんだが今の状態じゃ会っても逃げられる。」

「ジルフォード卿とはこの前少し顔を合わせたけど前哨戦にもならなかったし。」

「道化師を捕まえるのが一番手っ取り早いんだがなあ。」

「そういう物騒なことは置いておいて、もう一個停滞していることがあるでしょう。」

「?」

「ワイズマンシステムの再起動。」

意表を突かれた顔に寛は続ける。

「確かデューさん、海底神殿の入り口まで行けたけどどうやって中に入るかで手間取っているって言っていたよね。」

「中に入る方法は神官達に伝えられていてデューだとうまく操作出来ないらしい。」

「ジーンなら出来るんじゃないの?」

「俺なら出来ると思うがどうやってそこまで行くんだ?」

「デューさん収納持っているんでしょ?マリオネットを運んで貰えば?」

その手があったという顔になる。

デューもジーンも生身の人間を海底神殿まで連れていく前提で考えていた。

その為、潜水艇の開発を進めていたが海底神殿は海神の申し子とその眷属達が守りを固めていてうまくいっていない。

デューだけなら通すが潜水艇は攻撃しないものの邪魔されて近づけないのだ。

「押して駄目なら引いてみなというでしょ。レア・マーデや教会は暫く放っておいてこっちを攻めてみたら。」

そうこうする内に年が明け、初詣でを済ませ部屋に戻った瞬間視界が揺らいだ。

この話中で1回向こうに戻ってます。

会話の通り事件の経過は分かったけど黒幕には手が届いていない少々手詰まりの状態に陥ってます。


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