作戦会議その1(お帰り)
そして今、穏やかに笑う二人の女性の前に佳澄は座っていた。
チンピラ達を伸してから一時間も経っていない。
空気は南極かという位冷え切っている。
「初めまして、私は佳澄、深山佳澄と言います。」
「カスミさんね・・・分かっていて口にしているのかい。」
「はい、マーサさん、ミアさん。」
気温はさらに下がった。
「私達が誰か分かっているということね」
「はい」
「理由を聞いていいかい。」
「はい、その為にここに来ました。」
それから30分後・・・頭を抱えた二人と素知らぬ顔でお茶を楽しむ佳澄の姿があった。
「この話を信じろというのかい、ミア、出来る?」
「信じられないけど目の前にこれがあるからねえ。」
今の佳澄はカフェでの姿と異なりジーンの私服をアレンジして身にまとっている。
その上、燦然と輝く金色の認識票、認証機でジーンのものであることを確認済み
『タミ茶、美味しいね。一度飲んでみたかったんだ』
『工夫したからな』
簡単な説明を終えのんびり脳内会話する二人
『少なくともここを叩き出される心配はなさそうね』
「カスミ、ジーンと話せるかい」
「なんだ、マーサ」
佳澄の気配が変わり、息を飲む二人
「似てると思ったけどこれは間違いなくジーンの気配ね・・・」
「通信で聞いたけど、あんた一体何をやったんだ。
法王国のテロリストなんててこずるような相手じゃないだろ」
「今回の襲撃、魔人、それも魔王クラスが絡んでいる。」
「襲撃犯は法王国の断罪派だって聞いたけど」
「襲撃犯ではなく指示したトップが魔人と手を組んだか魅了・洗脳されたんだろうな」
法王国は大災害後、モンスターと一緒に猛威を振るった魔人に対抗するために成立した国家である。
魔人に対する敵意は異能者の比ではない。
「どういうことだい」
「最初に現れた襲撃犯や違和感のあった使用人達に異能の気配はなかった」
それでも襲撃は起こった。
ということは今回の指示した側は法王国内の上層部、それこそ枢機卿クラスでないと実行は厳しくなる。
「最後に現れたやつは異能どころか魔人の気配がプンプンしていたがな。」
「さしものジーンも魔人相手じゃ荷が重かったっていうことかい」
「予測できているかフル装備なら何とか出来たんだがな」
「やれやれ、法王国のトップが魔人に洗脳かい、世も末だね。」
「あー、まどろこしい、ジーン、何とかならないのかい」
最初はジーンのみ会話していたが確認で佳澄が返事をする必要な場面もあり、マーサが切れた。
「はいこれ、やっぱり必要になったね。」
佳澄は、何もない空間をごぞごそ漁るような仕草をしてスマホを引っ張り出した。
「カスミ、あんた収納を使えるのかい。ジーンの話じゃ異能なんてない世界だと聞いたけど」
「こっちに来てから色々試している内に使えるようになりました。」
佳澄もむこうにいた時からある程度並列思考をマスターしている。
傍目には軽食を食べているだけに見えただろうが実際は、ジーンと二人で異能が使えるかシミュレートしていたのだ。
結果、ジーンの持つ異能のほとんどは大掛かりなものを除いて佳澄も使えることが分かっている。
大掛かりなものも試してないだけである程度試せば使えるようになりそうだった。
スマホの画面を起動するとジーンの姿が現れた。
「何か違和感ある?」
「問題ない、あっちよりスムーズな位だ」
「それは良かった。」
ジーンとの共存が兄にばれた後、色々3人で話をしていてマーサと同じように兄が切れた。
何とかジーンにも直接会話に参加させようと、手始めにおもちゃのおしゃべり人形から始まって最後にスマホに落ち着いたのだ。
画面のジーンの姿はゲームのキャラメイクで作ったものである。
その為にわざわざキャラメイクの豊富さに定評のあるゲームを買ってきて一時間以上掛けて作った力作であった。
ちなみにそのゲームは兄妹達に遊ばれることなくお蔵入りし、後に親せきの家に貰われていった。
「マーサ、ミオ、改めてただいま」
「お帰り、ジーン」