閑話_人形師の顔
新メンバーとの顔合わせと夕飯が終わった食堂、ジーンと人形師は簡単な酒肴を用意していた。
「これが向こうのワインですか。」
「値段は安くて飲みやすくて美味い。手軽に飲める奴だよ。」
人形師はグラスを傾け香りを楽しんだ後、一口飲む。
「良いんですね。お土産に欲しいんですが1本譲って貰えませんか?」
「働き次第だな。」
暫く雑談をしていると風呂から上がったマリスとリオンがやってきた。
4人で酒を酌み交わしているとアレストリアでの出会いの話になった。
「あの頃のアレストリアは役人がマフィア達の言いなりで無秩序に街が広がっていてな。
調査依頼でムードと一緒にやってきたはいいものの肝心の依頼人が行方不明、
手付金は貰っていたので仕方なく捜索をやっていたんだ。」
「依頼内容がこちらの不利になるものだったので依頼人を押さえたんだけど依頼は既にヤーレで受領済み、
それでやってきた何でも屋を何とかしようと待ち構えてました。」
「依頼人もそれが分かっていたからアレストリアじゃなくヤーレのギルドに依頼を出した訳だ。
で、こっちは依頼内容の裏取りと依頼人探しで情報収集でスラム街の酒場巡りをしていた。」
へーと言う顔で頷くリオンとマリス。
彼らが生まれた頃の話であり、現在のアレストリアしか知らない彼らには想像し難い世界である。
「今はマシだが当時のスラム街の飯は食えたもんじゃない。」
「そうですねー。ここのご飯を思うと食べる気しないのがよく分かります。」
二人のグラスにワインを注いで続きを促すリオン。
「酒場に来た以上何かしら頼む必要があったし、情報源になりそうな男たちのテーブルに同席させて貰って酒と料理を頼んだ。」
「こっちはターゲットがやってきたと思ってその料理に薬を盛ってウェートレスに渡したんです。」
「それで?」
「こっちは食う気は無いからそのまま同席している男達に回した。」
「それを食った男達が痺れ薬にやられて・・・」
後は店全体を巻き込んだ大乱闘である。
「痺れ薬を食わせてしまった奴らとはその後和解して協力者になってもらったんでめでたしめでたしだ。」
「こっちは災難ですよ。店はボロボロにされるし、今までいい関係を築いていた連中に離反されるし。」
踏んだり蹴ったりで大変だったんですよとぼやく人形師
この1件でマフィアの一員だった人形師は二人に目を付けられ、無事依頼人を救出する切っ掛けとなった。
「そのマフィアはどうなってんです?」
「二人はそういうの許すと思います?」
首を横に振るリオンとマリス。
「証拠を押さえて悪徳役人共々追放したよ。」
「人形師さんも?」
「私は二人に捕まって病院送りにされていたんです。」
「証人の一人だったからこっちでガードしていた。」
「退院した時には自分の住処共々綺麗に更地にされていて暫く街で働いていたんですが、居づらくなったの仕方なく別の街に行きました。」
人形師とジーンが再開するのはそれから10年後、ゼノバーンのスラム街であった。
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新メンバーの顔合わせが済んだ翌日、朝食の時に思いついたようにマリスが人形師に話しかけた。
「人形師さん、顔出しして大丈夫なんですか?前元首に恨まれているんじゃないですか?」
「それは大丈夫だよ。」
その問いに答えたのジーン。
「だって、あの人達人形師の素顔を知らないから。」
と佳澄。
疑問符の浮かぶ6人にジーンが答える。
「あいつらが人形師の素顔だと思っている人形はトニオのところに置いてある。」
えっという顔で人形師を見る6人
視線の集まった人形師は頭に手をやって困った顔をして答える。
「旅をしている間に色々ありまして・・・この顔じゃ嘗められるんで人形を使うことにしたんです。」
人形師は小柄なジーンよりもさらに小柄で童顔、地味顔である。
実力に対し軽く見られるのは無理も無い。
「纏を使えば生きた人間そっくりの気配を出せるからな。」
「ええ、あのスキルには助けられました。」
最初の出会いの時、人形師は纏をマスターしていなかった。
そのため痺れ薬入りの料理を持ってきたウェイトレスはあっさり人形であることを見破られた。
その場を辛うじて逃げ出した人形師は現場に残った人形の痕跡から二人に追い詰められることになる。
その後、ギルドに公開された纏を知った人形師は自身の代理として人形を使うことにしたのだった。
なんやかんやで放浪を続け、ゼノバーンでカルロスに雇われた人形師は一時期息子である現元首のトニオの護衛(監視)をしていた。
そんな最中にジーンと再会し・・・正体がバレ・・・二重スパイを経て現在に至る。
護衛時代にすっかり情の移ったトニオは人形師にとって手間の掛かる弟の様なもの。
人使いが荒いだなのなんだの文句をいいつつ、世話を焼いている。
本体同士だと外見、体格でどうみてもトニオの方が兄なのだが・・・
あの事件の最中、トニオが一番ショックを受けたのは人形師の本体(外見)だったというのは3人の秘密である。
なお、ゼノバーンにいる者の大半は人形の方が本人だと思っている。
「そう言えば里帰りはしたのか?」
「そこを更地にした貴方が何を言うんです?」
「いるだろ、一人、お前が顔を見せるのを待っている人が。」
「どの面下げて会いにいけるんですかと言いたいところですが、会いましたよ、ここに来る前に。」
「へーどういう心境でそうなったんだ?」
ゼノバーンにいた頃何度勧めても首を横に振っていた人形師である。
「行きたくって行ったんじゃないですよ・・・」
「・・・ムードか?」
「ええ、アレストリアに着いたら無理やり連れていかれました・・・」
20年前、人形師が属していたマフィア一家のトップはアレストリア近郊の農村に移住していた。
実際は罰として荒野の開墾をしていたのだが、シル・ストアより知り合いの辺境民が協力している。
お陰で一緒に送られた者達は誰一人欠けることなく農村暮らしをしていた。
「会えて良かっただろ。」
「ええ、あの一件はあの方の本意では無かったですから。」
「他にも色々会えたんじゃないか?」
「はい、鉱山送りになっていた兄さん達も結構戻ってきてましたし。」
「どうだった?」
「皆憑き物が落ちたみたいで私に謝ってきてましたよ。」
今の農村の姿は彼らが望み目指していたものに近かった。
元々人形師の居た組織ははぐれ者の互助会から始まっている。
それがおかしくなったのはレア・マーデから来た男が加入してからである。
その男は犯罪者としてレア・マーデに送られ処刑されたと聞いている。
「ま、時々で良いから顔を見せてやれ。」
「そうします。」
「あの今更なんですが人形師さんの本名は何と言うんです?」
ウェルシーの問いに人形師は人差し指を振った。
「それはひ・み・つ」




