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シル・ストア~来訪者(旧サブタイトル:風の通り道)  作者:
第1章 ハーレン

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外へ

「レナ・カサルの方はどうだ」

「こっちはレア・マーデの動きが怪しい」

レア・マーデは神聖帝国建国時の首都であり、何かと周囲の都市に対しマウントをとる傾向がある。

ミオの表情を見て佳澄は言葉を掛けた。

「確かミオ姉の見合い相手ってレア・マーデの人じゃ無かったっけ?」

マーサとミオはデ・カサルの上級市民の出身で次期元首候補がマーサの兄で、ミオの父である。

マーサは政略結婚で他の都市に移動中に起こった事件で知り合ったガイに惚れて押し掛け女房になった。

ミオは見合い話を嫌って15の時にマーサのところに逃げ出した。

「現元首がそう、私の異能の才に目を付けての一方的な申し込みだったからね。」

「兄がこのままじゃ断れないと思ってギル経由でハーレンに逃がしたというのが真相だけど」

「上級市民で異能者は数えるほどしかいないからケンも苦労しているよ」

年齢的には元首になってもおかしくないのだが異能者で見た目が若いので元首選挙には立候補していない。

デ・カサルの現在の元首は年下でケンの元部下だったこともあり頭が上がらないらしい。


「行方不明になった何でも屋の依頼主を手繰ると現レア・マーデ元首マイセン家に縁のある商会にたどり着く。」

「その上、エマルドで行方不明になった街に商会の支店があるのよね」

「あそこに他の大陸の商会の支店があること自体は珍しくないんだがな。」

「ただその前後で商会の大物が複数出入りしていたことを思うとね。」

「資料から読み取れるのはこれ位だ。ギルドに対する報告は一旦これで上げておくよ。」

「分かった」


翌日、佳澄はゼンと共に彼の暮らすヤーレ近くの農村に来ていた。

見た目、長閑な農村なのだが周囲に番犬のごとくヘル・ドッグが寝転がっているが・・・

村で乗ってきたバギーを降りた時、新入りの佳澄に警戒して唸り声をあげたが、ゼンに一睨みされ大人しくなった。

それでも何頭かは近付いて匂いを嗅ぐ。

その後、一声遠吠えを上げると皆警戒を解いて周囲に散っていった。

「どうやら合格したようだな。」

「不合格だとどうなるんです?」

「数頭ずっと張り付く」

元は牧羊犬という話だがモンスター化した際巨大化して牛並みかそれより大きい巨体に張り付かれれば並みの人間にはきついだろう。

犬猫の飼えないマンション暮らしの佳澄としては撫でたいモフモフしたいなのだが。

「怖くないのか」

「ジーンがよく一緒に遊んでいたので怖いという感覚は無いですね」

そうやって村を歩いていると遠くの方から1頭駆けつけてきた。

「ルー!」

佳澄は嬉しそうに声を上げる。

「分かるか。」

「はい、ジーンと一番仲良しの子ですよね」

『代われ』

ルーは3m程のところで止まって様子を見ている。

佳澄からジーンに切り替わった途端、ルーは尻尾を振ってのしかかってきた。

「よしよし」

そう言って首回りやあごの下を撫でる。

『ジーン、私も撫ぜたい。』

「ルー」

ジーンの言葉にルーはお座りする。

佳澄に切り替わるとルーは不思議そうに首を傾げた。

「私は佳澄、ルー、撫ぜても良い?

佳澄は軽く腰を屈めてルーと目を合わせる。

野生動物でこれをやると襲い掛かられても文句は言えないがルーはこのシル・ヤーレ村の一員である。

暫く見つめ合っているとルーの方から仕方ないという顔で寄ってきた。

その頭を軽く撫ぜる。

「有難うね」

そう言って佳澄は一歩離れた。

「もう良いのか。」

「うん、ルーが遊びたいのジーンだろうし、私は今は撫ぜさせて貰えただけ満足だよ。」

「これから仲良くなるか。」

「はい、その積りです。」


佳澄はゼンの紹介で村の住人達と挨拶を交わしながらあちこち歩く。

ルーはそのお供とばかり、1m程離れた場所を前に後ろに移動しながらついてくる。

「この子達、首輪とか付けないんですが?」

「都市や村の近くにいるのは皆村の一員だ。野生は村のない平原とかにしかいない」

「祭りか何かで複数の村が集まる時は前足にリボンとかを巻くことはあるがな」

「人も同じ色のリボンを腕に巻くから同じだ。」

急に周囲が暗くなったと思ったら大きな鳥が足に猪のような生き物を掴んで降りてきた。

ワイルド・ボアは畑を荒らすので村の近くに姿を見せるとこうしてヘル・ホークやヘル・ドッグ達に狩られる。

ゼンや村人は素早く皮をはぎ、解体するとヘル・ホークは自分の取り分を持って自分の巣に戻っていった。

残りは村の皆のご飯として夕方に分けられる。

どうやら結構な数を見つけたらしく、ヘル・ホークやヘル・ドッグ達は次々と獲物を咥えて戻ってきた。

こうなると村の住人総出で解体を行うことになる。

「ジーン」

佳澄では役に立たないのでジーンに入れ替わり解体に参加していた。

今日食べない分は時間停止の収納持ちが回収していく。

これらは狩りが出来ない時のご飯となる。

それを分かっているのでヘル・ホークやヘル・ドッグ達は解体を人にやらせている・・・

狩ったものの特典として一番美味しい部分は持っていくが。

「この子達雑食なんですよね」

ひと段落付いたころに佳澄に戻って声を掛けた。

「ああ、そうだよ。冬場は野菜ばかりになるんで文句を言うやつもいるがな。」

「逆に肉より野菜ばかり食うやつもいて今日みたいに大猟で肉ばかりになると今度はそいつが文句を言う。」

シル・ヤーレ村では野菜は人間が、肉類はヘル・ホークやヘル・ドッグが捕ってくる分業体制である。

ハーレンに限っての話ではあるが人間と共存することで安全に子育てが出来るのでヘル・ホークやヘル・ドッグが人を襲うことはない。

例外はレナ・カサル製の武器を持つものである。

その為、ハーレンではレナ・カサル製品はモンスターを誘き出す餌として使われている。


こんな話がある。

レナ・カサルの武器屋でハーレンの者が安い壊れかけた武器を買っていく。

高い高性能なものを勧めても誰も買わない。

てっきり貧乏で買わないのかと思って親しくなったハーレンの若者の祝いに武器を贈ろうとしたら

「俺にはこれがあるから要らない。気持ちだけは受け取っておく」

そう言って手入れされたアナ・ハルナ製の武器を見せた。

自分は贈ろうとした武器の数倍は価値の高い武器に驚いた店主は何故安い武器だけを買っていくのか聞いた。

「あれらはモンスターを呼び寄せる囮として使っている」

それを聞いた店主は更に問うた。

「レナ・カサル製の武器はモンスターを呼び寄せる?」

「ああ、ハーレンじゃ常識だ。武器だけじゃない通信機も何もかもそうだ。」

それ以降、その武器屋はアナ・ハルナ製の武器を揃えるようになったという。


ヘル・ドッグは犬がモンスター化したものの総称、姿形は色々です。

ルーはサモエド、8歳です。

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