閑話_黄昏時
山の夕暮れは早い。
太陽が山の向こう側に消えるとあっと言う間に周囲に闇の気配が漂いだした。
獣たちの活動時間である。
佳澄と寛は畑近くの木陰に隠れて、様子を窺っている。
現在のミッションは畑を襲う猪退治。
日中に他の畑周辺の灌木を刈り、雑草を抜いて視界を良くしたので襲うのはここになるはずだ。
当てが外れた時の為に、他の畑にも門下生が付いている。
わざと明かりをつけているので野生の獣がそちらに行くことはまず無いだろうが。
今世話になっているこの村では高齢化が進み、地主さん一家は辛うじて若い者がいるが他の世帯は殆ど50代以上だ。
幸いと言うかこの合宿が切っ掛けとなって地主さんの孫は残り、門下生の何人かは農作業の手伝いでちょくちょくやってくる。
その内の何人かは定住を検討しているので比較的恵まれている部類だろう。
この前日、佳澄は道場近くに現れた熊を退治している。
それ以外にも罠を使った追い込み猟で狐や狸、鹿に子熊も捕まえていた。
※子熊は熊が嫌うスプレーを掛けて山奥に逃がした。
空手の合宿に来たはずが何をやっているんだと言われそうだが元々この合宿の趣旨に地主さんの手伝いも入っている。
佳澄は農作業の手伝いや山菜取り、毒キノコの見分け方講習など、修行そっちのけで励んでいる。
「大会に参加する気が無いからこれで良いんだろうなあ」
とぼやく寛もまた同じように農作業の手伝いをしていた。
お陰で例年に増して食事が充実した合宿になっている。
※真面目に稽古している門下生の方が多い・・・
そうこうする内に獣気配が周囲に漂いだした。
佳澄と寛は頷いて気配を消す。
30分程で現れたのは親離れしたばかりの若い雄猪。
そっと近づいて急所を一突き、倒れた猪を寛に渡してまた気配を消す。
寛は同じく気配を消した状態で猪を村の方に引き摺っていった。
そういう作業を2度ほど繰り返すと寛は言った。
「今日はこれくらいで十分だろう」
間引く予定数は満たしたので次は殺気を高めて獣達を山奥に追い立てに掛かった。
気配が変わったことで様子を見に来た近くの門下生は倒された猪にぎょっとするも声を上げた。
「追い出し開始!」
門下生達は用意していた銅鑼やらバケツやらを叩いき大声を上げた。
慣れない彼らは下手に山に入ると怪我しかねないのでヘッドライトを被って畑や果樹園の境目を数人で歩いている。
一時間後、獣の気配がすっかり消えた村に佳澄と寛は戻ってきた。
手には猿や山鳥が握られている。
「猿もおったか」
地主の言葉に寛は頷いた。
「見つけたのはこいつだけなのではぐれ猿じゃないでしょうか」
本来この山は猿の生息地ではない。
「居つかれん内に狩れて良かったの」
そう言って家の方に戻り始めた。
「捌いた奴は明日届けるよ。食い切れん分は燻製にするが良いか」
「お願いします。」
翌朝、人気のない早朝に道場で佳澄と寛は向かい合った。
30分程、幾つかの型を確認して稽古を終える。
短い時間でも運動量は多いので二人はびっしり汗をかいていた。
用意したレモン水を渡し寛は言った。
「楽しそうだな」
「気兼ねなく動けるのは気持ちいいよ」
農作業の休憩時間、佳澄は忍者の如く山の中を駆け巡っている。
同じことを家の近所でやったら警察に通報されかねない。
そこで大リーグボール養成ギプスではないがトレーニングウェアの下にいくつもの負荷を掛けて走っている。
ただこれだと決まった筋肉しか動かせないので不満だったのだ。
「そう言えばジーンは時々佳澄の体を使って運動しているけど違和感ないのかな?」
「うーーん体形がさほど違わないから問題ないのかな?」
佳澄は現在170cm越えの長身細身、体のメリハリは欠けるのでよく男に間違われる。
それで母親に言われて髪を伸ばしてるのだが後ろで一つに縛っているので前から見ると余計男に見えるらしい。
ジーンはというと身長は佳澄より多少高いがその差は5cm未満、
向こうでは小柄な部類で子供の時に大柄なムードやレノンに何かと庇われていた。
それが嫌でよく食べていたのだが異能者にデブはいないという言葉通り、栄養は体よりも異能の方に回ったらしい。
お陰で二人より先にAランクになっているので良かったのか悪かったのか。
「?ジーンは僕より背が低いの?」
「うん、10cm位は低いかな」
寛と佳澄は大柄な父親に似て高身長である。
対する悟は母親に似たのか小柄な部類で佳澄より20cm近く低い。
最初は2歳の年齢差と思われていたが最近はそうではなさそうな気配が漂っている。
「ジーンが何かと悟に構うのってそこら辺に理由がありそう。」
「確かに・・・」
ハーレンではアンチエイジングとしてだけでなくダイエット目的で異能を得ようとする人達がいます。
ep.6で佳澄はジーンの私服を着ていますが元々伸縮性の高い生地で作られていることもあって直すところはありませんでした。




