閑話 夏休みの裏話
この時期の佳澄達は風のうまれるところの「黄昏時」に載ってます。
「行ってきます」
兄と姉は大きな荷物を手に徒歩5分の道場に向かった。
これから名物の道場主催の夏合宿(参加資格:高校生以上)に参加するのだ。
見送る悟に手には書き上げた挿絵に対する兄姉の赤ペンが入った十数枚の紙束がある。
1話からではなく書きやすいシーンから書いてみろという助言の元に色々書いてみた。
「佳澄の絵に似せすぎ」
「話と絵があってない」
「インパクトが弱い」
「これ、わざわざ絵にする?」
最初の内は散々なコメントだったが出発前にはやっとこの方向で書いてみたらという言葉を兄から貰った。
「姉さんはどう?」
「もう少しひねりが欲しい気もするけど方向はこれで良いんじゃない?」
居間に戻ってソファに座る悟にスマホからジーンが声を掛けた。
「お疲れさん」
「ジーンも色々有難う」
合宿先は圏外なのでジーンも留守番である。
「ここまで大変とは思わなかった・・・」
「文章を書く時も同じ事っていたな」
「そうだけど、文章はかなり慣れたけど絵は絵で全然違うよ」
そう言ってため息をつくとテーブルに残されたハーレナ語版「風の通り道」を見つめる。
「翻訳、やりたかったのか」
「うん」
「駄目な理由は納得したんだろ」
「うん」
家族会議の後、兄から自分がイベントに参加させない理由についてきちんと説明を受けた。
「そんなに信用がないのかなあ」
「佳澄も寛も必要に応じてポーカーフェイスが出来る」
「僕だって・・・」
「俺の存在を隠すと決めてからお前の両親や二人は色々場数を踏んでいる。」
「僕もだよ」
「佳澄の小説を読む世代はお前より上だ。学校じゃ話題にはならないだろう」
「・・・」
「アニメ化か?それが始まればお前の学校でも話題になるかもしれないがな」
「そうだね」
「学校なら話題に出さない、参加しないで何とかなる」
「でも翻訳オーディションで話題にしないのは無理・・・」
「お前が翻訳したら仁悟だとバレる可能性が高い。楓佳だけじゃない、仁悟も隠す必要があるんだよ。」
兄の言葉を思い出す。
せっかく、仁悟として文章を表現するようになったのだ。
それを隠して翻訳をするだけの力はまだ悟にはない。
「それに今回求められているのはサクラとしての翻訳者だ。」
「サクラ?」
「そうトーリ・サイデンの文章を日本語に出来る翻訳者を探すためのサクラだ」
「・・・」
「授賞式やパーティで楓佳や仁悟との関係を悟らせず、会話を盛り上げる」
「まだ無理だね・・・」
「これには向き不向きがある。悟には向かないだろ。というかその年で向くようだと別の意味で心配だ」
「はー、分かっているけど先は長いや」
「後、翻訳はするなとは誰も言ってないぞ」
「えっ!?」
「翻訳オーディションに参加するなとは言っているがな」
「どういうこと?」
「翻訳する分には構わない、というか三枝達は仁悟として翻訳してほしいと思っているぞ」
「何それ!」
「家族会議で寛が両親に頼んだのはオーディションのサクラだからな」
「・・・」
「仁悟として翻訳の仕事を受けるのは有りだぞ」
「・・・もう少し考えてみる・・・」
「佳澄は自分の文章力では無理と判断した。まあ色々悩め」
「そうだね。でもまずは絵を書かないと」
「やっと合格ラインが見えたんだ、頑張れ」
「うん」
そうして数日自分の書いた話を読み返しながら挿絵を描いていく。
今までが嘘のように次々と絵が浮かび、それを紙に写し取っていった。
出来上がった絵を眺めているとスマホが鳴った。
「なかなかいい絵になったみたいだな」
スマホのカメラで挿絵を撮っていくとジーンが言った。
「うん、僕もそう思う」
暫く挿絵の感想を言い合っていたが、悟は表情を改めてスマホに映るジーンを見た。
「どうした?」
「ジーン、僕に良くしてくれるのって姉さんの弟だから?」
「うーん、どっちかというと俺が構いたいからかな」
「?」
「佳澄と夢を共有していたという話は聞いているだろ」
「うん」
「ソル達が来るまでは俺はクランでは最年少だったんだよ。」
「うん」
「で夢で佳澄がお前に構うのが羨ましかったんだよな。
今じゃ弟分は一杯いるけど赤ん坊の頃から見ているのはお前だけだしな。」
「今はムードさんとことかに子供がいるじゃないですか。」
「一緒に暮らしているっていう訳じゃないし、このままソルやミオが結婚して子供が出来たとしてもその子がクランで過ごす訳じゃない」
「そうですね・・・クランって仕事場だから・・・」
「俺自身が結婚して子供が出来たとしてもそれは子であって弟じゃない」
「そう・・・ですね」
「お前を見ていると昔の自分を思い出すよ」
「そう・・ですか?」
「何をするにしてもムードやレノンに庇われる守られるだけの頃のな」
「・・・」
「ま、年を取れば嫌でも自分の責任で何とかしなきゃいけない時がくる。
と言うか寛も佳澄もそういう点は甘くないぞ。」
「・・・覚悟してます・・・」
「そういうことだから甘えられるところは甘えて自分の出来ることはきっちりやっていくことだな」
「はい!」
「悟、向こうでもこっちでもお前の年でそこまでできれば十分しっかりしていると思うぞ」
「そうでしょうか?」
「この一年、色々見てきたが佳澄が異常なだけだ」
「それってジーンのせいだと思いますが」
「違いない」
十日後、佳澄と寛は元気に戻ってきた。
熊や猪、大量のジビエ肉を持って
「姉さん、一体何をやったんです・・・」
「うん?地主さんの畑や果樹園の害獣退治!」
「素手で仕留めいたので誤魔化すの苦労したというか後半は諦めた」
「解体と検査は専門の人に頼んだやってもらったから寄生虫とは大丈夫よ」
嬉しそうに今日は肉祭りだという姉は台所に消えていく。
「ジーン、知っていた?」
「危険は無さそうだし楽しそうだったらな」




