家族会議
終業式も終わり、夏休みに入ってから数日後、兄が帰ってきた。
「学生寮は出たんだな。」
「ええ、楽なんだけど色々制限が多くて。」
寛は慣れるまでということで学生寮に入ったが後期からはワンルームマンションに移ることにしている。
佳澄から小説の校正を頼まれ、それ以外でも三枝や首藤の担当作家の校正も手伝っている(二人に頼みこまれた)。
寮だと部屋に他人を入れないように制限するのが難しいのが理由で、その元凶でもある幻影奇譚社側で引越し先を用意した。
家族揃っての夕食後、早速家族会議が始まった。
「以上です」
佳澄からの状況説明が終わると悟が一番に声を上げた。
「えー、姉さん、向こうに行ったんだ!ずるい!」
隣に座っていた母がハリセンでスパンと悟の頭を叩く。
「痛い」
「あちらはこっちみたいに治安がいいところじゃないわよ。無事戻ってきたからよいものの・・・」
とため息をつく母。
新聞紙で作ったハリセンは思慮の足りない発言の多い悟用に家族会議ではテーブルの上に鎮座している。
「それで向こうに行った理由もこっちに戻った理由も分からないと。」
父の言葉に頷く佳澄
「前兆は無かったの?」
スマホのジーンに言葉を向ける兄
「ああ、何かおかしいと思った瞬間に向こうに移動していた」
「戻ってきた時も同じ、マリオネットの調整が終わって次の予定や方針を話している最中に部屋に戻ってきていた。」
「作業が終わって気が緩んだとかそういうタイミングじゃないのか?」
「うん、行った時は着替えの入ったカバンを持って玄関に向かっている途中だった。」
「行った時は自分の部屋と戻ってきた時は玄関、場所も移動している」
「それでまた向こうに行くかもしれないと」
「多分そうなると思う」
「うーーん、状況は分かったがせめて切っ掛けとは分からないと打つ手はないか・・・」
「佳澄、スマホのGPSは常に使えるようにしておいてね。」
「・・・授業中は校則で切っている・・・」
「学校で何かあれば連絡が来るだろう。問題はそれ以外だが・・・」
「報・連・相はしっかりね。何かあってもこちらで出来ることはするから」
「トーリ・サイデンの本があるということだが見せて貰えないか」
「はい、どうぞ」
収納空間から数冊取り出し、テーブルにおく。
嬉しそうに手に取る父と兄
「暫く借りても良いか?」
スマホに目を向ける父。
「はい、家から持ち出さないようお願いします。」
「分かっている」
読みたそうにそわそわしている父と兄を目線で制して母が口を開いた。
「まだ終わってないですよ。読むのは部屋に戻ってからにして下さいね」
「翻訳オーディションですが僕も参加します。出来れば父さんと母さんにも参加して欲しいんですが」
「それ三枝さんからの依頼?」
「はい、僕達には依頼料を払うと言ってます。」
「僕も参加する!」
悟の言葉に兄がハリセンと手に取った。
頭をガードする悟、しかし、直ぐにはハリセンが飛んでこず、ガードを外した瞬間に飛んできた。
「痛い・・・」
「悟、あれの日本語訳、私でも無理だと思うから今回は諦めなさい。」
「うーー、挑戦もダメ?」
「変なの出したら容赦なく叩き落すよ?」
「それでもやりたい!」
「お前の文章だと仁悟とバレる可能性があるから駄目だ」
「・・・はーい・・・」
「悟、首藤さんから依頼だ。」
「何々?」
嬉しそうな悟に父母は心配そうな目を向け、寛に続きを促す。
「お前が書いている特設サイトにこぼれ話の挿絵、描けそうか?」
「姉さんが描いているみたいの?ちょっと厳しいかも・・・」
「子供時代のエピソードだからあのレベルは要求してないよ
ジーン、済まないけど協力して貰えないか?」
「良いがどうした?」
「結構溜まってきたんで本にしたいって言ってきた」
「えっ、本当!?」
幻影奇譚社の公式サイトには風の果ての物語の特設サイトがある。
そのサイトでは有料会員向けの幾つかのコンテンツを用意してあり、今回の翻訳オーディションもその有料会員のみに告知された。
この有料サイト内専用コンテンツとして子供時代のジーンの話が掲載されている。
タイトル:風の生まれる場所、作者:仁悟(ジーンと悟)、監修:楓佳
子供好きで面倒見の良いジーンは夢で接する悟を自身の弟扱いして何かと構っている。
1年前、力量不足で手伝えず不貞腐れてた悟をみかねてジーンが自分の子供の頃の話を書かせてみた。
元々は文章を書く鍛錬の積りだったが意外と出来が良く、今年に入ってから定期的に掲載を続けている。
佳澄のノートがあるのでネタには困らない。
「父さん、母さん、どうかな?」
「そういう話ならOKよ。
「印税は悟が大人になるまでこちらで預かるがな」
「えー、」
「下手に大金持つと碌なことにならないからね。必要な時はちゃんと話をしなさい」
「ま、まずは何枚か書いてみろ、話はそれからだ」
寛と悟はわいわい言いながらじゃれている。
「あのー、父さん達にお願いが」
「なんだ?」
「ワイン、何本が買ってもらえません?」
「未成年だ」
「向こうに行ったときのお土産にしたいんです。」
「分かった。でも佳澄は飲むなよ」
「向こうでは飲んでも問題ないんでしょうけど」
「はい。分かってます」
「ジーン、お前も佳澄には飲ませるなよ」




