翻訳オーディション
翌日の夕方、ビデオチャットで三枝、首藤と打合せ
「楓佳先生、有難うございます。」
昨晩、トーリ・サイデン版、西ハーレナ語の「風の通り道」の序章と第一章を兄に送ると同時にこの二人にも送っている。
「日本語版もお待ちしてます。」
「!!!無理!!!」
「はいっ?」
首を傾げる三枝に対し、首藤はあっという顔になった。
「そう言えば、楓佳先生、第一部の乱闘シーンでも似たようなこと言ってましたよね」
第一部の中程で酒場でジーンとムードが大乱闘を繰り広げるシーンが登場する。
登場人物達の繰り広げる罵詈雑言に対するうまい日本語が見つからず・・・
3ページに渡ってアメコミ風の挿絵を入れ、ハーレナ語でセリフを付けるという大技を使った。
このセリフで三枝も状況を察したらしい。
「あのシーン、そういうことだったのね・・・どうしましょう・・・」
「・・・三枝さん、翻訳できます???」
「・・・厳しいですね・・・他の仕事もありますし・・・やりたいですが・・・」
前日の状況が再現したかに見えたが、
「オーディションを開催しましょう!」
三枝の言葉に今度は佳澄が首を傾げ、反対に首藤は成程と頷いている。
「楓佳先生、アニメ化に向けわが社でも何かイベントしたいと三枝と話をしていたんです。」
「頂いた文章の一部を5つ位に用意しして、翻訳オーディションを掛けます。」
「応募者には楓佳先生に用意して頂いたハーレナ語の辞書に対するアクセス権を与えます。」
「使用期限は応募締め切り当日まで」
「賞品として優秀者には賞金と特別イベントへの参加券を提示します。」
首藤と三枝の言葉に佳澄はさらに首を傾げた。
「応募者います?」
「「います!!!」」
「というか私と首藤も応募します。」
「良いんですか?それ?」
「良いんです、応募作の優秀者は弊社の特設ページに掲載します。」
「この優秀者の中に楓佳先生が翻訳を任せても良いと思えるものがいると良いんですが。」
「居なくても話題作りにはなりますし。」
結果、近日中に公募、応募の申込みは夏休み明けまで、
応募者で連絡のついたものには辞書へのアクセスキーを送付、翻訳結果の締切は年末
結果発表は来年2月、授賞式他3月というスケジュールになった
「部長に相談ですが、反対はされないと思いますよ」
「詳細が決まりましたらご連絡します。」
翌日、来週に終業式を控えた金曜日の午後、ミステリ研の部室で本を読んでいた。、
火曜日に柔道部、剣道部員を指導した翌日壊れたロボットのように登校してきた部員達に生徒指導教師は目を丸くした。
「深山、やりすぎだろ」
「ご要望通り怪我はさせてません」
立ち合いで徹底的に日頃使わない筋肉を使うように仕向けただけで単なる筋肉痛である。
木曜日には復活し、今日も稽古を依頼してきた。
休みに入ったら個人の都合を優先、大会にもいかないと告げたら捨てられた子犬のような眼をされたため、
仕方なく今日も付き合うことにしたのだった。
連絡先は教えていないので学校が休みに入ったら担任教師からしか連絡手段はない。
後はある程度の事情を知る担任に頑張ってもらおうと乱取り開始までの時間を潰している。
「谷田先輩、お早うございます。」
「お早うって、昼過ぎだろ、柔道部の手伝いはいいのか」
「準備体操に付き合う気は無いです。」
谷田は佳澄の前の席に座って手にした資料を机に広げた。
「翻訳オーディション?」
佳澄は素知らぬ顔で表紙を読み上げた。
「ああ。昨日夜に告知されたので印刷してきた。」
『仕事が早いな・・・』
『谷田先輩、フアンだっていうのは知ってはいたけど・・・』
「深山も応募しないか?」
「いえ、忙しいしので参加しません。」
『主催者側だしな・・・』
「そうか、仕方ないな」
と言って別の資料を手渡してきた。
「文化祭で出す会報のテーマをまとめたものだ。深山も何か書いてくれ」
「わかりました」
「・・・」
『・・・』
今回のテーマ、風の果ての物語、第三部 星祭の唄・・・
「うちはミステリ研ですよね?」
「そうだ」
「なんで推理小説じゃない作品がテーマなんです?」
「唄に込められた暗号を解く部分は十分ミステリだろ」
そう言って本を差し出された。
「深山も読んどけ」
「・・・」
『・・・』
読まなくても詳細は誰よりも分かってます・・・




