#57 魔 Ⅰ~Devil’s Stygian Savior Ⅰ~
「それで?本当に偶然会ったんだよね?」
放課後、俺は帰宅中に月乃に問い詰められていた。
「だから本当だって!」
ま、偶然会ったのは食堂だけど。
正直ここまで嫉妬してくれるとは思ってなくて少し嬉しい。
それにしても、なんか最近の月乃やばいんだよなぁ。可愛いさが限界突破してるっていうか、輝いて見える。俺が頭おかしいのかと自分のことを疑ってしまうぐらいには可愛く見える。
「ま、信じてあげるけど」
「というか、最近なんか変わったよね」
「…俺が?」
「うん」
「んな馬鹿な」
「なんか昔は鬼気迫る感じがあったけど最近はないし」
「それになんか明るくなった気がする」
「まるで昔は暗かったみたいな言い方だな」
「いや、事実そうでしょ」
俺が暗かった?そんな自覚なかったし、鬼気迫る感じってのも身に覚えがないな。普通にやってたと思うんだけど。
「なんか、ぱっと見は明るいんだけど心の奥には暗さがあるっていうかなんていうか」
「心の底から明るい感じがしなかったんだよね」
「それはお前もだよ」
「私?」
「お前昔クールだっただろ?」
「正直な話ここまで俺たちと関わろうとしなかったしずっと会話は最小限しかしないみたいな感じだっただろ?」
「それはまぁ、周りと馴染む気がなかったからかな」
「なんでだ?」
「内緒!」
「内緒って…あのなぁ」
「こっちはお前があれに戻らないか不安なんだっての」
「不安?」
「あの頃のお前は表面だけじゃなくて心の底まで暗かっただろうが」
「なんか蓋をしてる感じだったな」
「まるで“どうせ自分の周りから居なくなる”みたいなそんな感じがあったぞ」
「…否定はしないかな」
「んで、俺とタメ口で話すって約束をした後はなんやかんやでその蓋も取れていってる気がする」
「未来…」
「ったく、この話題出した俺が言うことじゃないがしけた面すんなっての」
「お前は笑ってる方が可愛いんだからよ」
「未来///」
「言った側の俺も恥ずかしくなってきた」
正直こんな日常が無限に続けばいいのにと毎日のように思う。
30年前じゃこんな生活は考えられなかった。戦争が終わったとしても俺は犠牲者を全て蘇らせた上で魔族と人間の間に友好関係を築いた英雄扱い。こんな風に普通に恋愛をして、普通に学校に通うなんてことはきっとなかった。恋愛はできるかもしれないが俺の地位や名声に興味を持った連中ばっかりでうんざりする未来が見える。
「やっぱ、今って理想的だよなぁ」
「――メルサーダ!」
俺が物思いに耽っていると突如として空間が歪み俺に向かって火焔が飛んでくる。
すんでのところで避けることに成功するが姿勢を立て直す間も無くまた空間が歪む。
「摩耶…は今いないんだった!」
「幻象魔法“クリスタルウォール”!」
古都にすこし力を分けてもらい魔法を放つ。
魔法で結晶を作り出し姿勢を立て直す時間を稼ぐ。
なんとか立て直すと結晶と火焔が消える。
「なるほど…防げる限界ギリギリの威力ってことか」
「しっかし本体が見えないんじゃ反撃のしようがない」
「とりあえず月乃!お前逃げとけ!」
「未来?!」
「悪いがこれを見切れるのは多分俺だけだ!」
「早く!」
「わ、わかった!」
月乃が走り去るのを見届けた後、戦闘体制へと移る。
「古都、歪んだ瞬間に合わせて干渉できるか?」
≪やってみる!≫
「よし、両腕を刀に変えてくれ!」
≪わかった!≫
腕が真紅の刃に変化する。
この刃は「断」と同じで古都の権能が詰まっている。そのため摩耶が縫い付けるのと同じように空間の歪みを斬り、逆にこちら側に引き摺り込むことができる…はずだ。
「次弾、来るぞ!」
≪権能解放!≫
≪切断!≫
「いっせーので!」
腕の刃に古都の力を集中してもらい、目の前の歪んだ空間に向けて――
「≪チェストォォォォ!≫」
振るう。
次の瞬間、その空間が二つに分かれ、繋がっている先が視認できるようになる。
「古都!」
≪応!≫
「引き摺り込む!」
刃を解除して空間の裂け目に手を入れ、こちら側にワープさせる。
「オラァ!」
後ろに向かってすっ飛んでいく“偽名”。
「さっさとあいつのクリスタルを引き抜かないとな!」
トライクリスタル…魔晶獣や“偽名”に埋め込まれてる結晶。最初は“偽名”には仕込まれていないのかと思ったが“偽失”の一件から仕込まれてることがわかった。魔晶獣は感情の高まりによって結晶が変化するものらしいが、よくわからん。
一つ言えるのはあの結晶を取っ払えばあいつらは正気に戻るってことだ。
「中々やってくれたわね」
黒衣の少女がこちらへと戻ってくる。
「お前は遊園地とショッピングモールで襲ってきたやつ!」
「覚えててくれたのね」
「お前らみたいなのは一度戦ったら覚えてるわ!」
「というかなんで毎回あいつといる時に限って攻めてくるのかね」
「さぁ?」
「ま、お前1人だったら十分戦えるが」
「…私最近思ったのよね」
「なんで1人2人であんたを相手するんだろって」
「何をぶつぶつと!」
「だから、こうしたの」
そう目の前の“偽名”が言った瞬間、複数箇所の空間が歪む。
「まさか!」
「6人もいれば十分でしょ?」
ウェーブ、スプリング、エクスプロード、オーガ、クレッセントの5人がワープアウトする。
「マジかよ…」
流石に6人を相手にするのはきついんだが?
特に摩耶がいない以上増援も見込めないし。しかもこの人数なら撤退もできないだろう。髑髏と古都でどこまでやれるか…ってとこか?
「さぁ、如月未来」
「私たちを超えられるかしら!」
遊園地の“偽名”のその言葉が合図のように全員が散開する。
「幻象魔法――」
「させねぇよ!」
オーガがその膂力を活かして”衝撃砲”を撃つよりも先に俺を殴り飛ばす。
地面を転がり数M先まで飛ばされるがなんとか体勢を立て直す。
「今度こそ!」
「幻象魔法”衝撃砲”!」
「ゆけ!」
俺の正面に6つの光球を作り出し、その光球から青白い光線を放つ。
直撃したのか爆発が目の前で起こる。
ちなみに”衝撃砲”は幻象魔法の中で基礎中の基礎の魔法だ。ただ正面方向に光線を放つだけの魔法なためこの魔法の練度で使用者の強さがわかるとまで言われている。
「まじかよ...」
爆発の煙の中から6つ飛翔する何かが見えた。
「魔神装!」
髑髏を転送・装備し迎撃をする。
「フィンガーミサイル!」
指先から微小なミサイルを薙ぎ払うようにして発射する。しかし指先から放っている上に弾丸のように発射しているため誘導できずよけられてしまう。対空砲使ってるやつの気持ちがわかった気がする。
「...もしかしてだけど髑髏って多人数戦に弱いのか?」
≪その辺改良を頼まなくちゃだね≫
「この状況から生還できたらな」
そんな軽口をたたきあっている間にも6人の”偽名”が接近してくる。
「さて、腹くくりますか!」
そう覚悟を決めるのだった......




