#5 晶〜crystal〜後編
「姉貴?!」
「大丈夫?」
「いや、姉貴こそ!」
「ふん!」
栄光ある勝利を持ち上げて投げ飛ばす姉貴。
「はっ…その馬鹿力はまだ健在か」
「そりゃ貴方が目覚めるまでコールドスリープしてたからね」
「は?!」
「だって、姉にはいつもの姿でいて欲しいでしょ?」
「いやそうだけど…よくやったな」
「へへっ」
『ナンダ?ソノチカラハ』
「私の能力は豪力…異常なまでの身体能力を持っている」
「ただそれだけの能力よ」
『ソレガコノチカラノモトカ』
「そう言えば大地、貴方能力は?」
「消えた」
「消えた?!」
「それってどういうこと?!」
「いやぁ、俺眠ってからなんか消えちゃったらしい」
「まぁあんだけ力を使ったのにちょっとしか眠ってないならそういうこともあるかな?」
「今使えるのはちょっとした再生くらい」
「全部消えたわけじゃないのね」
「多分再生とかを使い続けていけばきっと回復するはず」
「きっとなのね」
「彩音が言ってたし」
「なら信じるわ」
『ワレヲワスレルナァァァ!』
目から閃光を放ってくる。
「あっぶねぇ!」
姉貴とサイドステップで避ける。
≪再生ってどうやら疲労にも効くみたいね≫
「ってことは?!」
≪もう一度行けるわよ!≫
「よっしゃ!」
「姉貴!」
「何?!」
「1分だけハデスを使う、冥府の闇が当たる分の隙を稼いでくれ!」
「わ、わかったわ!」
「豪力・リミッター解除」
「怪力乱神!」
体に金色のラインが血管のように姉貴の体に現れる。
「う〜ん…あの状態の姉貴ってちょっと怖いんだよなぁ」
「なんか言った!」
「いや、何も!!それよりも頼むよ!」
「任せなさい!」
そうして栄光ある勝利を殴り始める。
「やっぱ強いよなぁ」
「ふん!」
「オラオラオラァ!」
「ジャイアントスイング…」
「って、これこっちくるやつか!」
「ハデス!行くぞ!」
≪もちろん!≫
体が赤く光り始める。
「行くわよぉぉぉぉ!」
「そぉぉぉい!」
『シマッタァァァァ!』
「喰らえ!」
「地獄に飲み込まれちまえ!」
「冥府の闇!」
前方の地面に闇を展開する。
「落下地点ぴったり!」
地面に叩きつけられるはずの栄光ある勝利は代わりに闇に飲み込まれていく。
『ワレハ…ドコヘイクノダ?』
「さぁ?」
「実は俺もわからないんだよね」
「そうなの?!」
「あぁ」
「ただあの俺の大量蘇生で飲み込んだやつが戻ってきたってことは、死に至ることは間違いないんだけどね」
≪闇にありとあらゆるエネルギーを吸収されて死ぬようになってるわ≫
「なるほどね」
「ハデスちゃんはなんて?」
「闇にありとあらゆるエネルギーを吸収されて死ぬってさ」
「うわぁ…エッグいわね」
≪そのエネルギーは貴方に還元されるようになってるわ≫
「へぇ〜助かるな」
「今度はなんて?」
「なんか俺のエネルギーになってくれるってさ」
「あ!姉貴!そういえば、救急車!2人分!」
「どうして救急車?」
「忘れてたけどさっきのアレって人間と融合してたんだ!」
「分離させたけど一応!」
「もう一台はなんで?」
「そいつの親だよ」
「え?!」
「岩井佳奈ってやつが栄光ある勝利の融合元なんだが、そいつ自分の親殴り飛ばして俺に突っ込んできてな」
「あとそいつがエレベーターのドアのガラス割りやがったからな」
「そこんとこも頼む」
「コールドスリープ明けの姉に頼むこと?!」
「悪い」
「しょうがないわね」
「ま、弟の復活祝いってとこね」
「あぁ、ありがとう」
「お疲れ様」
「九十九!」
「大地、なんか面倒臭いのに巻き込まれたらしいわね」
「まぁな」
「あぁいうのに対処するにはハデスたちに頼るしかないのはきついな」
「あれってあまり戦闘向きじゃない能力者も戦闘できるようにするために作った人工生命でしょ?」
「まぁな」
「そういう意味では失敗作なんだけどね」
≪失敗作って言った?≫
「いぃや」
「俺にとっては最高傑作だよ」
「特に今の俺にとってはな」
≪なら良いわ≫
「さて、それよりも」
「乃蒼から聞いたけど」
「人間と融合する結晶と戦ったんだって?」
「あぁ」
「それも最終的に自律駆動始めたとか」
「そうだ」
「あんなの俺がいた時代にはなかったぞ」
「なんだ?あれは?」
「私にもわからないわ」
「いや…もしかしたら…」
「心当たりがあるのか?」
「一応ね」
「教えてくれ!何がいるんだ!」
「あの結晶の裏に!」
「貴方には関係ないわ」
「何でだ!俺たちは戦友だろ!」
「だからこそよ」
「は?」
「私たちはまだ戦争の前には学生をして人生を楽しむことができたわ」
「でも貴方は幼い頃に両親を亡くし、残っていたのはお姉さんと妹さんだけ」
「そしてそんな状況だから学校なんかには行けず、手に入れた強大な力にも苦しめられて」
「私たちが貴方の噂を聞いて会いに行った時、貴方の生気のない目はまだ強く残ってる」
「幸い地頭がいいのか勉強はどんどん理解していってすぐに同年代と同じくらいの知識量、常識、語彙力は手に入れたけど、結局はいつも戦い戦いで」
「貴方はまともに学校生活を送れてないじゃない」
「だからもう貴方を戦いなんかに巻き込みたくないの」
「九十九!」
俺はガシッと九十九の肩を掴む。
「な、何」
「馬鹿かお前は!」
「え?」
「俺はお前らと共に戦えた」
「あれは今の俺にとって、最高のことだ!」
「そりゃ最初はなんで俺は学校に行けないんだとか思ってたさ!」
「でも…お前らが弟のように俺に優しくしてくれた」
「だから俺はお前らを家族のように大切に思ってる」
「だからこそ、俺にも手伝わせてくれ」
「でも、その体じゃ」
「いや、多分なんだが、この再生は能力にも適用されてる気がするんだ」
「え?」
「だから時間が経てばあの力が戻ってくるはずだ」
「それでも…」
「まだ言うのか!俺にも手伝わせろ!紫苑!」
「だって!」
「だって?」
「もう一度失うのは嫌なの!」
「それはみんな思ってる!」
「貴方が言った通り私たちからしたら弟みたいなものね」
「だからこそ、もう嫌なの」
「なら、俺は勝手に手伝わせてもらうぞ」
「何で!何でそこまで!」
「俺は、俺は魔神、大地だ」
「そしてこの力を制御した時誓ったのは」
「俺をここまでまともにしてくれたお前らのために使うって誓ったんだ」
「大地…」
「わかったわ」
「ただ私たちもわかってる情報は少ないのよね」
「まず今回の結晶のような敵は複数存在してる」
「もう何回も倒してるわ」
「ただ、どれも回収前に邪魔されるか破壊してしまってるの」
「邪魔?」
「おそらく、結晶を作り出している組織的な何か」
「そいつらは一体?!」
「わからないの」
「え?」
「構成員の情報は少しだけわかったわ」
「まずあいつらは偽名を使ってる」
「そして私はそいつらを」
「Unknownと呼ぶことにしたわ」
「何もかも不明だからUnknown、か」
「そ、まぁ楽したいからアンノウンって書くこともあるけどね」
「へぇ〜」
「そしてわかってる幹部級構成員は」
「スプリング、クレッセント、ウェーブ、ハングリー、エクスプロード、オーガ」
「の6人よ」
「そしておそらく一部は能力なんだろうけど、他は能力から取ってる場合もあるみたい」
「マジで?」
「そう」
「ただ、何が名前で何が能力かはわからないんだよね」
「そうかぁ…」
「そいつらとこれから戦っていくことになるけど、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫」
「行けるよ」
「無茶だけはしないでよ?」
「わかってる」
「ちなみに結晶埋め込まれてる人間に特徴ってあるのか?」
「今の所ないわ」
「ただ、強い感情からある一つの目的のために行動を始めることがあるくらいかしら」
「今日俺が戦った岩井佳奈みたいな感じか」
「えぇ」
「そう言えば、あの結晶――栄光ある勝利が言ってたんだが」
「あの方の命に置いて、貴様を滅する」
「って言っててな」
「もしかして、俺が大地であることがわかってる、かつ何か俺に恨みがある人間があいつを差し向けたって可能性、あるよな」
「本当に言ってる?!」
「本当だよ」
「だから俺を確認した誰かがあの結晶の力を使って俺を仕留めようとしたってことだな」
「一体誰が…ハデスは私たちしか知らないから大地として見られる理由にはならないし」
「一体誰が…」
「あと、アンノウンって何が目的なんだと思う?」
「確かに…こんな結晶を使うくらいだし」
「なにか目的がないとおかしいわね」
「ちなみにその結晶は魔族とその他関係なしか?」
「えぇ」
「もしかして貴方魔族を?!」
「その線も考えてはいるが、それと魔族を恨んだ人間の可能性もあったからな」
「普通は自分と同族には入れないからな」
「しかしあれから差別はほとんど消えたように感じるが…」
「そうだね、一部の爺さんとか以外は魔族とも仲良くしてるし」
「まぁ、まだ自分たちの方が優れてると驕る連中もいるけどね」
「やっぱりいるのか」
「えぇ」
「目的…う〜ん」
「やっぱり世界征服とかかしら?」
「世界征服っていろいろな組織が企むけど征服した後どうするんだろうな」
「え?そりゃ自分たちの生きやすいようにするんじゃないの?」
「だけどいつか人や土地を持て余すだろ?」
「そうなったらどうするんだろうか」
「さぁ?」
「って、話が伸びたわね」
「とりあえず結論だけ言うと、アンノウンって連中が何かを企んでる」
「それをどうにかしたいけど、今の私たちじゃ力も全盛期よりは劣っているから完全に倒すことはできない」
「そこで貴方に協力してもらう」
「だけど、もし見つけても決して1人で戦う前に私たちに連絡すること」
「了解」
そうして、転校初日は終わる……
「あら、栄光ある勝利がやられるなんて」
「意外だった?」
2人の少女が話している。
「まぁ、結構強い部類のトライクリスタルだったんだけどなぁ」
「三角錐の結晶だからトライクリスタル」
「結構そのままね」
「いいじゃない、わかりやすくて」
「それともウェーブは嫌?」
「いいや別に?ただ自分の作品を壊されたオーガはどうかなって」
「確かに…オーガって自分に自信すごいもんね」
「あれ?そういえばオーガって召喚術持ってたわよね」
「えぇ」
「なんで自分の直属の眷属を使わないのかしら」
「ハングリーはどう思う?」
「うーん…多分確かめたんじゃないかな?」
「確かめた?」
「そう、クレッセントちゃんが言って男が果たして本当に大地なのか」
「なるほどね」
「あぁイライラする!」
ガァン!と扉を蹴り開け、ズカズカと入ってくる3人目の少女。
「もう、そんな怒らないでよ」
「だってよぉ!あいつがやられただけじゃなく、結局本当なのか確かめられなかったんだぜ!」
「貴方って怒ると性格変わるわよね」
新しく4人目の少女が入ってくる。
「スプリング!お前の方はどうなんだ!」
「どうって?」
「連絡を受けた時お前も見てみるって言ってただろ!」
「えぇ、だからクレッセントちゃんが大地だと認識した試合の映像を見てたけど、あんな武器をあいつが持ってたとは思えないのよね」
「だがわからないんだろ?」
「えぇ」
「あぁ!イラつく!」
「まぁまぁ、佳奈ちゃんが一度戦ってくれてよかったじゃない」
「まぁな」
「あの結晶の力を使えるから、あぁやって敵意を出すのは助かるぜ」
「そろそろ会議ね」
「エクスプロード」
「…報告、間違ってたらごめん」
「いや、でもあの場所から石像がなくなってたのは確かだし」
「復活してるのは間違いじゃないから、クレッセントちゃんは気にしなくていいよ」
「あぁ!私たちに任せとけ!」
《さて、全員揃ったみたいね》
「はっ!」
その場にいる少女全員がモニターに向き直る。
「我ら、貴方様のために!」
そうして、夜は更に更けていくのだった……