#47 動Ⅲ〜sports festival Ⅲ〜
「にしても…まさか決勝に勝つなんてなぁ」
体育祭3日目、今日は有志団体の発表と順位の発表をする日だ。2日目の印象が強すぎて正直自分たちの試合結果の印象が薄すぎる。松4位とかいう微妙な立ち位置だし。
「私自身驚いてるわ」
月乃達はDSSの襲撃の後、後半戦を行ったのだが月乃はその頃には回復、前半戦よりも動きがより洗練され、まさかの3ポイントを3回決めるとか言う人外ムーブをかまして優勝した。いくらなんでも強すぎると思うんだが…
「3ポイントシュート3回って…やっぱ強いよな」
「そう?」
「いや、流石に強いと思うけどね」
春香が近くにやってきた。
「お前2年なんだしここじゃなくない?」
「割と自由っぽいわよ?席取り」
今は出し物のために全校生徒が体育館に集まっている。今回の出し物は能力を使ってのものもあるらしく能力無効のフィールドは切ってあるようだ。
「自由って…流石に学年で固まってたほうがいいだろ」
「まぁまぁいいじゃない」
「んで、未来とはどうなったの?」
「そ、それがですね…」
何かコソコソ話してるな…悪口とかじゃないだろうな。まぁ悪口だったとしてもイジリっぽいやつならいいんだがな。
「えぇ〜っ?!」
急に春香が叫び声を上げる。
「先輩、声がでかいです!」
「あ、ごめんごめん」
「それにしても…未来…貴方…」
「なんだよ」
「いやぁ…?」
「はっきり言ってくれよ」
どこか歯切れが悪い春香。こう…もったいぶられると妙に気になるのが人の性というか。教えて欲しいなこういうの。
「月乃ちゃんがまた変な目にあったら、どうするの?」
「ん?そりゃ守るが…」
「そうだよね〜私は未来の大切な人だもんね〜」
「?!?!?!」
せ、背中につ、つつつ月乃が抱きついてきたんだが?!どういうこと?!助けて?!
「あら〜…お母さん結婚は認めませんからね!」
「誰がお母さんじゃ!」
待ってどういうことどういうこと?!ちょっと心臓が爆発しそうなんだけど!いや爆発したら再生で治るから問題ないんだけども!
今までにない距離の近さに困惑してしまう。というか困惑しないのは不可能だと思う。
「つ、月乃さーん?」
「何?」
「い、いや〜えーと…」
これなんて言っても俺アウトじゃない?!重いとかは言えないし、あ、アレが当たってるなんて余計に言えないし!…どうしよう詰んだかも?
「は、春香が少し寂しそうにしてるぞ〜」
助けてと目で訴えてみる。多分春香のことだし面白がって大丈夫とか言い出しそう。
「寂しいな〜?」
「あっ…えっと…」
「よーし、おいで〜」
春香は月乃を捕まえると頭をわしゃわしゃと撫でる。大丈夫とか言わないあたり優しさを感じる。
そして撫でられてる月乃を見ると一つ感想が浮かぶ。
「…犬かな?」
「未来!今なんか失礼なこと言わなかった?」
「言ってない言ってない!」
「ほら、始まるみたいよ?」
まずは吹奏楽部の発表が始まる。演奏する曲は最近流行になっていた電子音声を用いた音楽の吹奏楽アレンジだ。最近はSNSで流行曲とかを調べることができるため30年前の知識しかなくてもなんとかやっていける。そこまで科学が変わってなかったのも大きいが。
「〜♪」
つ、月乃が歌を口ずさんでる…だと?月乃って周りに気にしてそういうことしなさそうなのに。ってか音程綺麗にあってるのすごいな…歌手とかなれるだろ。
「…///」
やっべ、見てるのバレた。
「未来〜デリカシーがないわね〜?」
「いやいや、今のは不可抗力だろ!」
「本当に〜?」
「本当だよ!」
「っと、もう終わりか」
いい曲というのはすぐに終わってしまうものだ。ちょっと悲しい。
「次は軽音部か」
今度はまた別の流行曲を…原曲キーで?!最近の曲は妙に高音だったりする曲が多いから出ないと思うんだけど…
そう思ってるうちにサビに近づくと何故かみんなが構えている。そういえばこの曲コーレスあったな…確か、問いかける系のコーレスだったよな。何故かこっちがコールという不思議な曲だ。
「すっげ…サビの声出てる」
「やっぱ部活やってる連中は違うなぁ」
そして、サビが終わるとコーレスが始まる。
もちろんみんな完璧だった。俺か?俺もちゃんとできたぞ。
「まさか未来がコーレスできるとは…」
「ひどいなぁ!おい!」
「流石に俺も流行曲ぐらいは調べるんだけども?」
「まぁ、そうかぁ」
春香め…俺が30年前の知識しかないジジイとでも思ってんのか?
「まぁ、意外ではあるよね」
「月乃まで…」
「最後は…パフォーマンス部?」
「そう、曲芸をやるの」
「面白いのよ?」
春香が説明してくれる。
「ディアボロってのを投げたり回したり、とにかく息があってて綺麗なのよね」
「ディアボロ…悪魔?」
「あっと…中国ゴマともいうらしいわ」
「へ〜!楽しみだな」
そうして始まるとまず小柄な少年が武術の動きを見せる。多分カンフーだ。そしてそのカンフーの演舞が終わるとその小柄な少年も何かを持ち出しみんなで息を合わせて歩き出す。
「あれが中国ゴマか」
今日の盛り上がりに合わせてまるで手足のように自在に紐を使いコマを操るパフォーマンス部。正直こんなにすごいとは思ってなかった。
「すごいのはここからよ?」
次の瞬間、曲の中でシンバルが鳴ると同時にコマが天井付近まで飛び上がり、空を飛べる能力者達がそのコマを受け取り空中ならではの芸を行い、最後に一斉に上へと投げ綺麗に紐でキャッチし終幕を迎えた。
勿論拍手喝采。曲芸って面白いなと改めて感じた。
「さて、場もあったまってきたところで!」
「順位の発表です!」
詳しくは明かされないが、クラスの競技順位から点を出して合算し、その中で一番点が高いものが一位となるそうだ。
「まずは競技別の表彰をしていきます!」
そうして梅、竹、松の順で発表が始まり男サッカー、女子サッカー、男子バスケときて女子バスケの番でうちのクラスが表彰され、月乃達が前に行く。
「んで、未来?」
「なんだ?」
春香が俺に質問してくる。
「何したの?」
「変わりすぎじゃない?月乃ちゃん」
「俺に聞かれても困る」
「大切な人って言ったのはさっき聞いたけどにしても懐きすぎじゃない?」
それは俺も思った。いくらなんでも懐きすぎなんだよな。さっきまさか抱きついてくるなんて思わなかったし。あそこまで態度に出すやつだったか?あいつ。
「俺だってなんでああなったか教えて欲しいわ」
「確かにあいつが塞ぎ込んでたってかカタコトみたいな喋り方してた時にあいつぶっ倒してタメで話すように言っただけなんだがな」
「んでお前がウェーブに連れていかれそうになったあの日にあいつも巻き込まれたの覚えてるだろ?」
「まぁ、一応」
「んでそん時も守だたっちゃ守っただろ?んでさらにお前と3人で出かけたときも守った…くらい?」
「そりゃ好感度上がるわね…」
「マジで?」
「だって3〜4回もあの子のこと守ったりお節介みたいなことしたんでしょ?」
「まぁな」
うん、至って普通の話だ。襲われてたから助けただけ。何も問題はないはずでは?
「うん、お前天然の女たらしだ」
「おい今お前っつったか?!」
春香から聞きなれない単語が聞こえたため思わず聞き返してしまう。
「なんのこと?」
「とぼけやがって…」
「つーか、女たらしってどういうことだよ!」
「貴方無意識にキザなこと言うしそういうところあったわよね」
「やっぱキザなこと言ってたかぁ…」
「そりゃ普通は大切な人なんて出てこないからね?」
「いやあれは咄嗟に出た言葉で!」
「普通咄嗟にそんな言葉は出ないのよ」
「マジかよ…」
いやでも確かに友達から言い換えたよな俺…やっらたらしなんか?
「2人ともなんの話してたの?」
「ん〜?未来が女たらしって話」
「だから違うって!」
「普通は一目置かれてそうな人に話しかけてタメ口で話せなんて勝負持ちかけないのよ」
「そうかぁ…?」
「でも私は“大切な人”、だもんね?」
「お前いつまでいじるんだよそれ!」
「…一生?」
「月乃、それクラスメイトの前で言ったら許さんからな」
「え〜?どうしようかな〜?」
「クールだった月乃の面影はもうほとんどないな」
「ちょっと!ひどくない?」
いやだって実際なくなってるのは事実だし…最近は普通に可愛い女の子に見えるぞ。マジで。
「なんか昔はかっこよかったけど今は可愛いって感じだもんな」
「可愛い…?///」
「未来、貴方一回地獄に落ちなさい?」
「なんで?!」
春香から理不尽オブ理不尽みたいなことを言われる。…地獄って酷くね?!
「ナチュラルに女の子に可愛いとか言うもんじゃないわ」
「見なよ、月乃ちゃんを」
「顔真っ赤よ?」
「やっべ」
「これだからたらしと…」
そうして体育祭の閉会式は何事もなく進み、波瀾万丈だった体育祭は終わりを告げるのだった…




