#46 躍〜evolution〜
「頑張れー!」
月乃が4点とりかなりリードした状態で三回目のスタートを迎えた女子バスケの決勝前半戦。
やはりうちのチームは月乃がメインウェポンであることは間違いない。月乃がパスカットやドリブルからボールを奪い、相手に点を入れさせないように立ち回って6点目も決める。しかし4回目のスタートの時に味方がボールを取ろうとしてファウルを1〜2回だしてしまい、フリースローとなってしまう。体育館が静寂に包まれる中、相手チームは見事二回入れることができ、逆転の目が見えてしまう。
「下がれ下がれ!」
うちのクラスのバスケ経験者が監督並みに指示を出している。
点をとったことが影響したのか相手が大分巻き返し始めた。月乃を撤退マークしカットすらさせずに相手が4点目を決めたところで前半戦がおわる。
「ねぇ未来、月乃ちゃん、なんか顔赤くない?」
九十九にそう言われ見てみると確かに顔が赤い。というかあれ、熱中症じゃねぇか!
「九十九!氷頼む!」
俺は体育館の2階から飛び降り、月乃の元へ向かう。
「月乃!」
駆け寄り、ハンディファンを手渡し、冷やす。しかし熱中症に近いのもあり、かなりパニックになりかけている。
「よし、いいか?」
「吸って〜」
「吐いて〜」
「吸って〜」
「吐いて〜」
落ち着いて呼吸ができるように呼びかける。月乃も落ち着きを見せ始める。どうやら前半戦で飛ばしすぎたようで、俺はクラスの奴らに補欠を出すように呼びかける。
「ま、まだ…行ける」
「無茶言うな!それで取り返しがつかなくなったらどうする!」
「でも…私が」
「でもじゃねぇ!それともお前のチームはお前がいないだけで勝てなくなるような連中なのか!」
「体壊したら意味ねぇっつうの!」
「分かったか!」
「…」
コクリと頷く月乃。全く、体を大事にしない連中は今も昔もいるんだな。
「月乃ちゃん、あとは任せて一旦休んで?」
女子バスケの補欠の女子が月乃に呼びかける。
「あなたが作ってくれた勝機、私たちで引き継ぐわ」
そうしてバスケに出る人たちが配置につく。
「未来!氷持ってきたわ!」
俺に向かって氷を投げてくる
「ありがとう九十九!」
九十九から氷を受け取り月乃に渡し、物理的な意味で頭を冷やしてもらう。
そして今後半戦が始まろうとしたその時だった。
入り口付近で爆発音がする。
「なんだ?!」
体育館にいるみんなが入り口を見る。
するとそこには黒衣に身を包んだ2人の少女が立っていた。
「居たわね」
「“偽失”みたいに失敗しないでね、“エクスプロード”」
「わかってるわ“ウェーブ”」
「こっちにきてもらうわよ!」
こちらへと飛行する2人の少女。おそらく狙いは…月乃だろう。しかし何故月乃なんだ?!
「月乃!」
手を引き無理やり立たせ、走る。
「辛いだろうけど頑張ってくれ!」
走って入り口へと向かうが少女が先回りし、入り口を封じる。
「しまった!」
「爆槍!」
三又の槍が俺たちに向かって降り注ぎ、槍が当たったところは爆発している。
「ちぃっ!」
何故こいつらは能力を使えるんだ?神ですら縛られるこの空間で…何かカラクリでもあるのか?
「月乃、絶対俺から離れるなよ!」
懐からツインブラスターを取り出してすぐにブラストマホークに変形させる。
「こちとら能力ない戦闘は慣れてんだよ!」
斧を目の前の少女に向けて振るう。そしてその斧を避けようとして目の前の少女のフードが捲れる。
「お前はあの時ウェーブを回収した!」
あの時は逆光で上手く見えてなかったが顔の輪郭が同じだ。
「今度は月乃をってか!」
「そうだ!」
バックステップで華麗に俺の攻撃を回避する“偽名”。
「どうせ“偽名”があんだろ!名乗れよ!」
斧を真っ直ぐ向け、宣言する。
すると入り口にいるもう1人の“偽名”とアイコンタクトを取る目の前の“偽名”。
「私はエクスプロード!」
「そこの少女はいただくわ!」
「そうは問屋が卸さないってね!」
斧を振るい、月乃から遠ざける。
「おおっと、流石の私でも斧を喰らうのはね」
やはり避けられる。
しかし深追いはせずに月乃のところまで下がる。
「貴方…こうやって人を庇いながら戦うのに慣れてるのね?」
「普通は私に追撃すると思うのだけれど?」
「んなもん俺がお前に夢中になってる隙にもう1人の“偽名”に月乃を攫われたらたまったもんじゃねぇからな」
そう、2対1で庇いながら戦う場合、目を離した先に護衛対象を攻撃されたり攫われたりする可能性がある。そのため、基本的に深追いはせずに護衛対象から離れないのが鉄則だ。ただ一対一の場合でも深追いはしてはいけない。何故なら相手が自分よりも速かった場合に自分が追いつく前に先に護衛対象をどうにかできてしまう。
「ウェーブ!こういう時は貴方の方が有利でしょ、変わって!」
「しょうがないわね!」
2人の“偽名”の位置が変わり、目の前にはウェーブが立っている。
「あれを喰らってなお生きてるってお前やばいよ」
「そう?褒めてくれてありがとう」
まずいな…こっちは能力と魔法が使えない以上俺の再生にものを言わせて魔法で削り切るとかができないぞ。でもまぁ、
「やるしかないんだよな」
左腕の袖をまくり、髑髏を装備するためのブレスを取り出――
「未来!それはダメ!」
九十九が俺に向かって髑髏を使わないように叫ぶ。
「それだけは絶対に今は使っちゃダメ!」
「九十九…でも!」
多分九十九も心の中ではわかっているのだろう。こいつらを倒すには髑髏しかないというのを。だがこれをここで使えば俺に対して疑問を持つ奴らが出るだろう。それに俺の力を再現したということもあり、俺を魔神と気づくやつが出たらもう終わりだ。恐らくだがDSSの連中は俺が最大の障害になると思い、総力をかけて潰しに来るだろう。そうなったらこの学園の平和どころか街全体にも影響が出ることは避けられない。
「ゴタゴタと…このまま死ぬがいいわ!」
ウェーブが胸の辺りで水流を圧縮し始める。高圧の水はカッターのようになり、俺たちの体を切り裂くことは簡単に想像がつく。摩耶ならあれを防げるかもしれないがこの空間では糸を紡ぐことができない。
あそこまで圧縮されているなら髑髏ですら防げるかも怪しい。つまり
「万事休す…ってやつ?」
「そうね」
「ま、最後の足掻きぐらいはさせてもらわなきゃな!」
トマホークを構え直し、ウェーブへと向かおうとした時だった。
「お前は!!」
エクスプロードが叫び、何事かと皆がそこを見た。
次の瞬間、一筋の熱線が体育館に放たれる。
「あの熱線は…ブレイズブラスター?!」
その熱線は誰がどう見ても俺の全盛期に使っていた技の一つ、ブレイズブラスターだった。しかしこの熱線を使うことができるのは俺だけだ。結菜はインフェルノ・ブラスター、美月のやつはデビル・ブラスターだった。しかし目の前で放たれたのは誰がどう見てもブレイズブラスターだ。
「なんで…使えるやつはもうこの世にいないはず!」
「それに…なんでこの空間で使えるの?!」
「この体育館じゃ攻撃が中に入ってもその部分は消え去るのに!」
…どんな超技術だよ、それ。
なんてことを考えるが、やはり目の前の光景は信じがたい。
「貴方達、まだこんなことやってるのね」
ブレイズブラスターを受け満身創痍のエクスプロードを投げ飛ばし、こちらへと歩いてくる1人の少女。
「…何故お前がここに!」
「あのお方が封印したはず!」
「はぁ…2年もあれば私達にかかればあんな封印なんて余裕で進化できるよ」
「進化…貴方、まさか!」
九十九は目の前の茶髪の少女に心当たりがあるようだ。
2年というと俺がまだ石化してたころだから俺の知り合いではないだろう。
「加子…ちゃん?」
月乃が恐る恐る声を紡ぐ。
「月乃ちゃんじゃん!」
「貴方、何にもないの?」
「ん〜まぁね」
月乃と加子と呼ばれた少女は軽く会話を交わしている。
「さて、と」
「貴方も倒さないとね?」
ウェーブへと向き直る加子。
俺はこいつの能力に見当がつかないがどうやら九十九は知っているようで、顔が青ざめている。
そんなにやばい能力なのか?と思うが現状の俺たちは彼女に頼らないとこの場を脱せない。つまり黙って見守ることしかできないのだ。
「エル、貴方がやる?」
「…そう。わかった、変わるよ」
「ユーハブコントロール!」
そう叫ぶと加子の目が赤色に変わる。そして結んでいた髪をほどき、軽く頭を振る。
「私が表ってことは、わかるよな!ウェーブ!」
「だまれ!」
俺たちに向かって圧縮していた水流を加子に向けて放つが
「ふん!」
左腕が盾に変わり、水流を完全に防ぐ。
やってることがマジで俺そっくりなんだけど。昔の俺も多分体を変形させて防いだ…と思う。再生力に任せて突っ込むような気もするが。
「喰らえ!」
「ホーミング・レーザー!」
指先から5本ずつ10本の金色の光線を放つと回避しようとしたウェーブに向かって追尾するように飛んでいく。それも5本ずつで前後に分かれ挟み撃ちするように。
「でたらめがすぎるだろ…」
いくらなんでもそこまで優れた追尾はなかなかできないぞ…俺だってできるか怪しいし。
しかしウェーブも飛行能力が高いのか前後の光線をぶつけどうにかして逃れる。
「ありゃ…ミスったかな」
「…うるさいなぁ、誰にだってミスはあるだろ?」
「じゃあ今度は!」
「ホーミング・レーザースプレッド!」
両手だけではなく背中からも光線を放つが今度はその一本一本は正面に向かって飛ぶ。
「なぁ九十九、もしかしてだけどスプレッドって」
「えぇ貴方のアレみたいなもんよ」
「マジかよ」
正面に飛んだと思ったらその一本一本がさらに十数本にわかれ追尾を始める。
「いやいやいや!やりすぎだろこれは!」
確実に撃ち落とすという意志を感じる。
もちろんウェーブは水流を放ち何本かは途中で防ぐがあまりにも数が多く、体を貫かれる。
「このぉぉぉ!」
マシンガンの如く鋭い水流を連射するがそんなもの一切加子には効かず、ダルマ状態になる。
「グッッッロ」
「あの頃やってた貴方がいう資格ないと思うんだけど」
「う〜ん、正論」
結局四肢奪うと相手は何もできないから尋問とかする時には四肢を切り落としたりしたものだ。あと1人そういう目に合わすと恐怖で戦意喪失したりするし。
「よし、返すぞ加子」
「ユーハブコントロール!」
「…っと、全く、カッコつけようと髪ほどくのやめてよね…結ぶの面倒なんだから」
「いやいや、ロングなんて私には似合わないって」
「…そう?えへへ」
側から見ると独り言で怒って照れてるようにしか見えないな。
「あ、そうだ」
「自己紹介が遅れたね」
俺のところへと歩いてくる加子。
「私は杉田加子、能力は進化」
「よろしくね!」
「よ、よろしく」
「多分貴方なら気づいたかもしれないけど」
「私の中にもう1人いるんだよね」
正直予想はついてた。
じゃなきゃあんな風な喋り方はしないだろう。多分入れ替わる条件はユーハブコントロールと叫ぶことだろうな。摩耶や古都が中にいる間なら好きなタイミングで入れ替われるしなんなら半分ずつ体のコントロールを任せるなんてこともできる俺とは若干違うんだな。
「んで?お前は何が目的なんだ?」
「勿論彼女達の殲滅だよ」
「殲滅って…あいつら元は人間だぞ?」
「だから何?悪魔に魂売ったんだよ?」
「だったらもう悪魔そのものじゃん」
「じゃあ滅ぼそうってことか」
「そういうこと」
「そうか…」
殲滅…か。
俺たちは元は人間なのだからあの偽りの呪縛から解放するつもりだったが、さっきの魔族の誕生を見るとな…
「じゃあね」
「今度会った時は…敵かな?」
「そうならないことを祈るな」
そう言葉を交わすと背中に翼を生やし空へと飛び立とうとする。しかしそんな加子を止める一つの声があった。
「待って!加子!」
「今更何?四織」
「貴方何年もどこで何してたのよ!」
「私のことを捨てた人が私のこと聞く権利あると思う?」
「でも私は!」
「あの時許した私がバカだったよ」
「私!貴方に話したいこといっぱい――」
言いかける四織を他所にどこかへと飛んでいく加子。
「次は敵…ねぇ」
どうにかして和解したいものだな。
「っと、月乃」
「なんともないか?」
「う、うん」
「それよりもあの2人…って」
「いない?!」
「また誰かが回収したんだな」
「これまた濃い1日になったなぁ」
「未来…まだ14時よ?」
「ありゃ?まだ続くっけ」
「勿論!ま、一回職員会議だけどね」
「ていうわけで一旦決勝は中断ね!審判の先生は得点と次どっちから始まるか覚えておいて!」
「一応システムに問題ないかも確認するから体育館から離れてね!」
九十九の指示に従い、みんな他の競技に行ったり教室に帰ったりしていく。
「とりあえず、保健室行くぞ」
「え?!」
「熱中症になりかけてたの忘れたのか?」
「あ」
「ほら!肩かすからいくぞ」
♦︎
「結局追加で氷もらっただけだったな」
「殆ど治ってたのに…」
「もしもがあったらダメだろ?」
笑いながらそう言う。30年前もまだ行けるとか無理して死んだやつはごまんと見たからな。無理は絶対にダメだ。ま、30年前のことなんて言ったらアウトなんだが。
「ねぇ、未来?」
「何だ?」
立ち止まって月乃がいつになく真剣な顔で俺に聞いてくる。
「なんで未来はさっき助けたくれたの?」
「あの人達の狙いは私だったのよ?私が――」
「馬鹿なこと言ってんじゃねぇぞ?」
「お前1人の犠牲でみんなが助かるとか馬鹿なこと言いいやがって」
「いいか、犠牲なんてのはあっちゃいけないんだ」
「助けられるのを見捨てる馬鹿なんていない」
「貴方死んでたかもしれないのよ!」
「あの水流じゃ九十九さんも一緒に切断されて…」
「悪いが、俺は死なないことで有名なんだぜ?」
「それはあの能力のおかげでしょ!」
「あそこじゃ能力なんて使えない!」
「詳しくは言えないが、俺には秘策があったからな」
「問題ないさ」
髑髏のことは言えないがこうでも言わないとこいつはきっとずっと言い続けるだろうからぼかしてでも伝えないとな。
「そうだとしても何で…何で!」
今にも泣きそうな声で俺に尋ねる月乃。
「春香先輩と一緒にいた時も!なんで貴方は!」
何で…か。
「―友達を――」
「――大切な人を守らない男がいるか?」
ちょっとキザすぎるか?でもこうでも言わないと納得しないよな、多分。
「それって…」
月乃の顔が一気に赤くなる。これ絶対勘違いしてるだろ!告白とかみたいになってるって!
「あっいや、そのな!」
「な、仲間ってことだよね!」
「あ、あぁ」
「良かったちゃんと伝わって」
「紛らわしかったな」
「…大切」
「ちょっと照れすぎじゃない?月乃ちゃん」
「未来…じゃなくてえーと」
「摩耶だよ」
「あっそう!摩耶さん!」
「名乗ったことなかった気がするから分からなくても無理ないよ」
「すごいですね…それ」
「あ〜だ…じゃなくて未来の口から私の声が出てること?」
「そうですそうです」
「ま、糸で声帯ちょっと組み替えてるからね」
「それよりも〜」
「もしかして、月乃ちゃんって」
「ちょっと!それ未来に聞かれてません?!」
「あ、大丈夫大丈夫、無理やり意識の底に押さえつけてるから」
「えぇ…そんなこともできるんですか?」
「神様だからね」
「そんで?どうなの?」
「え、えっと」
「あっやば!拘束振り切りきそう!また今度ね!」
「あっちょっと!」
っはぁぁぁ!何とか意識取り戻せた。
「あいつしばらく甘いもの抜きだな」
「あ、未来」
「摩耶に変なことされないか?」
「されてないよ」
「んじゃ、教室帰ろうか」
「そうだね!」
そうして、まだまだ体育祭は続くのだった…




