#44 動I〜sports festival I〜
なんやかんやあり、体育祭当日。
うちの体育祭は予選で2試合し、2敗なら梅、1勝1敗なら竹、2勝なら松の本戦リーグに行くことになっている。
そこで俺たち男子バレーボールは予選リーグを2勝し松リーグへと駒を進めた。
さらに月乃が女子バスケットボールで同じく松へ、芽衣と紗綾は惜しくも竹リーグのバレーとなってしまった。
「いや〜色々あったな」
「ほんと、まさか貴方がここまで成長するとは思わなかったわ」
「俺自身もブロックで2点もとるなんて思わなかったぞ」
「そういえば月乃ちゃんも松リーグでしょ?」
「そう…だけど緊張する」
「確かに口調が前の時に戻ってるもんな」
「しょうがない…一年で松リーグまで上がるとは思わなかった」
「このまま優勝を掴み取ろうぜ!」
俺は手を突き出し月乃を鼓舞する。
「うん!」
「じゃ、俺は春香のバレーボールでも見てくるよ」
教室を出ると、廊下に見知った顔を見つける。
「はぁ...何の用だ」
「――”ハングリー”」
目の前に立っていたのは鹿島夏海...春香の妹にして”偽名”の一人、ハングリーでもある少女だ。
こいつとは一度だけ戦ったことがあるが物理攻撃以外をハングリーの名の通り食らいつくす能力、”暴食”を持っているため苦戦を強いられた。しかしその時は絶大な魔力を使って食らいつくせる限界まで魔法をぶつけ続け突破した。
「そろそろお姉ちゃんをこっちに渡してもらいたくてね」
「はん!お前がその組織抜けたら考えてやるよ」
「...やっぱりそうなるのかぁ」
夏海がため息をつき首を回す。
まさかここでやる気か?そんなことしてもこいつにとってはなんの得にもならないはず…
「じゃあ力ずくで行かせてもらうよ!」
指をパチンと鳴らすと天井に渦が生成される。
この渦はスプリングが出てきた渦と同じ…ってことは誰か増援を呼んだのか?
誰がきても俺が辛いのは変わらないんだが…
≪私がいるの忘れてないわよね?≫
おっと?一気に勝ち目が見えてきたぞ?
「来なさい!魔晶獣“銀河の斧”!」
「“銀河の斧”?」
すると渦の中から甲冑を着た騎士が現れ、その右手には群青の中にまるで星空のように金色の装飾が付け足されている戦斧を握っている。
パッと見た感じで攻防ともに強力な個体であることが窺える。摩耶の糸を断ち切られる可能性も視野に入れながら戦わないと少しの油断で首を切り落とされる。
「面倒だな」
無言のままこちらへと斧を振るってくる“銀河の斧”。
すんでのところでバックステップで回避するが壁には大きな斬撃痕が残されている。
さらに今の一撃は俺の首を確実に切り落とすたまに振るっていた。
「じゃあ私はお姉ちゃんのところに行ってくるから、相手よろしくね」
その言葉を受けこくりと頷き、再度斧を振るってくる。
「待ちやがれ!」
「幻象魔法“衝撃砲”!」
摩耶の糸で無理やり魔法発射用の機構を編み、そこから青白い光線を放ち足止めしようとする。
「貴方私の能力忘れちゃった?」
「やっべ!」
夏海の口へと“衝撃砲”は吸い込まれていく。
「じゃあ、せいぜいその子と踊ってるのね!」
追いかけようとするが斧が俺のことを襲ってくる。
「まずはお前をなんとかしないとな」
夏海の方から反転して魔晶獣へと向き直る。
「擬似・魔神装!」
擬似神・髑髏を使うのはトライクリスタルの暴走のことを考えると控えた方がいい。だから摩耶に同じものを俺と摩耶の魔力と神力を原動力として同じものを糸で編んでもらう。
「さぁて、一撃で終わらせるしかないよな!」
胸部へと魔力を集中させる。
「あの時と同じ“あれ”が使えるわけじゃない」
「だけど俺の出せる最大火力で押し切れば!」
魔力を集中させている最中にも“銀河の斧”の攻撃は止むことなく俺の首を狙ってくる。
それを避けながらどこに撃ち込むかを考える。仮にトライクリスタルを外せばおそらくこいつは一定時間後に再生するだろう。最初にあった“栄光ある勝利”は全身を姉貴が砕いたからどうにかなったが…今回はそうは行かない。今の俺が出せる火力ではせいぜい体の一部に風穴を開ける程度で精一杯だろう。その威力で的確にトライクリスタルを撃ち抜かなければいかない。
「ええい!せめてトライクリスタルが見えさえすればいいんだ!」
「喰らえ!“擬似”フレイム・ブラスター!」
胸部から熱線が放たれ、“銀河の斧”の中心に風穴が空く。
その空いた風穴からはトライクリスタルを視覚で捉えることはできない。
「失敗したか…?」
そう思った次の瞬間、“銀河の斧”の体がどんどん結晶化していき、最後には砕け散った。
「ふぃ〜…助かった」
≪本当だよ…首狩られるんじゃないかって心配だったんだぞ≫
「悪い悪い、それよりも早く春香のところへ行かないと!」
確か女子バレーは第一体育館だったよな。
「摩耶!ブースターと翼編んでくれ!」
≪オッケー!≫
「さっさと飛んで行かないと!」
♦︎
「なんとか勝てたわね!」
私――鹿島春香は女子バレーの一回戦を終え、クラスの子達と喜びを分かち合っていた。
「そうだね!さっすが春香ちゃん!」
「それほどでもないわ」
「かっこいい!」
いやぁ…にしても16-14でギリギリって感じね。
なんて考えていると
「春香ちゃん、なんか妹さんが来てるみたいだよ?」
「え?」
「お姉ちゃん!」
「夏海…どうしたの?」
みんなの前で疑うような動きはできない…考えたわね。
ただこの空間は魔法も能力も使えない…じゃあどうやって私を――
「じゃあね」
そう小声で言ったかと思うと一気にこっちに近づいてくる夏海。
「なにを――」
♦︎
「見えた!体育館!」
全力で加速して、体育館の入り口に入る。
「やめろぉぉぉ!」
しかし体育館の中に入った次の瞬間
「――え?」
翼とブースターが消失し、俺は地面に叩きつけられる。さらにブースターの推進力はまだ残っているため急には止まれず地面を滑っていく。
「んな?!」
その推進力のまま夏海にぶつかり、なんとか止める。
「あっぶねぇ!」
「春香!無事か?!」
「な、なんとか」
「それよりも貴方の怪我が気になるんだけど」
「んなもんここから出れば治る!」
春香の手を引き、体育館から外に出ようと走る。
なんか春香は少し恥ずかしそうにしているがそんなに恥ずかしいか?これ。空飛べないし、何故か摩耶の糸も使えないし消えちゃったしでここから脱出するためにはこうやって手を引いて走るしかないんだよな。
「よし!体育館を出れた!」
そうして体を反転させ、体育館に向き直る。
「夏海を助けるためにはあいつの体の中にもあるであろう石を取り除くのと洗脳状態を解除しないといけないんだが…なんかいい案ある?」
「あると思う?」
「だよな」
予知さえできれば摩耶に紡いでもらうんだが…どうする…
「中々やってくれたじゃない?」
「案外早い復帰だな」
「結構飛ばしたと思うんだが」
「あの体育館から出れれば回復ぐらい受けられるのよ」
もう1人いるのかよ…面倒ごとが増えたな。
「なぁ摩耶、あいつの腹掻っ捌いたとしてお前治せる?」
「勿論トライクリスタルと洗脳状態以外な」
≪いや…できると思うけど正気?≫
「いやでもそれぐらいしないと無理だぞ?」
「昔は美波がこんなこともあろうかとつってスキャナー的なのくれたんだろうが…」
「あら?よくわかってるじゃない」
上から見知った声がしたので見上げると体育館の屋根に美波が両腕を組み立っていた。
マントがはためいているからか妙に様になっている。
「よっ!」
美波がくるくると回りながら地面に降りてくる。
「かっこいいわね…」
春香さーん?こんなのに憧れたら絶対ダメだよ?ほんとに…
いや、春香なら案外様になりそうだけども。
「はい、これ」
小さなチップのようなものを手渡してくる。
「これは?」
「擬似神・髑髏への追加アタッチメント…的な?」
「的なってどういうことだよ…」
「これをブレスにつけると相手のクリスタルの位置がわかるのよ」
「勿論オンオフできるわ」
「でも髑髏を使うのは…と言いたいけどあいつを助けるならこれしかないよな」
愛華の父親にぶっ放した艦砲射撃は目標が小さすぎるし、古都で切り裂くのもありではあるけど分離したもう1人の夏海と連戦だもんな。
「わかった、これを使おう!」
「頼むわ」
「大地、お願い!夏海を助けて!」
「任せておけ!」
左腕を天に掲げ、叫ぶ!
俺を魔神へと戻す一言を!
「魔神装!」
体が光に包まれ擬似神・髑髏を体に纏う。
「1.5次改装ってとこかしら?」
すごく自慢げに美波が言う。
「貴方…やっぱり美空大地なのね」
「なら今のうちに始末させてもらうわ!」
「どっからそんな自信が湧くんだか…これを纏った俺を止めれるやつはそんなにいない!」
うん…多分美月には普通に負ける自信がある。
だから最強ではないんだよな。
「さぁ!行くぞ!」