#43 憩〜Peace〜
「まっさか今日の体育が体育祭の練習になるなんて誰が予想するんだよ」
昨日体育祭の種目決めが終わり、決まってからの最初の体育がまさかの体育祭の練習だった。
俺たちが使う体育館は九十九たちの超技術によって能力・魔法が使えないようになっているため自分の純粋な身体能力が試される。
しかしこの世界にいる妖怪なんかの身体能力は妖力によるものが大きくこの空間の中では人間と多種族の間では違いはないようになっている。
という説明を春香から聞いたがやっぱりにわかには信じがたい。能力や魔力・妖力の原理は解明されているとはいえ無効となるとすさまじい技術力が必要なのだが30年でそこまで科学力が進歩するとは思えない。
「ま、考えるだけ無駄か」
「なんだ?考え事か?」
じゃんけんで3人残った時の背の高い男子が話しかけてくる。
「え~と」
「おいおい...クラスメイトの名前を忘れないでくれよ」
「俺は木野優、よろしくな」
「あぁ、よろしく!」
「つーわけで女子連中との試合なわけだが...未来は経験あるのか?」
「3...年前に友人とやった程度かな」
「まじか...とりあえずサーブ撃ってみろ」
「おっけ~」
そうしてアンダーサーブの構えをとる。
「どうやるんだったか...な!」
サーブをするとガシャーンっと天井の金網にバレーボールが当たる音がする。
「ありゃ?」
「未来ってもしかして...運動音痴?」
「悪かったな...」
運動なんて何回か常識として九十九たちとやったことぐらいしかないし。
「と、とりあえずレシーブもしてみるか」
「打ってきていいぞ〜!」
優がそう言うと月乃がサーブして2セット目が始まる。
「よし、未来!」
「えっと…たしか!」
両腕を合わせ、アンダーレシーブを腕を振ってする。
「あっ馬鹿!」
優のそんな声が聞こえたかと思うとボールはあらぬ方向へ飛んでいってしまう。
「レシーブはただ両手を合わせるんじゃなくて高さも合わせる!あと腕は振らない!」
「は、はい…」
知らないって!やったことほとんどないんだから!
「体育祭までにせめてレシーブぐらいはできるようにしないとな」
「面目ない…」
♦︎
「まさか未来が運動音痴とはねぇ〜」
「いや、昔は色々大変でバレーボールなんてやったことほとんどないんだよ!」
「それにしてもあのノーコン加減を見ると…ねぇ?」
笑いながら芽衣が煽ってくる。
結局体育の授業中レシーブしたボールは一つもコート中に入ることはなかった。それどころかチームメイトにすら当たりかけたボールもあり、みんな呆れていた。
「コートが小さいのが悪い」
「貴方はまず腕を振らないのを意識しないと」
「ふぐぅ…」
「まぁでもブロックは多少はできてたから許してあげなよ芽衣」
月乃が庇ってくれる。
「月乃〜」
「でもまぁあんな感じじゃあ…ねぇ」
「急に裏切るのやめて?!」
「未来って今日の放課後空いてる?」
「あ〜悪い、春香と帰る約束してんだわ」
「先輩と?」
「あぁ」
急に芽衣と月乃が顔を合わせて何かを喋っている。
一体なんだ?
「やっぱり先輩とできてるのかしら?」
「いやいや…未来に限ってそんなこと」
「でも妙に仲良いじゃない」
「やっぱりあのスーツ見てるから監視のためとか?」
「どっちにしろ問いただす必要がありそうね」
何を話してんのか普通に気になるな。
「2人とも〜何を話してるんだ〜?」
「未来は春香さんとどういう関係なの?」
芽衣がそう聞いてくる。
「う〜ん…」
そういや月乃には説明したけど芽衣には説明してなかったな。月乃にも…あれ?そういや説明してなくね?
連中が追撃に転移してくるかも的な話はした覚えがあるが…あれ〜?
「う〜ん…」
“偽名”連中のことは詳しく伝えられないしな。
「う〜ん」
「悩みすぎじゃない?」
「そんな言い淀むような関係なの?」
「そうじゃねぇけど…」
「…恩人?」
いやでもこれ上から目線すぎるか?
「なるほど?」
「とりあえず今日は私達も一緒に帰るから」
「私も?!」
「いいじゃない別に」
「はぁ…春香に聞いてからな」
ただでさえ春香だけでも気使うから疲れるのにそれが3倍かぁ…今日は襲撃とかなしで頼むぞ、まじで。
♦︎
「な〜るほどね〜」
「ま、いいよ」
放課後、春香に説明したらどこか納得した様子で頷きながら了承してくれた。
「でもいいんですか?先輩」
「2人で帰りたかったりしません?」
月乃が春香に尋ねる。
負担が増えるから2人でって言ってくれないかな…
「別に〜?」
「それよりも2人で帰りたいのは月乃ちゃんだったりしない?」
「そんなことないです!」
「本当に〜?」
「怪しいですね、鹿島先輩」
「そうよね」
「だから違うって!」
「別に未来と帰りたいわけじゃないから!」
月乃が必死に否定する…そんなに必死にならなくたっていいじゃん。
「酷くね?」
「ほら、帰るわよ」
クスクスと笑いながら先頭を歩く春香。
月乃の前だと本当にリラックスしてる感じだな。
俺たちの前だとやっぱり気を張ってんのかな。
「危ないっての!」
俺が急いで追いかける。
「お前はもう少し危機感をだな…」
「でも、また守ってくれるんでしょ?」
「そりゃダチを守るためだしな」
「貴方って優しいわよね」
「うっせ」
「つーか夏海からはなんも接触とかないのか?」
「ないわね」
「学校でも顔合わさないし」
「でもあいつら諦めるようには思えないよな」
「そうよねぇ...」
「何の話してるの?」
「まぁ、な」
こいつらがいるとおちおちアンノウンの話もできんな。
「私達には話してくれないのね~」
「ごめんて」
4人で帰る帰り道はとても賑やかで、やっぱり平和にはなっているんだなとしみじみ実感する。
30年前のあの頃はこんなに笑顔があふれていなかった。
「はぁ~やっぱり平和が一番だよな」
「未来ってよくそれ言ってるわよね」
「いや~だって30年前までは魔族との戦争真っただ中だったんだぜ?」
「昔はこんなに笑顔はあふれてなかったから感慨深くてな」
「昔は...?」
「えっと、映像とか見ると悲しんでる人ばかりだったからな!」
危ない危ない、普通にあの頃感じてた内容を言ってしまった。多分だいぶ疑われてるんだろうな。
「体育祭、楽しみだな〜」
「急に話題変えるわね」
「いいだろ?別に」
春香に呆れたような目で見られる。
だって話題変えないとボロが出るような気がしたんだもん!しょうがないもん!
「でも私は憂鬱だな〜」
「月乃は苦手か?」
「うん…運動があまり好きじゃなくて」
月乃って案外なんでもこなすような気がしていたから少し意外だった。てっきり体育祭も無双してるもんかと思ってたな。
「意外でしょ?未来」
芽衣がニヤけながら俺に話しかけてくる。
まるで感想を言えとでも言わんばかりににやけている。俺が感想言ったところで『そうなんだ』としかならんだろうて。
「まぁな、親近感が湧いた」
「親近感?」
月乃が不思議そうな顔をしてこちらをみる。別に何も変なことは言ってないと思うんだが。
「あぁ、なんでもできるように見えてできないこともあるんだなって」
「そ、そう?」
なんか照れてる気がする。
しかし今ので照れる要素なんてあったとは思えないんだけど…女子ってほんとにわからないな。
でも照れてるってことはこの回答は正解のように見えるしまぁいいでしょう。
なんて自分で納得していると春香に話しかけられる。
「ねぇ、未来」
「どうした?」
「なんかがこっちに来てる気がする」
「Unknownか?」
「どうだろう…わからない」
はぁ…結局平和な日ってのは少ないんだな。
月乃と芽衣を巻き込むわけにはいかないからここから離脱しないといけなくなったな。とりあえずなんか適当な理由をつけて一旦道を変えるか?
でも理由が思いつかない上に何を言っても怪しまれるような気しかしない。
あと今の俺にまだ戦闘能力がない以上は逃げながら妨害するような戦い方しないといけないな。
なんでこんな面倒なことに…
「…あれ?」
「どうした?」
「急に遠ざかってく」
「遠ざかる?」
「うん、なんか急に進路を反転して元いた場所に戻ってくみたい」
「ならいいが…警戒はしとくか」
「2人ともまた内緒話?」
月乃が少し寂しそうな顔をしながら質問してくる。
まぁ4人で帰っているのに2人で話してるのは良くないもんな。
「ま、私たち仲良いからね!」
春香が肩をガシッと掴みながら月乃ににっこりと笑う。
「いでででで」
「お前馬鹿力すぎ!」
「失礼な!私だってか弱い女の子なのよ!」
「剛腕なんて能力持ってどこがか弱いだよ!」
「ひどぉ〜い」
「ほんとよねぇ」
「今度はお前らが組むんかい!」
そうして俺は平和を噛み締めながら帰宅するのだった…
♦︎
「さっきの、なんで戻らせたの?」
青い長髪の少女は金色の短髪の少女に尋ねていた。
「なんでって…貴方気づかなかったの?」
「気づくってなにによ」
青髪の少女は不思議そうに尋ねる。
「あの子、多分“適応”したわ」
「まさか…だってあれはあの方の封印魔法よ?!」
「2年も経てば“適応”できるみたいね」
「あの方も気づいているでしょうから、みんなに連絡してちょうだい」
「わかったわ“エクスプロード”」
♦︎
「あ〜大変だった」
「まさかこんなにかかるなんて思わなかったね」
≪本当だな≫
ある洞窟で1人の少女が不敵に笑うのだった…




