#4 晶~crystal~ 前編
「じゃあ歴史の授業してくぞ〜」
あの戦闘の後、対戦相手の生徒は早退して行った…なんかごめん。
「さて、現代の範囲として外せないのは魔族との戦争だな」
「そして何よりも英雄として有名なのが」
「魔神、美空大地だな」
俺のことかぁ…どんなふうに伝わってるんだろ。
「あいつ――げふんげふん、美空大地が英雄と言われるようになった最大の戦いがある」
「それが我々の拠点を100人の下級、100人の中級、100人の上級魔族が確実に潰すために襲来した戦いだ」
「あの時、戦力は別の地点に送り出していたため、自衛力はほぼなく、勝ち目はなかった」
「そこで美空大地がきたわけだが」
「実際の映像を見てもらおうか」
DVDを再生機器にいれ、再生する彩音。
「大地!この数は流石のあなたでも無理よ!」
「俺に不可能はない!」
そういやこの頃の俺ってなんか自信過剰というか、そういう風に見えるよなぁ。
まぁ実際はみんなが不安になるから気丈に振る舞ってただけなんだけど。
「ふぅ…いっちょやりますか!」
紅の翼を広げる映像内の俺。
懐かしいな、と思ってしまう。
平和が一番なんだけど、戦いも悪くなかったなぁ…
ま、模擬戦でも十分楽しいけどね
「かかってこい!俺が全員引き受けてやる!」
そうして飛び立ち、映像内の俺は
「ブレイズブラスター!」
熱戦を放ち、軍団の正面に風穴を開ける。
「さらに!」
「クロスミサイル!」
指先から弾幕を放ち、次々と魔族を倒していく。
「フリーザービーム!」
今度は冷凍光線でどんどん凍らせていく。
「叩き落としてやる!」
複数の弾幕が映像内の俺に放たれるが
「おぉっと!そんなの喰らわないぞ!」
翼を羽ばたかせ、避けながら地面へと急降下する。
「バカめ!わざわざ私たちに近づくとは!」
「ハデス!」
全身が赤く輝き始める。
「真紅撃!」
錐揉み回転しながら正面に立ち塞がる魔族を貫きどんどん数を減らしていく!
「このぉぉぉ!」
「クロウ・スパーク!」
漆黒の光線が複数箇所から放たれ、1発あたり、体勢を崩した瞬間、さらに大量の弾幕と光線が飛んでくる。
「ぐっ…ぁぁぁ!」
墜落してしまう。
「とどめよ!」
魔族たちがリーダー格にエネルギーを送り始める。
「必殺!」
「グラビティ・ショックウェーブ・カノン!」
圧縮された重力波が放たれる――
「やった!」
魔族が勝利を確信したのも束の間
「何が…やったって?」
重力波を吸収しながら立ち上がる俺の姿があった。
いや、流石に俺怖くね?こんなんされたら味方であっても恐怖だぞ。
「ば、馬鹿な!何故それを喰らって無事でいられる!」
「忘れたのか?俺には吸収と再生がある」
「まともな攻撃じゃ堕ちないぞ!」
「俺を倒したいなら美月純を連れてくるんだな!」
「みんな!もっと私に魔力を!」
そうして重力波のエネルギーがどんどん上がっていく。
「そんなもの!お前らの魔力ごと!」
「吸収してやる!」
「うぉぉぉぉぉ!」
「このぉぉぉぉ!」
重力波を全力で放つ魔族と全力で吸収する俺の我慢比べが始まった。
「なんてパワーだ!並の物体ならとっくに光になってる!」
「ぐっ…がぁぁ!」
「魔族!死ぬ気か!」
「我らが美月様のたまに死ねるなら!」
「本望だぁぁぁぁ!」
「あとで絶対生き返らせてやる、絶対に!」
「何を言っている?!」
「敵だろうが味方だろうが死んでいいやつなんてのはいないんだ!」
「紫苑の前じゃ言えないけど」
「本当はこんな戦争早く終わらせて、みんなで仲良く暮らしたい!お前ら魔族とも!」
「何をぉぉぉ!」
「黙れ黙れぇぇぇぇ!」
「消え去れぇぇぇぇ!魔神・大地ぃぃぃ!」
重力波がより強まる。
「見てろ…必ず魔族と人間の和解をさせてやる!」
「だからすまん!」
魔力と重力波を吸い取った俺が取った行動は
「せめて安らかに眠れ!すぐに起こされても怒るなよ!」
「グラビティ・ショックウェーブ・カノン!」
同じ技を繰り出すことだった。
「な、何故お前が?!」
「吸収したんだ、出し方を理解してもおかしくはなかろうて!」
「し、しまっ――」
「光になれぇぇぇぇぇぇ!」
300の兵を全て光へと変えてしまう。
「ったく、よく重力波で光の粒子にしようなんて思いついたな」
「この戦いの後、万全の準備を整えて最終決戦に望んだ大地は、あるものを見たと同行した有芽と里紗は語った」
「それはなんだったのか」
「は、次回の授業だな、今日の歴史はここまで!」
そうして授業が終わり、みんな各々が休み時間を過ごす。
「すぐに授業が始まっちゃって言えなかったけど、未来って凄かったな!」
「そうそう!岩井さんを倒すなんて!」
「あの闇ってどうやって出したの?!」
「あの闇は武器の力でね」
「あれは銃と斧だけじゃなくていろんな使い方があるんだ」
「ま、使える人は少ないけど」
「へぇ〜!」
「そう言えば淡沢さんとはどういうところで知り合ったの?」
「あぁ、昨日たまたま襲われてる女性をみて思わず飛び出しちゃったんだ」
「でも俺の能力って治りがいいだけじゃん?」
「だからどうすることもできなかったんだけど」
「そこを淡沢さんが助けてくれたんだ」
「へぇ〜!」
「あん時は本当にありがとうな」
「ん」
すごい静かでおとなしいな。
「月乃ちゃんはちょっと人見知りなんだよね」
「あぁ、まぁ特に転校生の俺とかは余計あれだろうから、極力迷惑はかけないようにするよ」
「あ、そろそろ授業始まるよ!」
「おう」
その後俺らは数学、国語、生物、英語と授業を受けて放課後になる。
「はぁ…謝りに行くかぁ」
そう言ってバッグを背負い、あらかじめ彩音から聞いた家に向かう。
「これ絶対怒られるじゃすまないよな」
「一応菓子折りは持ったけど」
ドアの前にたつも、少し緊張する。
ふぅ…と息を吐き意を決してインターホンを押す。
「は〜い」
お母さんらしき人がドアを開けて応対してくれる。
「えーと、クラスメイトの如月未来です…」
「今日は本当に申し訳ありませんでした!」
思い切り頭を下げる。
「え、え〜と?」
「じ、実はですね」
ことの顛末を説明すると
「すいません!うちのバカ娘が!」
「え、いやいや!こっちもやり過ぎちゃいましたし」
「多分自分が認めてもらった月乃って子と仲良くなったのに嫉妬したのかも…」
「あ、これお詫びの品です…ほんとにすいませんでした!」
そう言って部屋を去り、エレベーターを待つ。
「いやぁ、これ俺やばすぎだよな」
そう独り言を呟いていると
「ちょっ佳奈!何して?!」
叫び声が聞こえてくる。
「なんだ?」
右を見たのも束の間、目の前から岩が飛んでくる。
「あっぶねぇ!」
すんでのところで回避するが、エレベーターのガラスを割ってしまう。
「あ〜あ、修理費やばそうだな」
「如月未来!」
「もう一度私と…」
『勝負しろぉぉぉ!』
「うぇっ?!」
岩井佳奈の身体がどんどんと変化していき、騎士のような姿になっている。
そして体の一部から結晶が生えているのが見える。
「へぇ…これがお前の力か?」
『あの方にもらった、無敵の力よ!』
「無敵、ねぇ」
俺は懐に手を入れ
「そう聞いてそそらない戦士はいないな!」
「ツインブラスター!」
二丁の拳銃からビームを放つ!
『効かないわ!』
そう言ってものともせずに突っ込んでくる佳奈。
戦斧形態へと変化させ、全力で薙ぎ払う!
『おっと!』
バックステップで避けられる。
「ちっ」
まぁこれで近距離なら効きそうなことがわかったな。
『はぁぁぁぁ!』
「しまっ――」
思い切り突進され、壁を壊して外に出てしまう。
「ガハッ!」
「痛すぎ…やっぱあの頃の俺は異常だったんだな」
『独り言は済んだかしら?』
「お前、なんでそんな姿になったんだよ!」
『本当は前から手に入れてたのよ?』
『でも正々堂々闘おうと思って使ってなかったの』
『でも』
『あなたにはどんな手を使ってでも勝ちたいと思ってしまったから!』
「光栄だね」
『――栄光ある勝利』
「は?」
『それがこの鎧の名前』
「へぇ、洒落てんじゃん」
『さぁ、無駄話はここまでにして』
『構えなさい』
「ったく、しょうがないな!」
立ち直り、斧を持って突進する!
『愚かね!』
こちらへ手を向けおそらく岩石を繰り出すつまりだろうが
「いいや!愚かなのはそっちだ!」
「ハデス!」
≪無茶しないでよね!≫
体が一時的に赤く光る!
「はっ!」
サイドステップで岩石を目視で避け
『しまっ!』
『で、でもこの鎧の防御力ならば!』
「真紅撃!」
斧も真紅に輝く!
「狙うは一点!」
『まさか?!』
「削り取る!」
スプーンでアイスをすくうように、斧で結晶をすくい削り取る!
『グッ…ガァァァァ!』
その瞬間体がすごい勢いで元の佳奈の姿へと戻って――
「んなっ?!」
結晶が勝手に動き出す。
パキパキと音を立て、新たなボディを形成していく。
「おいおい…第二ラウンドは聞いてないって」
≪いったん解除するぞ≫
「いや、このままいく!」
≪正気か?!≫
「佳奈の母親が様子を見に来ることに賭ける!」
『キサラギ…ミライ』
『アノカタノメイニイイテ…キサマヲメッスル!』
「滅されんのはお前だ!」
そうして龍の形となった栄光ある勝利へと向かっていく!
「一撃で仕留めるしかない!」
「冥府の――」
次の瞬間
「ぐっ…!」
≪だから解除するって言ったのよ!≫
≪んもう!≫
床に倒れてしまう。
「ちっ…」
「能力を失った影響ってのはやばいな…」
『トドメ、ダ!』
「くっ――」
思わず目をつぶる。
『グッ…ガァァァ!』
「――え?」
「まったく、大地はすぐ無茶するんだから」
「姉貴?!」
姉貴――美空乃蒼が、そこには立っていた。