#31 休~rest~
「ふわぁ~今日は休日かぁ~...」
俺――美空大地は寝ぼけ眼をこすりながらそんなことを言う。
「うっし、まずは着替えないと」
クラスメイトと先輩が止まっている以上普段の休日見たいなだらしない格好はできないからな。
「…そういや俺の普段着よく残ってたな」
30年前に使っていたパーカーが当時そのままできれいな状態でタンスにしまってある。
普通なら捨ててると思うんだが…気にしないでおくか。
「さて、飯を食いにおりますかね」
部屋のドアを開け、一階の食堂へ向かう。
♦
「すいません朝食もお世話になってしまって」
月乃が九十九に謝っている...別に九十九はやりたいと思ったことをやるタイプの奴だからな。
「いいのよ、それよりもあなたの活躍は私の耳にも入ってるのよ?淡沢さん」
うん、いいって絶対言うと思った。
「えっそうなんですか?!」
「そりゃ中学の頃からすごい強かったじゃない」
「いや、確かに異能大会で優勝したりはしましたけど」
「やっぱり月乃ちゃんってすごいよね~」
おっ春香も褒めてる。
「春香先輩まで…」
「それよりも私は未来のあの異常な強さが気になりますけどね」
「俺はただ生まれつき魔力量がけた違いに多いだけだぞ?」
「それだけであんな強さになるんだったら…」
言いかけた言葉を飲み込んだ後。月乃は
「いや、あんな強さになるね」
「霧雲紗綾さんの能力は確か」
「”魔術”」
「あの能力って聞いたときはさすがに私たちも驚いたわよ」
「人より扱える魔法の種類が増えるだけ」
「理紗と同じ能力だな」
「あの能力は保有者の魔力量で強さが決まる」
「幸い二人とも魔力量が俺ほどとはいかないにしろ多かったからあんな化け物じみた力を持てているんだが…」
「そう考えると魔法がたくさん使える未来も強い…のかな?」
あっぶねぇ~長年の戦闘経験からの立ち回りだって言いそうになった…正直な話相手が大体どんな行動をとるかは予想つくんだが、やっぱり正面切ってタイマンすると火力が高いやつには今の段階だと負けるんだよな。
というかこの再生がチート過ぎるんだよな。
もしあの頃ぐらい強いなら頭の半分が吹き飛んでも再生できるからなぁ…
「そんなことより、せっかくの休日なんだしどこかに行かない?2人とも」
「「春香(先輩)」」
春香からの提案に困惑してしまう俺と月乃。
昨日襲われたばっかだし、さらに狙われてるってのに大丈夫なのか?
「まぁ昨日色々あったし、息抜きは大事かもね」
九十九の言う通りなしではないだろうけれど極力狙われにくいのがいいよな。
「息抜きなぁ…なんかあるか?」
思案していると
「そういえば近くの映画館で30年前の作品のリバイバル上映をやるんだとか」
月乃がポツリと呟いた言葉に俺と春香は
「「それだ!」」
といい顔を見合わせる。
「ナイス!月乃ちゃん!」
「い、いやぁ〜それほどでも」
「んじゃあ決まりだな!」
そうして俺たち3人(+こそっとついてくる護衛の人たち数人)は映画館のあるショッピングモールへと向かう。
♦︎
「奴ら、映画館行くらしいぜ」
「ほんと?オーガ」
「あぁ、間違いねぇ」
「盗聴器から聞いたんだ」
それでも間違えるのがオーガ、と言いかけて飲み込むスプリング。
「今度こそ信じるわよ?」
「あぁ!」
いつも自分の鬼の力でなんとかしようとする癖さえ直せば強いのにと思うスプリングだった…
♦︎
「映画の内容は…探偵もの?」
「あ〜これか!」
首を傾げる月乃と正反対に、なるほどと首を縦にふる。
「未来、知ってるの?」
「あぁ!」
「これは名作でな」
「敵の能力で子供にされた探偵が色々な事件を解決してその能力者を探す話なんだ」
「この作品はマジでいいぞ」
俺は昔九十九に連れてってもらってからこの作品が大好きになっていた。
主人公が自分が死ぬかもしれないのにダムの氾濫を止めようとするシーンとかがカッコよくて気に入っていた。
「そんなに面白いの?」
「まぁ見てからのお楽しみってことで!」
ちなみに当時のキャッチコピーはラスト25分、見逃すな…だったかな?
そんなこんなで物語が始まっていく。
最初にこの作品自体のあらすじをメインテーマとともに解説する。
このメインテーマが映画ごとに違うのがまた面白い。
隣をみるとオープニングを聞いた時点でかなり興奮していた。
まぁ今の時代じゃ珍しいのかもな、この作品。
ストーリーが進むにつれ、どんどん明かされていく事件の真相、そして犯人の動機。
確かこの作品の犯人の動機はクズすぎるって有名だったっけか。
横ではそんなことで?と小さく呟く月乃と絶句して口を押さえる春香がいた。
うんうん、みんな最初はそう思うよな。
「…そろそろだな」
俺は小さく呟いた。
そう、ここから怒涛の展開が待ち受けている。
犯人の仕掛けた爆弾が停止しきれずダムが崩壊してしまうのだ。
そしてお人よしの主人公が電動スノーボードを駆りなんとか氾濫を止めようと急ぐ。
色々なハプニングを乗り越えつつなんとか目標地点につき、雪でダムの水の流れを変えることに成功した主人公だが、最後の最後で雪崩に巻き込まれてしまう。
この後の展開は、みんなが自分の目で確かめよう!
♦︎
「よかったねぇ…」
「ラストが最高すぎたぁ…」
春香と月乃が号泣している。
俺も初めて見た時は感動で泣いたからな、わかるわかる。
「さて、いい時間だし昼飯でも食いに行くか?」
「うん…」
涙が落ち着くまでは待ったほうがいいかもな。
「一旦そこのソファ行こうぜ」
落ち着かせるためにソファに連れて行く。
でも他の客もみんな泣いてたし埋まってるかな?
でもこの映画30年経ってもみんなを泣かせられるって神作よな。
「丁度2人分空いててよかったな」
なんとか2人を座らせる。
まぁ念の為警戒しとくか…仕掛けてくるならこのタイミングだよな。
「月乃ちゃん…今日の作品良かったね…」
「ほんとそうですよね…先輩」
さてさて、俺はいつまで1人で警戒してればいいんだか…護衛の連中すら泣きやがって。あいつら直撃世代のはずだろ?
結局俺が1人だけで警戒する必要がなくなるまで15分ほどかかったのだった…